前を見つめる城のなか 4



「なんだよ、いまさらさっきの答えかよ。 さっきはそんなこと言うなって突っぱねたくせに」
「あれ、聞きたくなかったさ?」

ぶつぶつ文句を言う姫発の声は、天化がからかえるだけのいつもの軽みを含んでいる。 それが何とも嬉しかった。

姫発の文句はまだ続く。

「しかもお前、実は俺の質問に今度も答えてねーじゃんか。 俺は親父みたいな王になれんのか?って聞いたんだけど?」

「今は違うってゆったさ。将来のことなんてわかるわけないのさ。」
天化の答えに姫発はわざとらしく溜息をつく。

「役に立たねえなあ・・・で?王ってなんだ、とも俺聞いたけど?」

「それは答えたさあ。俺っちは知らねえ、って」
「答えになってねーだろうが。ったく他人事だと思って」
「だって他人事さね。知らねえから知らねえって言っただけさ。」
「ほんと役に立たねえなぁ」
しみじみ言われると天化もむっとする。

「うるさいさ。だいたい俺っちに聞くのが間違ってるのさ。 聞きたけりゃ親父さんにでも聞くさ。

「・・・」

それは天化の本音だ。けれど姫発が沈黙したので、 彼は幾許かの配慮を口にした。

「姫昌さんの意識はきっと戻るさ。」

「・・・」

実際天化はそう信じている。太公望もそう見込んでいるのだから、 間違いないのだと思っている。
しかし姫発は沈黙を続けたまま。
天化はいぶかしみ、結局、尋ねた。

「どうしたさ?」


「・・・・・・やっぱ、聞かねー」
へ?
ちょっと怒った声音にも聞こえる唐突な答えの意味を 一瞬天化ははかり損ねた。
けれど姫発が「やっぱ他人事だからな」と続けたのを聞いて納得する。
「そっか」
俺っちにも、親父さんにも、答えを聞かないさ?
あーたって人は、どうしてこう無意識に、時々いかにも王サマなのさ?


そして天化はひとつのことを決めた。
「なあ、発ちゃん。」
「なんだ?」

「俺っちは姫昌さんの臣下じゃないけど。紂王の臣下でもないけど。
俺っちはあーたを王サマって呼ぶさ。」

王って何かって、俺っちは知らねえ。それは王サマの考えることさ。
あーたは王サマになるのさ。だから考えてるのさ。
俺っちにはそれで十分だから、応援してやるさあ。
あーたはこの先ずっとひとりで考える。
考えてるなら、もしも答えが出なくても、あーたは俺っちの王サマさ。

姫発は「へっ」と呟いた。
余計なお世話だよ。でも、ありがとよ。


発は大きなあくびをした。
再び姫昌の部屋を見つめながら黙って何事かを考えていた彼は、 いつのまにか眠りにおちたのだった。




あとがき。

消化不良の感は否めませんが、ほんとうは101HitTENさまリク話の後半は こんな(↑)予定でした。
このあたりのコミックスを読み直していたら、 発が思いのほか姫昌を呆然と見つめていて、ちょっと驚いたのです。
発の紂王や姫昌との対比も含めて、どうしても 書かずにはいられなくなったのですが、 テーマが絞れず、無駄に長くなってしまって・・。
しかも王たちの対比も、発の姫昌への思いも中途半端に。
でも書きたかった。書けてよかった。ひとまず安堵。発ちゃん、がんばれ。

位階制もしくは官僚制に組み込まれていない一介の道士が王を王と呼ぶことに、 つい夢を見ましたのさ。

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