「なんだよ、いまさらさっきの答えかよ。 「あれ、聞きたくなかったさ?」 ぶつぶつ文句を言う姫発の声は、天化がからかえるだけのいつもの軽みを含んでいる。 姫発の文句はまだ続く。 「しかもお前、実は俺の質問に今度も答えてねーじゃんか。 「今は違うってゆったさ。将来のことなんてわかるわけないのさ。」 天化の答えに姫発はわざとらしく溜息をつく。 「役に立たねえなあ・・・で?王ってなんだ、とも俺聞いたけど?」 「それは答えたさあ。俺っちは知らねえ、って」 「答えになってねーだろうが。ったく他人事だと思って」 「だって他人事さね。知らねえから知らねえって言っただけさ。」 「ほんと役に立たねえなぁ」 しみじみ言われると天化もむっとする。 「うるさいさ。だいたい俺っちに聞くのが間違ってるのさ。 「・・・」 それは天化の本音だ。けれど姫発が沈黙したので、 「姫昌さんの意識はきっと戻るさ。」 「・・・」 実際天化はそう信じている。太公望もそう見込んでいるのだから、 間違いないのだと思っている。 しかし姫発は沈黙を続けたまま。 天化はいぶかしみ、結局、尋ねた。 「どうしたさ?」 「・・・・・・やっぱ、聞かねー」 へ? ちょっと怒った声音にも聞こえる唐突な答えの意味を 一瞬天化ははかり損ねた。 けれど姫発が「やっぱ他人事だからな」と続けたのを聞いて納得する。 「そっか」 俺っちにも、親父さんにも、答えを聞かないさ? あーたって人は、どうしてこう無意識に、時々いかにも王サマなのさ? そして天化はひとつのことを決めた。 「なあ、発ちゃん。」 「なんだ?」 「俺っちは姫昌さんの臣下じゃないけど。紂王の臣下でもないけど。 俺っちはあーたを王サマって呼ぶさ。」 王って何かって、俺っちは知らねえ。それは王サマの考えることさ。 あーたは王サマになるのさ。だから考えてるのさ。 俺っちにはそれで十分だから、応援してやるさあ。 あーたはこの先ずっとひとりで考える。 考えてるなら、もしも答えが出なくても、あーたは俺っちの王サマさ。 姫発は「へっ」と呟いた。 余計なお世話だよ。でも、ありがとよ。 発は大きなあくびをした。 再び姫昌の部屋を見つめながら黙って何事かを考えていた彼は、
了
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