この・・・・・クソガキが!!


 後ろから暑苦しい体温が覆いかぶさってくる。
 酒臭い息。迷惑なまでにぶっ太い腕。
 背中越しにも頑強な身体のつくりが感じ取れる。
 少しばかり忙しない、いや完全に余裕がない呼気のゾロは、サンジの髪を鼻先で掻き分け、肌に吸い付いてくる。どーぶつと変わらない仕草が、ほんの僅かに可愛いとか思う。思うがそれとこれは別だ。
 腰を押し付けるな。腰を!!! 
 あれほど、人が仕事中にはサカるんじゃねえ。
 躾けてやってるのに、このバカはなかなか覚えない。
 さて、どうしてくれよう・・・・。
 明日の仕込みも大事な仕事で。サンジは仕込みの手を休めず、後ろから抱きつくヤツの好きにさせている風情で、ぐるぐる憤りを渦巻かせた。

 ゼフから強靭な足技を受け継いだサンジは、昔から慢性的な欲求不満を燻らせていた。
 自分から、ないがしろにした夢が追えない不満。
 いつまでもチビナス扱いされる不満。
 そして、それらとは別口に性的な欲求不満までもが、もれなく着いて回っていた。

 そのことについては、かなり悩んだ。夢やゼフに対しての不満はまだ分かる。自分から選んだ物事だ。どうにかねじ伏せるだけのことはできた。しかし、万年発情期とも言える状態はどうしたものだろう。その悩みは、GM号に乗船してからも引きずっていたものだ。

 いっくら陸に上がって女と寝ても、時々オトコもつまみ食いしても。
 どうしても満足できない。
 まあ、今に始まった不満じゃあないから無視できるが、切れやすくはなる。
 女相手に切れるなんざもっての外、切れるのなら多少蹴っても平気なヤツ相手じゃないと即座に殺人犯になる。
 なにせ、海賊を養父に持つ料理人の足腰は半端じゃなく強靭だ。岩盤も鉄球も。砕くのも、蹴り飛ばすのも造作なくできるほど下半身は鍛えられている。体力だって並大抵じゃあなく。おかげで喧嘩もセックスも。
 パンピー相手だと手加減しないといけないほどのオトコに育ってしまっていた。
 この場合、神様やサンジに空恐ろしい遺伝子を与えた親たちに感謝したらいいのか、恨まないといけないのか非常に悩むところだが。諦めてだけはいた毎日だった。
 それなのに、まさか同じ悩みを持つやつに巡り合うとは思っちゃいなかった。
 それも、喧嘩相手としては申し分ない気の短さと力量を持つ男、ゾロだ。
 狭い船の中で、格好の相手と遭遇できたことをサンジは素直にラッキーと感じて、さっそく積年の鬱憤晴らしをするべく、毎日毎日。飽かず喧嘩を売り続けた。売りつける全部を買うゾロは、腕っ節も強いし、蹴っても簡単に骨が折れたり、内臓がイっちゃったりしない。

 毎日がとても楽しくなれたが、やっぱり性欲だけはどうにも不満を燻らせている。
 ゾロと喧嘩して、料理を作って。ゾロを蹴って、料理に励む。
 気分転換にはもってこいだった。

 ところでサンジの鬱憤晴らしにされた怪物は、普段はストイックな顔つきでいて、結構なむっつり助平だったりする。
 人を謀ることには長けているサンジであったが、ゾロが自分とは違う種類の猫の皮を被っていることに唖然としたものだ。だが、ゾロのむっつり具合も分かってやれなくもない。
 なにしろ認めるのも癪だが、ゾロのバケモノレベルはサンジより上だ。
 それこそ半端にセックスなんてしたら手加減していても先ず相手が廃人になる、きっちりなる。魔獣ってのはまさかソレを指しているんじゃないのか。本気でサンジは思っている。
 ゾロがその手の不満を抱えていると知ったのは、ほんの偶然、それこそ神様のいたずらとしか思えない。花町で女から女を渡り歩いちゃあ、宿にしけこんでいたサンジが数人目に買った女から閨話に聞いたうわさにピンときた。
 その女の売春婦仲間たちがヘンてこな髪の色をした男の相手を次々として、全員が腰が抜けて動けない。絶倫ぶりを誇示してるのか。思ったのだが、次の島でたまさか偶然にゾロを見つけた。
 面白そうなので後をつけてみれば、なんてことない噂には誇示も誇大もなく。ホントだった。
 元来がフェミニストのサンジは、ゾロほど女を物扱いできない。もちろん男を抱いても、どうにも箍を外し切れず、不満ばかりが残る結果を生んでいた。だが、ゾロ相手なら大丈夫だ。ナニをしようがどうしようが。コイツなら壊れる心配も必要ない。
 軽い気持ちと大いなる興味でもって、サンジはこともあろうか性欲ギンギンマックスモードのゾロに声をかけてしまった。それがきっかけだった。

