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「星祭」


腕を思い切り引っ張られる感触があって、
無理矢理に身体を起こされた。
眠っていたのに。

一瞬、何が起きたのか判らない。
その、強引な腕の主に文句を言う。
「なにすんだ、馬鹿」

こんなことをする馬鹿は一人しかいない。
背中の下と膝の裏に、太い腕が差し込まれる。
眠くてよく動かない体を、上掛けにくるむようにして抱き上げられる。

「星を見ようぜ」
星?何の星?なにが星だ―――イカれたまねしやがって。
もぞもぞと身体を動かして、顔にかかった上掛けをはらう。
星―――なんて見えやしない。
抱かれた腕の中から、見上げるのは、真闇。

ライナスの顔が覗きこんできて、笑う。
「下だよ、兄貴。下見ねえとだめなんだよ」
下―――?
首を伸ばして覗き込むと、ライナスの足元一面に、
黒い布に散りばめられた硬い宝石のような明かり。
なんで、星が―――それに―――
「ライナス」
なんでおまえ、だって、おまえは―――

ゆっくりと抱き下ろされる。
強い腕にしがみつきながら、恐る恐る足をつけてみると、
水紋のような燐光の輪が、足元の星闇を伝っていった。
肌に水が触れるのを感じ、そこは水面なのだと判る。
腰の辺りまでが水に沈んだ感触があるのに、その水は見えない。
さらさらとした水が、脚の回りを流れていく。
動くにつれて、光の波紋だけが広がった。

「水―――」
「河だ。天の河」
ああ、そうか、夢か。
失った者と有りえないものとが混じる、優しい夢。

「今日は、星祭なんだってよ。一年に一度、会えない人と会えるんだって」
だから、俺、会いにきたんだ。
馴染んだ顔が嬉しそうに笑う。
妙に理屈の合った夢だ。

「会いたかった」
そう言うと、腕の中にすっぽりと抱き込まれた。
夢でもいい。幻でも、奇跡でも、何でも。
「抱いてくれ」
そういえば、こんなこと、一度も言ったことがなかった。

近づいてくる瞳の中にも、ちらちらと星影が映っている。
愛しい体をむさぼるために目を閉じても、
暖かい真闇の中、一面の星。



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