Bunny 1

「ルーク、お買い物についてきなさい」
 女遊び人を賢者に転職させる直前。テレビ画面から目を離し、嫌そうな顔で振り返る青年。
 先ほどまで後ろから大人しく画面を見ていた16歳の少女は、彼女より6歳も年上なのに子供のような態度の青年を見て笑う。
「いい年して何してるのよ、ほら、行くわよ」

 約束が違う──前が見えないほどの荷物を持たされルークは思う。
 半年ほど前、大金を積まれ、ルークと言う名を与えられ、一日だけこの少女の言いなりになった。
 だが彼女は自分を気に入ったらしく帰してはくれなかった。それまで住んでいたアパートは引き払われ、バイト先にも辞めると連絡を入れられたらしい。
「バイトが変わったと思えばいいのよ」
 仕事はユリカの気まぐれにつきあうだけ。三食付きで充分に広い部屋も用意され、欲しい物があれば大抵用意してもらえる。口座には毎月大金が振り込まれ、この上ない待遇である。
 このままでもいいかもしれない、そう考えてしまい慌てて首を振る。

「何か買ってあげるわ」
 しかし彼女も半年前に比べて大分優しくなった。これだけの荷物を持たされながらも彼は思う。
「私はこれがいいからこれでいいわよね」
 荷物の間から覗く。……前言撤回。
 バニーガールの衣装のようだが、女性が着るようなサイズ、形状ではない。つまりは、男性用? まさか自分に……
 青年がそんなことを考えている間にユリカは会計を済ませる。
「帰るわよ」
 更に荷物を乗せられてバランスを崩しかけたが、なんとか持ちこたえ主人を追う。

 屋敷に着くと青年が今までに入ったことのない薄暗い部屋に案内された。一体いくつの部屋があるのか、彼は未だ把握できていない。
「着替えて。早く」
 やっぱりか、と半ば諦め衣装を受け取るが、着るのはやはり抵抗がある。
「いわ……」
「着ます! 着ますから!」
 わざとらしく口元に手をあて、巨漢を呼ぼうとする少女を見て慌てて叫ぶ。
「早く着なさいよ」
「……あっち行って下さい」
「行かないわよ」
 覚悟は決めたがずっと見られていては着替えにくい。しかし少女は見物するつもりのようだ。
 見ていて何が楽しいのだろうかと思いながらも、青年は諦めて後ろを向き着替え始めようとする。
「…………」
 上着を脱ぎ、ズボンを下ろしたところで手が止まった彼にユリカは言う。
「下着も下ろすのよ、当たり前でしょう?」
 シャツを限界まで引っ張って隠しながら下着を下ろす。
「今更隠すほどの仲じゃないわよ」
 そう言われても抵抗はある。
 バニースーツに足を通したら、シャツを脱いでスーツを上げる。付け襟とカフスも身に付け、ハイヒールを履こうとしたが、バランスを崩し尻餅をつく。上から笑顔で覗き込む少女を、いつもこんな物を履いているかと青年は尊敬半分呆れ半分に見上げる。
 一旦ハイヒールから足を外し、立ち上がろうと床に手を付いたルークの頭に耳のついたカチューシャが乗せられる。立ち上がってなんとかハイヒールを履いた彼は、見せられた鏡の中の自分にあからさまに嫌な顔をする。
「ほら、これ飲んだらステージに上がりなさいよ」
 同じくバニースーツを着た何人もの美女が現れ、ユリカから受け取ったペットボトルをルークの口に当てる。そして中の液体を仕方なく飲み込んだ彼の肩や腰に手をかける。バニーガール達の中には彼の見知った顔もある。おそらく普段はストイックな服装で噂話に花を咲かせるメイド達であろう。
 正面から胸を押し当てられ思わず顔を赤らめると、彼の背中に痛みが走る。
「………………」
 振り向くと不機嫌な顔で睨みつける少女。その手に握られた鞭。
 色々されてきたが鞭は初めてだ……けどちょっと可愛いとこあるじゃないか、そう考えて僅かに笑みを溢す青年にまたしても鋭い一撃。
 尾を引く痛みに手を当てようとするが、バニーガール達に絡みつかれてできなかった。

「ちょっとステージで遊んでなさい」
 ユリカの言葉でバニーガール達は入ってきたのとは違う扉を開く。そこをくぐってしばらく進むと煌くステージに出た。
「っ!?」
 眩しさに目を細めたルークの股間に美女の手が触れる。
「失礼しますね」
 普段と違い真紅のルージュを塗った唇が普段通りの口調で言う。しかし普段はメイドであるバニーガール達の手には物騒な物が握られていた。

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