12星座の「悪夢」
牡羊:「走ってるのに全然進まないんだ」
追い掛けても追いつかない、追い掛けられても逃げられない
足が重くて、走ってるのに進まない
周りの景色は変わらず、息ばかりが上がって苦しい
おかしいな…いつもなら走って走って、すごく気持ちいいのに
なんで走るのかもわからないまま、ひとしきり走った
もうだめだー倒れる!!って思ったところで目が覚めた
汗でぐっしょり身体もぐったりで、喉が痛むほど渇いてる
息苦しくて窓を開けたら、まだ朝日が顔を出したばかりだった
風に当たりたくて窓から身を乗り出してみる
あー、朝練中の兄ちゃんが見えるわ……
すごくホッとして、兄ちゃんにおはよーと呼びかけて手を振った
牡牛:「声を掛けても通りすぎていく人ばかりで…」
いつもの通学路を歩いてたら、いつもの面子が歩いてきた
おはようと声を掛けても、何も反応しないで通りすぎる
どうしたんだよ?と、また声を掛けてみるが、無反応
そればかりか、みんな早足で歩き去る
こちらが早足になってもどんどん引き離される
彼らの名前を呼んでやっと振り返ったが
『遅いぞ』、その一言だけが戻ってきた
その言葉が俺の足を止め、彼らはそのまま消え去った
すでに追い掛けようという気持ちも消え、そこから一歩踏み出すこともできなくなった
そしてそのまま、不思議と静かな気持ちで目覚める
深呼吸をひとつ……身体も心も重い……
双子:「笑ってる!みんな笑いながら俺を無視する!!」
クソッ!!俺が話そうとしても、あいつら全員無視して笑ってるんだ
いつも一緒に話してたのにいきなりシカトかよ!!
俺なんかした?俺を無視してなんでそんなに楽しそうなんだよ?
お前ら何がそんなにおかしくて笑って……笑ってる?
…あいつら顔が無い…なのに笑ってるってわかってしまう
俺の方を見もしないで、みんな同じ顔で同じ声でゲラゲラ笑ってるんだ
……あれ?あの中の一人、俺じゃね!?俺だよ!!
いつのまに…一緒になって笑って……
いやいやいや…俺、なんで笑ってるんだよ、笑えねえよ
っていうか俺ここに居るだろ!!
怖い、怖い、怖い……なんなんだよ……!!
!?………びっくりした
眠ったまま叫んでたらしく、自分の声に起こされた
気持ち悪い夢……
蟹 :「大切な人が死んでしまう…」
僕にわかるのは、あの人が死んでしまうという事実だけで
なぜ死ぬのか、どう死ぬのか知らない
死ぬ、それを受け止めることができなくて泣き叫ぶ
なぜあなたが?やめてくれ、死なないでくれと懇願する
無理なお願いだとわかっていても、願わずにはいられない
あの人をつかまえて、何かを叫んでいた
いったい僕は何を叫んでいるんだろう?
そうだ、僕は悲しむよりも怒っているんだ
僕を残して逝こうとする彼が許せないんだ
それでも、あの人は死んでしまった
……どこからか時計の音が近づいてくる
そうだった、これは夢だ……目を、覚まさなきゃ……
夢だと自覚したらすぐに現実に引き戻された
ベッドに寝そべったまま、僕を夢から呼び戻してくれた時計を眺める
うわああぁ……しまった、今すぐ起きないと遅刻する…!
獅子:「誰も居なくなった」
放課後、生徒会の集まりがあった
俺が行かなきゃ始まらないと、意気揚々と乗り込んだ
みんな待たせたな、さあ始めよう!
そう呼びかけて部屋を見渡してみたが誰も居ない
なんだなんだ、どうしたんだ?
今日は全員集まれって、ちゃんと告知していたじゃないか
なぜ居ない!?集まる面子は決まっているのに
昔からの親友も、慕ってくれた後輩も、たびたび衝突していた先輩も
必ず居て当たり前の奴らがみんな居ない
こいつらだけじゃない、さっきまで聞こえていた校庭からのざわめきも消えた
俺の周りから全ての人が消えてしまったようだ
逆か…ここに居るのが俺だけなんだ、俺だけしか存在しないんだ
一人か?俺一人なのか?……嫌だ、独りは嫌だ!
