『もしもし。ああ、サンジか。どうした?』
 電話に出ると同時に、ウソップがのんびり尋ねてくる。
 ヤツの背後のざわめきが雑踏の中だと俺に告げる。
「わりぃ、仕事中?」
『今なら客が空いたとこだから、別に構わねえよ』
 ってことは、今、コイツはまたもやエースの手伝いで店番してやがるのか。
 オリエンタル雑貨店を経営するエースは、人手が足りないのか経費節減なのか。ボーダーラインはあいまいだが、とにかく知り合いの俺らをよく使う。特に手先がやたらと器用だったウソップは、趣味に飽かせて作ったアクセサリーの評判が良かった所為で、いいように使われている。もはやエースよりも店に顔をだす頻度は高いんじゃねえだろうか。
 まったく、中学生だろうが容赦なくこき使いやがるぜ、あの兄貴はよ。それでも、ウソップのアクセサリーは、けっこうそこそこの値段で捌けるし、リターン組も多い。下手なバイトができる年齢でもないやつにすれば、いい小遣い稼ぎになっている。
 ソレを考慮に入れたら、ウソップにしても悪いバイトじゃねえし。親戚の手伝いだとかなんとかで。そのあたりは誤魔化せるし?

 俺らは隣近所つながりってだけで、全くの赤の他人同士だが、親同士の結託が固いのもあってひとつのファミリーと変わらない。ガキの時分には、長期休みになれば各家庭を巡る『宿題合宿』なるイベントが毎年慣行されていた。
 エース、ルフィ、ウソップ。そして俺と俺の兄貴を含めた5人は、兄弟に近い環境で育ってきている。  顔もぼんやりとしか覚えてない親戚よりもよっぽど縁者と言えるんだから、エースの店を親戚の・・・と称しても、あながちウソでもねえわな。

 とりあえず。
 恒例のごとく、ウソップはひとりで店番をしているわけだ。
 用件があるなら手短に・・・ってか。
 
 もっとも、俺も手短に済ませたい。
 俺が視線を投げる先には、壁からテーブルに伝い歩きするゾロがいて、安易に目を話せない状態だ。

「今度、エースの車で出かける話になってたろ。アレ、俺パスするわ」

 ゾロの足元に危ないものがないかを見ながら言った途端、盛大に驚かれた。
 ちょっと待てぇ!!と喚く声がうるさくて、受話器を腕いっぱいに伸ばして耳から遠ざける。
 そんだけ距離をとっても、ウソップの声は丸聞こえだ。

『ええ!どうしてだよ。俺らオマエが作る弁当、目当てにしてんだぜ』

 ・・・はっきり言うじゃねえか。
 素直でいいが、てめぇらにとっての俺の存在価値はメシだけかよ。

 そりゃ期待されないより、されているほうが嬉しいし。俺だってそのつもりで居たんだがよ。
 ゾロが来たんじゃ、そうも言ってらんねぇ。
 俺が見ているのに気付いたゾロが、今度はコッチにすんげえスピードでハイハイして近づいてくる。 にぱぁ〜と笑う顔は愛嬌いっぱいで、あああ、脳みそが蕩けるぜ。
『おい、サンジ!!聞いてんのかよ』
 耳元のウソップの声に、慌てて我に返った。
 いかんいかん。
 どうにもゾロを見てたら全部がぶっ飛ぶ。
 俺の足元まで到着したゾロが、よじよじと膝に手をかけて立ち上がった。
 ああう、可愛いじゃねえか!!
「ああ、聞こえてる。ごめんって。弁当は俺がちゃんと作っておいてやるから、朝にこっちに寄ってくれ。面倒じゃねえからいいよ。実はゾロが来てるんだ。そそ、来週いっぱいはコッチで預かる」
 
 ようやくマトモな声量になったウソップと話ながら、受話器を肩と首の間に挟んで、抱っこと腕を伸ばすゾロを抱き上げる。
 おお、また少し重くなったな。よしよし、もっとでかくなれ。

『ゾロ?ああ、じゃ仕方ねえな。弁当は、またでいいよ。ゾロの相手してやれ』
「オマエの一存で決めてんじゃねえよ。ちゃんと作るって」

 ちょっとばかりむっとして言い返した。
 ゾロが居ても前日から用意して、早朝に起き出して作ったら問題ねえじゃん。頭の中で素早く計算しつつ、じぃーっとコッチを見上げるゾロに向かい、声を出さず『なぁ?』と同意を求めた。分かってねえくせに、ゾロも真似して首を傾げる。

