水の片鱗 

<作>坂田靖子
白泉社文庫

最初、「孔雀の庭」の彼とは気づかなかったです

パエトーン』に収録されている「孔雀の庭」で登場した、画商のマクグラン氏が主人公の作品。このマクグラン画廊シリーズが四篇、他に読みきり物の「春のガラス箱」が収録されている。どれも坂田靖子がよく手がけるイギリスものである。

表題作の「水の片鱗」はどこか「パエトーン」と同じ香りがする、決して得られぬものを追いかけ続けている男の話である。絵が安定している分だけ、こちらの方が読みやすいかもしれないが、多少話がわかりにくいかも。坂田靖子らしい、霧に包まれたような叙情性と哀愁が印象に残る佳作。絵が安定した時期で、彼女のシリアス路線の作品は珍しいのではなかろうか。まあ、ベック氏が登場しているので、「パエトーン」のようなマジメ直球勝負の作品ではないけど。

で、ベック氏とは誰か。マクグラン氏のお得意様の金持ちで、非常に人のいいおっちゃんなのだが、なにか形容しがたい性格を持った御仁なのである。こちら側の常識が通用しないとでも言うべきだろうか。模写の絵をさもオリジナルの作品であるかのようにして売られても、「結構いい絵の模写だったんだなあ。」と感心しているだけだし、新しくもらった奥さんは、寄席で蛇を飲んだりする曲芸師まがいの女性だし、美術館にはその奥さんのコーナーを造ってしまうのである。周囲は彼の行動にどう対応していいのかわからずオロオロしているのだが、彼はそんなことには気づかず、ただわが道を行く。管財人がついているところを見ると、彼はあまり周囲から金銭面での信用が無いのだろう。常識で考えて至極当然のことではあるけど。管財人であるアスキンズ氏の胃袋に穴があかないことを祈るばかりだ。

坂田靖子のシリアス路線とコメディ路線がかなりうまく融合した連作であると思う。二つの傾向がお互いを殺しあうことなく、うまく共存しているので、より坂田靖子らしさが感じられる内容に仕上がっている。完成度はかなり高い。

「春のガラス箱」は、孤独な少年と頑固な初老の夫婦が家族の絆を得るまでのお話。若社長の毒舌ぶりがアッパレ。彼のような人間を自由人とでも言うのかもしれない。悪く言えば、野良猫になれない飼い猫とでも言うところか。

こういう漫画を読むと、本当にほっとします。坂田靖子にはこれからも頑張ってほしいものである。
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