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地上の月
それから―――どうしたらいいんだ。 ヒースは困っていた。 やはり、勢いだけでは、どうにもならないようだ。俺は修行が足らんな。 固まってしまった背中に、するりと手が回され、引き寄せられる。切れの長いきれいな目が見つめてきた。その顔の左側、額から頬に走る二本の傷跡が、整っていすぎて冷たく見える容貌に、不思議な魅力を与えている。 「なあ―――」 唇から唇に伝わってくる声。 「吸って」 そう言われるから、薄く開かれた口を吸ってみる。吸われた舌が口の中に入り込んできて、粘膜を舐る。それを軽くかんでみる。生きているものの、なめらかに弾力のある歯ごたえあった。舌が出ていってしまうから、それを追って、相手の中に入り込む。そこは、ひどく熱くて、ぬめった感触がある。受け入れてくれる体の中を、躊躇いながら探る。 そうか、服を脱がないといけないのだ――― あらわになる肌を見ると、先にある行為を想像せずにはいられない。頬が熱くなっているのを、相手にも知られてしまっているのだろうか。 「ヒース」 名前を呼ばれる。 「あんたは、どうしたい?」 艶のある声を潜めて耳元で囁かれる。 「俺は、あんたのそばに行きたい」 あんたの近く―――できるだけ近くに行きたいと思う。 「いいよ」 いつもの、ニヤニヤ笑いではない。口元を掠めるような微かな笑みを見る。 「来な。俺の中に来て、なんでも好きに暴いていきな」 もういちど、口付けて、身体が動くにまかせて、むさぼり合う。そこがいい、と言われれば、唇で、指で、体中で愛してやりたいと思う。掴もうと指を伸ばしてもするりと逃げていく、湖水に映る冷たい月のようなこの男の、本当の顔が見たい。見せて欲しい、頼むから。 「は、ああ、あ、あ」 たまらず下から突き上げてやると、喘ぎ声が上がった。落ちかかる髪に隠れていた顔を上げ、目を合わせてくる。 「なァ、あんた、を、俺にくれよ」 熱に浮かされた、紫の目が言う。 「あ、はあァ、アッ」 きつく締め付けられて、身体の中に放つと、上になった体が、がくがくと震えながらしがみついてきた。腹のあたりに、温く広がる液体の感触がある。肩に乗せられた頭を撫でてみる。さらさらとした髪が指にまつわるのを、絡めとる。
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