狂いそうになって泣き出す寸前に飛び起きた
……そうだ、独りは嫌だ…俺一人では駄目なんだ……
昨日、『君は独善的だ』と怒られたことを思い出した
乙女:「身動きがとれなくて……」
自分の部屋の中で立っている
立っているだけなのに、何とかしないとって考えてる
部屋から出たいのか、それとも他の何かがしたいのか
それすらもわからずに考えている
考えているうちに部屋が縮んできた…このままではつぶされてしまう
どうすればいい、考えれば考えるほどわからなくなる
苦しい、苦しい……どうすれば……
部屋はもう身体にぴったりくっつくくらいに縮んでいる
苦しい!つぶされる…もうだめだ!!
ああっ!!……あ?……なんだ夢か……
毎日同じ時間に寝て同じ時間に起きるが、今日は眠った気がしない
……よくよく考えれば部屋から逃げれば良いだけの話…おかしな夢だった
だけど……俺の部屋、何ともないよな?
……思わず見回した自分が恥ずかしくなった
天秤:「知らない人と話しているんだけど…」
まったく知らない人達と話している
内容は…いかにも談笑中といった感じだ
意味さえわからないどうでもいい話、意味のない話
僕は話を聞きながら相づちを打ち、笑うだけ
それだけのことが延々と繰り返される
趣味の話、政治の話に株金融、映画や音楽、さらには漫画にアニメ
話題は尽きないが、どれもつまらないか信じられないようなムチャクチャな話
サボテンに塩をかけたらスイカになるって何だよ
まったく、仕事でもないのによくも続けられるものだ
だいたい僕がここに居る意味があるのか?
苦痛だ…いつも自分がやっていることが堪えられない
こんなことを繰り返して何になるんだろうか
山もなく落ちもない、右に行って左に戻る
話し続けている人達は本当に楽しそうに見える
それを見て、僕は自分がちゃんと笑顔で居られているだろうか?と不安になる
不安になって、ドクンと心臓が鳴ったことに驚いて目が覚めた
夢の内容に、今さら悲しくなってきた
蠍 :「暗い場所にいた」
最初は明るい場所にいたのに、急に暗い場所に引き込まれた
明るい場所……僕には眩しすぎるな……
そう感じた次の瞬間、僕は暗い場所に横たわっていた
真っ暗で恐ろしい場所、恐ろしいと感じさせる何かが居る場所
そいつは僕を見ている……僕もそいつを見ている
でも、どこに居るんだろうか?そいつの姿は見えない
ただ視線の先に気配を感じる、そいつの目はそこにある
恐怖で身動きがとれず、息を殺したまま見つめ合っているだけ
逃げ出したいのに怖くて目がそらせない…あいつは誰なんだ!?
……あ……来た…近づいてきた……来るな………来ないで……
…………………そろそろ目が覚めるな……………
…思った通り、また同じ場面で目が覚めた
毎日同じ夢を見るんだ、始まりも終わりも、毎日同じ場面の繰り返し
夜眠るのが怖い…夢を見るたびに、少しずつあいつが近づいてきているようで……
それでも僕は夢の中の何かがが誰なのか知りたい
今では夢から覚めても、あいつに会いたいって思うんだ
射手:「何かみんなに酷いことしたみたい」
酷いこと、恐ろしいことをしてしまった、みんなみんな傷ついた
何をしたのかわからないけど、僕が酷いことをした
そしてそのまま逃げた、最低だと思いつつも笑って泣いた
逃げたことで得られた安心感と罪悪感
後を振り返ることもできずに逃げていく
もう戻れない、こんなに離れてしまったんだから
僕はたぶん、これからずっと独りなんだろうということもわかった
そこで夢は途切れ、気が付いたら本当に泣いていたらしく枕まで濡れていた
そうだなぁ…実際、よくみんなを困らせる事はある
なのに、どんなことでもたいがい許してくれるから、僕も笑っていられたんだ
だけど本当はそうだったのか、許してはくれていないのか
そう考えて、やっぱり泣いたまま笑った
しばらくして泣くにも飽きた頃、あっ!と思いついてブラインドを上げた
窓越しの空を見上げてみると、すでに太陽は真上に来ている
寝過ぎだろ、俺……思いがけず学校さぼっちゃったな
……よし!天気も良いから遊びに行こう!!雨でも行くけど晴れててよかった
今日は誰にも会いたくない
山羊:「登っても登っても頂上に着かない」
見上げれば高い山、それでも登れば着くはずの頂上
だけど着かない、そればかりか遠くなる
降りようとも思わず、このまま登ることしか考えられない
感じるのは焦りと不安だけで自分がどこにいるのかわからない
休憩もとらず、疲れるという感覚もない
どうしたら頂上につくんだ?いつまで登ればいいんだ?