「おおっ、オマエ天才じゃねえか!!」
『サンジ・・・・・・・・・・・』
「なんだよ!今、ゾロが首を傾げたんだぞ!!すっげ可愛い!!」

 今度はウソップの声が遠い。
 ちきしょう、ヤツも腕いっぱいに距離を置いたな。

『いや、そりゃ分かってるから。な?せっかくゾロと久しぶりに会ったんだろ。10日ぶりか?堪能しておけ。おい、それよりゾロを預かるってどうしてだよ』
「あ、言ってなかったっけ?義姉さんと馬鹿兄貴が風邪引いてよ。大分といいんだが、こいつの面倒で疲れも溜まってるから。どうせなら休ませてやろうってことになったんだ」
『なら余計にオマエ、弁当どころじゃねえだろ。ちゃんとゾロのこと見てやれ。お前に一番、懐いてんだろ。母親がいねえの我慢してんだから大事にしてやれ』
「ううん・・・・・・そういわれると・・・」
『気にするな。オマエの弁当が今回だけってワケじゃねえし』
「じゃあ、そうさせてもらう。悪いな。今度、俺んところに皆をよぶからって言っといてくれるか」
『おう、言っとく。ま、ゾロ相手じゃあ誰も何も言わねえよ。オマエのゾロ馬鹿は浸透してる』


 それから少しだけ話をして、ウソップとの電話は切れた。
 電話中大人しくしてたと思ったゾロは、どうやら眠かったらしい。待ちきれず、俺が話しながら握らせた指をしっかり持って、腕の中で気持ちよさそうに眠ってる。
 ウソップのヤツ。
 俺がゾロ馬鹿だとかなんとか言ってたが・・・・・・。
 実際そうなんだから、いいか。他の連中もゾロを知らないわけじゃねえ。なにしろ、コイツは母親の次に俺に懐いてる。父親じぇねえぞ、俺だぞ、俺。

 そりゃそうだよなー。兄貴みてぇな宇宙人した髪の色したヤツが父親だなんて、笑うよな。
 ちなみに兄貴は、親父の家系の特徴全部を継いでいる。そんでもって、俺はってぇと。なぜかキッチリ母親と瓜二つだ。ガキのころから現在まで。俺たち兄弟は、知らないやつが見たらどうやっても血のつながりもなさそーな取り合わせに見えたもんだ。
 俺としちゃあ、ゾロも少しくらい俺に似て欲しかったんだけどな。
 ま、骨組みと頭の色以外は、すっかり義姉から受け継いでくれたことが、唯一の慰めだ。
 そりゃそうだろ。あんな厳つい顔した男とそっくりになっちゃあ、将来も嘆かわしいってもんだ。

 眠ったゾロは、これまたばりばり可愛い。
 小さい手でがっちり俺の指を掴んでる。ココがポイントだよな。
 ゾロに限ったことなのか、他のガキを知らないから分からないが。こいつは握力がある。きっと喧嘩させたら強いぞ。お前、近所の生意気なガキどもに舐められるなよ。俺がしっかり喧嘩の基礎から叩き込んでやるからな。美味いモンもいっぱい食って、デカクなれ。
 
 いい加減、降ろしてやっても構わないんだが。俺は暇も手伝って、眠るゾロをひたすらに見つめてた。

 気分は紛れもなく、親父入ってんだが・・・・・・いいじゃんね。
 
 コイツが生まれた頃は、俺はちょうど高校受験の駆け込みで。俺にゾロが懐いてくれているのに、満足に遊んでやることもできなかったんだ。その反動で、高校に入ってから俺とゾロは毎週のように顔を着き合わせてる。このまえの期末の所為で予定が崩れたが、三日しないと会えないと思ってたゾロに会えたのは俺にとっちゃあラッキーだ。
「休みに入ったら、二人でどっか行こうな」
 すやすや眠るゾロの頬を撫で、広いデコにキスをする。
 夏を直前にして、俺の予定はすでにゾロをどこへ連れて行くかでいっぱいだ。
  
 ゾロ専用のリュックに哺乳瓶と紙おむつを詰めて出歩く俺は、年上・同年・年下すべての知人・友人たちから、愛情と呆れを込めて、こう呼んでくれている。

 いわく、『ゾロ馬鹿・・・・』と。
 
             
                                                              1(ゾロ、八ヶ月):おわり




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