 当初のサンジの予定は、ゾロに突っ込んでヒイヒイ言わせてやるぜ!!だったのだが。
 いかんせん、ちょいゾロの野獣レベルが上だった。
 今じゃ大抵は、サンジがゾロに突っ込まれる回数が断然多い。男としては屈辱的だが、万年発情の欲求不満は解消されたわけだ。
 それこそ、ゾロのブツはデカ過ぎる。よくも女にこんな凶悪な代物を突っ込もうなんて思えるものだ。可哀想すぎるじゃないか。しかも相手の腰を潰すほど容赦しないピストン運動だと?ふざけるな。それでもテメェ人間か。
 マジで思った。後ろから圧し掛かられ、太腿に感じた質量の重さに本気でパニックになった。抵抗すれば、コッチがヤバイ。本能的に肉体的苦痛と生命危機を天秤にかけてしまった。それほどにヤバイ凶悪犯だったのだが。
 馴染んでみれば、具合がイイ。
 脳みそがぶっ飛ぶくらいの快感。意識が点滅するほどの絶頂なんて初めて味わった。
 深い開放感にどっぷり浸り、悪くない。思ってしまえば後の祭りだ。どうやらサンジがゾロに嵌ったのと同じく、ゾロもいたくサンジが気に入ったらしい。それほど良かったのだ。
 いや、良すぎたのか。
 覚えた料理の味の良さは一生涯、味覚に記憶されるように。もう一度その味を求めるように。
 カラダが脳が感覚の全部が。理性が引き止める間もなく、怒涛となって相手にのめりこんでしまっていた。そうなると、今度は少し相手に触れただけで、勝手に感覚が暴走する。
 ログが溜まる一週間。
 ゾロとサンジは満足がいくまで朝から晩まで。ヤッてヤって、ヤりまくった。
 俺の足腰が丈夫でホントによかったよ。
 ゾロとの激しい情交に喘ぎ声も駄々漏れ状態で、無意識に神と親に感謝するサンジだった。

 それが先月までの出来事だった。
 問題はそこからだ。サンジ的には、これ以上はもうデキないってくらい、たっぷりと満足できた。案外、コイツも役に立つじゃないか。ゾロに対してヘンな認識もしてやった。これから先、溜まったらコイツとまたデキたらいいかもしれない。
 自分の下半身の欲求に非常に素直な料理人は、暢気に思ったりもした。
 だが、サンジはちょっとばかりゾロの獣っぷりを見くびっていた。
 サンジほど船での仕事を持たないゾロが、存外に鍛錬以外の時間は暇を持て余しているのにも気づけなかった。
 暇を持て余しているというのは、イコール妄想劇場を繰り広げるにも思いのままということで。
 島を出航したその日の晩のうちに、たった一日で腹を減らせたゾロは有無を言わさずサンジに喰らいついてきた。

「て・・・てめっ・・・・・」
 どかどか足音も荒く近づいたゾロは、真正面から迎え撃つにも怖いほど目が据わっていた。全身から殺気にも似たオーラを撒き散らしていながら、それが殺気なんかじゃないと知りすぎるほど知っているサンジだ。反射的にヤバイと感じて腰が引けたくらい、ゾロは物騒だ。
 黒手拭いを頭に巻いて、三本刀を抜いてないのが不自然に思ってしまうほど。
 目つきも股間も。そりゃもう凄い状態だった。
(ヤバイ、と、とにかく今は逃げたほうがよさそうだ)
 ゾロ相手に逃げるなんて屈辱的なのだが、そのときは咄嗟にそんな考えだけが頭を占めていた。もっとも、後ろには倉庫の薄壁。前にはゾロで逃げるには場所が悪い。壁をぶち破ろうかとも考えたのだが、積んである食材が風雨に潮風の直撃でだめになるかもしれない。ふと掠めた危険はサンジに前進しか選択させなかった。
 気迫満々のゾロに気圧され、近づく歩調に合わせて下がっていたら、即座に壁に背中がついた。逃げ道なんて最初からないも同然だったらしい。
「サセろっ!」
「ば、ば、ばかやろーーっ!!どーして俺がテメェにほいほいケツを貸してやらないといけねぇんだ!自分で抜け、自分で!!!!」
「うっせぇ!自分でヤッても満足できねえんだろ!!」
「んじゃ、タコでも捕まえて、ソレに突っ込んでおけっ!俺はお前の相手をしてる暇なんてねえ!」

