前を見つめる城のなか 3
 



すっげえ、いまさらな話だよな。
姫発は呟きを重ねていく。
王になるってことが、こんなに怖ぇって知らなかった。
ほんとついこないだまで、考えもしなかったんだぜ。

王がなにやってんのかなんて、よく知らねー。
まあ、なっちまえばなんとかなるだろ、と思ってきたしさ、 太公望や旦もいるからな。

だけど、さ。
親父があんな体で北の地に来て、向こうのヤツに頭下げるの見たときに。
俺、すげえショックだった。
でもさ、何がショックなのかはよくわかんねえんだ。
頭を下げることぐらい、俺にだってできる。
だけど違う。何かが、どうしようもなく違うんだ。 親父は王なんだって、すげえ思った。

何が違うんだ?
わっかんねえ。王って、なんだよ。
俺は親父やあんちゃんみたいに賢くねえ。
この俺が、親父みたいな王になれんのか?

はじめ遠くの部屋を眺めたままつぶやいていた姫発は、 最後には鋭く天化を見据えていた。
その瞳に喪失の悲しみというよりは苛立ちを天化は見る。
太公望が心配するのも無理はない。
発ちゃん、それじゃ眠れねえさ。


天化は言葉に迷わなかった。

「あーたは王サマになるさ」

この言葉が、いまこれだけでは姫発を慰めないことは重々承知しつつ、 それでもさらに畳みかける。

「で、姫昌さんとあーたは違うさ。」

自分の声はひどく残酷に聞こえるのかもしれない。 口にしてから天化はそう思った。
それは本意ではないのだけれど、心にも無いことを言うのは もっとできないことだった。
あーたを傷つけたい訳じゃない。 でも、嘘はあーたを楽にしないから。
天化は遠慮なく言葉を続けた。

「王って何かなんて、俺っちは知らねえさ。
でも姫昌さんはあーたと違う。
あの人は思慮深く、民を慈しむ賢人さね。
そんなこと俺っちに言われなくてもあーたはよく知ってるさ。」

悪かったな。
憮然とした声が微かに返ってくる。
天化は少し笑う。
発ちゃん、怒ったさ? だけどホントのことさ、あーたも知ってのとおり。
笑った天化の顔を見て、発はますますむっとする。

あーたと姫昌さんは別人さ。違って当たり前さあ。
俺っちはそう言っただけなんだけど。

そしてあーたも俺っちも知ってるようなこと、 姫昌さんが知らない筈はねえのさあ。
あーたが姫昌さんみたいじゃないからって、 姫昌さんが不安を感じてるはずないさ。

でもそんな風に分かりやすくは言ってやらない。
言葉を押し付けるような相手じゃないから。

笑い止め、天化は言葉を繋ぐ。
「紂王は、紂王陛下は、心が強くてそれで臣下を従える覇者さ。
俺っち見たことないけど、家でも、街でも、感じることはあるさ。
あの親父や聞大師が、そしてあーたの親父さんが仕えていた人さ。
それだけでもすげえ王さまだったのさ。」

姫発は怒りを収めたようだった。そして天化の表情を見据えたまま聞き入った。 言葉が尽きてもしばし視線を動かさない。
その視線は相変わらず鋭くて、天化も負けないように向き合う。
いつだって、発は言葉そのものよりも、言葉を語るひとそのものに心動かされる人間だから。
自分の気持ちが伝わるように、天化はまっすぐ向き合う。

姫昌さんと紂王は別人さ。だけどどっちもこのうえもなく王なのさ。
あーたと姫昌さんだって別の人。それでも王サマになれるさ、きっと。

言外の意は伝わったのか。
姫発はふっと吹っ切れたように苦笑した。




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