だいぶ焦ってきて、着かなかったらどうしよう!?と思い始め
たまらずに自分が登ってきた道を振り返った
ちょうど振り返った瞬間、目覚ましの音に起こされた
地味に嫌な夢だ……そもそも何で山に登ってたんだっけ?
夢の中では登らなくちゃ、登らなければいけないんだって
それしか考えられず、他に疑問も浮かばなかった
よく考えれば目的も思考せずにいたので、そういう意味では楽だったのかもしれない
起きてからもしばらく悩んでいたせいで、朝から疲れた……
水瓶:「何が足りない?」
組み立てようとした機械模型の最後の部品がみつからない
おかしいな、いつの間に無くしてしまったのだろうか
最後の部品を見つけられないまま、とりあえず組み上げてみた
当然動かない…と思ったら動き出した!さすが僕だ
人型のそれは元気に動き回り、そして奇妙な動きをしながらこちらへやって来た
やあ、僕がパパだよ!……うが!?ちょ、な……
襲ってきた、僕の首を絞めようとした……なんて恐ろしい子だ
最初から失敗作だとはわかっていたけど、あんまりだ
もう一度バラバラにして、今度は部品を完璧にそろえて完成させよう……
でもそれは、僕が分解する前に自分でバラバラになった
僕の目の前で悲鳴を上げながら自らを分解していく人型のソレ
何度も何度も痛々しい悲鳴を上げ、叫び狂って、そして静かになった
両手で耳をふさいだ僕の足下に散らばる様々な部品
……最後に拾い集めたそれらの部品は全部揃っていた
始めに確認したときに見落としは無かったはずだ
それでも部品は全て揃っていた……
呆然としたまま部品を眺めていたら目が覚めた
机に突っ伏して、作業中に眠りこけてしまったんだな……
机の上に目覚まし時計の残骸が散らばっている、僕が分解したものだ
奇妙な夢だった、あの足りない部品はなんだったんだろう?
考えながら胸の奥でキリリと痛む……ん、見つけた?
魚 :「助けて!って叫んだのに、見向きもされなくて…」
僕、溺れてるのかな…岸のすぐそばで、浮いてるような沈んでるような
波に揺られ、意識も感覚もぼーっとしてわからない
ここは海か湖か、大きな水たまりのようにも思える
あんまり苦しくないけど、僕は溺れてるんだろうなあ……
あー、岸辺に誰か居る!あの人だ!!おーい!
聞こえてるはずなのに、気付かないの!?おーーーい!!
あれ?身体が急に岸から離れだした!波も荒くなって本当に溺れてる!?
苦しい、流されていく……このままだとどこか遠くに流されちゃうよ!助けて!
こんなに叫んでるのに、あの人もこっちを見てるのに……どうして気付いてくれないんだ
助けてという言葉を、どれだけ繰り返したんだろう
僕の声が聞こえないの?僕の姿が見えない?
そんなわけないよね?僕はここに居るのに、すぐそばに居るのに
ひどいよ、僕を見つけてよ!!僕はここに居るんだ
あの人に助けを求めながら岸から離れていく、どんどん流されていく
どこに流されていくかわからない……どうしよう、怖い!
助けて…せめてあの人が手を伸ばしてくれたら、僕は……
……で、目を開けたらあの人が居た!やっぱり助けに来てくれたんだ!!
え?うなされてたから心配して起こしに来たの?
そっかぁ…ごめんね、もう大丈夫だよ
あなたがこの手を握ってくれれば、僕は大丈夫だから