「――もう一回り半も前のことだな」

兼続は話し終えると茶を一気に飲み干し、庭に目をやった。

「昔の出来事、童の契りとはいえ私の想いは変わらぬ。私はあの子を心から愛している、責任を持ってあの子を娶りたいのだ」

この庭はいつ来ても手入れが行き届いている。そういえば、あのお嬢ちゃんが庭の景色を気に入っていると、かつて目の前の男が話していた。

「…。早く夫婦になったらどうだい」

俺は周りの皆が思っているであろうことを単刀直入にぶつけた。
裏で侍女が茶器を落とした音が聞こえたが、今まで誰も言わなかった…ということか。ここの御館様よろしく、越後は無駄口やお節介を言わぬ土地柄なのかもしれない。

「フッ、まあそう逸るな、慶次。私はあの子の心を大事にしたいからな、まだその時ではないさ」
「あの子は、お前さんの想いをわかっちゃいないぜ?」
「毎日こんなにも示しているのにか?素直になれないだけだろう」

この御仁は確信していて、その自信は揺るがない。
だが、不思議なことに、思い出したようにふらりとここへ立ち寄る俺のほうがあのお嬢ちゃんを理解できることもあるのだ。

「……根っこのところは通じてないのさ。近すぎるってのも、難儀なもんだ」
「ん、何と言った?小声で聞きとり辛かったのだが」

「いや、何でもないさ」

それだけ言って俺は仰向けに寝転んだ。日ざしを避けるようにごろりと横になり、深く息を吸うとイ草の香りが心地よかった。
昼寝か慶次、ならば私は残った執務を云々と兼続が言っていたが、適当に流してじんわりとやって来た睡魔に身を任せた。

――いい天気を有意義に使わないのはもったいない、あんたもそう思わないか?



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