■ 2 ■
「あれ? また殺しちゃったの?」
血の匂いが充満する室内には場違いな程明るい声が飛び込んで来る。
扉が開いた音はしなかったのだが、それも彼にとっては何時ものことだ。
‥‥もしかしたら自分が気付かなかっただけなのかもしれないが。
「‥‥あぁ」
彼の言葉に応える様に短く返す。
「今回は結構気に入ってたんじゃなかったの?」
血液を吸って重く纏わり付く絨毯を踏み分けながら、彼が隣に立った。
私の腕の中の存在に手を伸ばし、その緑の髪を撫でる。
その仕草に込められた想いは、もう奴には届かないだろう事を承知の上で。
「‥‥まぁな」
「今回こそは‥‥って、思ってたんだけどね‥‥」
彼の言葉に小さく頷く。
「次はどんなのが良い?」
「そうだな‥‥」
思案しながら、頬に付着した乾きかけの血を拭う。
抱き締めた肉体が次第に熱を失っていくのが伝わってくる。
「とりあえずこの部屋を片付けてくれる者だな」
「それぐらいならボクがやるよ?」
「いや、毎回お前の手を煩わせるのも悪いからな」
そう思うならもう少しコンパクトにやってよ、という彼の軽口を聞き流し立ち上がる。
支えを失った肉体が、床に作られた血溜まりに落ちる。
「またそうやって‥‥」
飛び散った血に彼は僅かに眉を潜めた。
それでも、今回は片付けなくても良いという思いのせいかそれ以上何も言わなかった。
「君も不運だったねぇ、アッスくん」
床に倒れ伏した奴の前髪を掻き揚げながら彼が呟いた。
その言葉には心底からの同情が込められている。
「行くぞ、スマイル」
「はいはい」
聞く耳持たない私に彼も巫山戯た様な返事を返す。
立ち上がり、来た時とは逆に血の跡を避ける様な足取りでついて来る。
「次もいいのが見つかるといいね。ユーリ」
「そうだな」
扉を開けてやると彼は身を翻す様に私の脇をすり抜けた。
隻眼の瞳は、既に次を見ているのだろう。
私は僅かに室内に目を向け、
甘い匂いの充満する部屋を後にした。
〜END〜
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というわけ氷疋かえでさんより賜ったアスユリ小説でした。
こんな痛くて切ないのを頂いちゃって・・・もはや平伏であります。
アッシュとユーリのお互いを想いつつもすれ違ってきた想いの顛末とでもいいましょうか。
最後のユリとスマのやり取りがむごさをよりアップさせているような気が。
死にネタはどういうのでも切なく、かつやりきれないッス・・・。
ありがとうございました〜!!
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