 さすがに憚れる内容の応酬に声を潜めて怒鳴りあう。めちゃ器用な連中だ。
 その間にも間合いは詰められ、とにかく言葉で説得しようなんて無謀な挑戦をしていたサンジは、しっかりとゾロの手が届く範囲まで相手の侵入を許していた。普段の喧嘩の始まりが、怒鳴りあうところからスタートしているために、あんまり気にもしなかったのが悪かった。
「タコなんざ、相手になるかーーっ!!!」
「うおっ?!」
 ヒグマもどきな怪力に抱き込まれ、ゾロの切羽詰った叫びと同時に木箱の上にひっくり返されていた。蹴ろうとした足の間に熱くて分厚い体が押し込まれ、ののしろうとしたら禿げそうな力で前髪を掴まれた。
 その気なんてぜんぜんなかったのに。股間に直接当たるゾロの大きさに、先にカラダが昨夜までの記憶を蘇らせた。被さってくる荒れた唇からゾロらしくなく乱れた呼気がある。
 きつく舌を吸い上げられて、余裕もなく弄る手のデカさが妙に懐かしく思えてしまった。
 アホほど頑強な身体をしてて、傲岸不遜なゾロのくせに。
 どこか必死で縋りつかれているようで。そのギャップが可愛いよなあ・・・・・なんてほだされた。  引き剥がそうとしてた両手はゾロの後頭部に埋もれ、蹴ろうとしていた脚はいつの間にやらゾロのきわどい腰の動きに合わせて揺れていた。頭の中は快楽物質がガンガン製造放出されて、どうにも止まらないのだから仕方ない。
 ぬるぬる熱いベロは気持ちよかった。
 自分より遥かにぶっ太い腕が、世界を相手にしている強靭な強さを持つことに酷く安心できた。ちっとやそっとじゃ壊れやしない。箍をはずしても大丈夫。
「ゾロ・・・・」
 サンジが逃げ出そうとしなければ、不器用で無骨な腕はそれなりに柔らかくもなる。剛健なだけだと思っていた男が、随分と優しい緩さも持っている。それでも女からすれば、充分すぎるほど余力があるのだろう。
 どれだけの人間が、ゾロの柔らかな部分を感じてやれるのだろう。最強を目指し、その力を脈々と溜めていけばいくほど。この男は常人からはかけ離れた存在になっていく。力だって半端じゃない。そんなゾロは、どれほどの人と強く抱き合えるのだろう。
 少なくても、サンジは稀少な人々の一人だ。抱きついてくるゾロが子供みたいに思えた。
 そっと太い首筋を撫でてやり、
「苦しいだろーが、ちっとは力を抜け」
「逃げんだろ」
 苦しげな声に、もっと強くなる腕に。
 こんなむさ苦しくも、ごつい男を守ってやりたくなった。実際のところ、ゾロの締め上げは辛い。息ができない。このまんまじゃ、気持ちよくなる前に窒息で天国にいけそうな気がする。
 逃げたりなんざしないで、ちゃんとお前を受け止めてやるよ。
 言っても言葉なんてモノはどれほど薄っぺらに感じるか。
 特にゾロのような男には、言語だけでの相互理解は難しくて通じるわけがない。その薄いシロモノに、ゾロは何度も裏切られているのだろう。上っ面だけではこの男は理解しがたい。どこまでも同じ場所にまで堕ちて、同じ感覚を分かち合って初めてゾロは相手を信用できる。

 まったく、血塗られた刀だけの道を選んだ癖に、なんて純真すぎる魂を持っているのか。

 知れば知るほど、ゾロのバカさ加減に愛しさが湧く。

  「ばかやろ。俺が逃げたりするもんかよ。これじゃあキスもできねえだろ」
 がちがちに拘束されているとしても、もう逃げを打ったりしていないのに。サンジの手はゾロを抱きしめているというのに、人間不信なケモノは置き去りにされた犬みたいな目をしている。どこもかしこも危険な熱を孕んでいるのに、目だけが弱い。
 どうにも剥がれない背中に掌を乗せて、バカ面さらしている男の鼻先にちょんと口付ける。
「がっつくな」
「てめぇが逃げようとするからだろ」
 色気の欠片もない声と口調だったが、いかにもゾロらしく。
 サンジは笑ってゾロの頭を引き寄せた。
 昨日、味わったばかりでもゾロとのキスは懐かしく感じる。できれば毎日してもいいかな。
 ゾロに渾身の力で抱き潰されても壊れないんだから、毎日抱き合ってもいいんじゃないのか。少なくても、ゾロと抱き合うのは嫌いじゃない。誰がいつどうなるかなんてわかりはしない。ひとりぼっちで孤島に漂着することだって珍しいことじゃない。たったひとりで、これから先の長い道を歩かなければいけないときもある。そんなときに、思い出せる温もりがあるのは、少しばかりの慰めになれるんじゃないか。
 どちらがとは言えない。海へ出た誰もが同じ感覚に陥るときだってあるはずだ。
 もしくは、ずっと一緒にいられる可能性だって十二分にある。
 確定のない未来よりは、とりあえず。こうして抱き合える時間に溺れてみるのも悪くない。
 伸ばされる舌は互いの口腔を弄りあい、いやでも興奮の度合いは高まった。木箱なんて不安定な場所では落ち着かず、ずるずる床へ身体が流れた。
「サンジ・・・・」
 ごつい腕が頭を抱え込み、ひどく大事そうにされている錯覚に陥る。  
 抱いているだけでは足りず、腕に納めた相手を味わい尽くすかのように、体温が高い舌は首筋やら耳元やら頬やらをやたらと舐めて回っていたが、それも気持ちよかった。
 背後からたくし上げたジジシャツは邪魔で途中で引き裂いてやった。
 胸元に回るゾロの手が同じようにしてシャツをボタンごと引きちぎっている。
 互いに肌をどーぶつみたいに舐めて、触っただけじゃ得られない感覚に没頭していった。




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