テレビ、という箱を見ていたら半刻なんてあっという間だった。
硬い口調で情報を伝える男、肉と菜っ葉を説明しながら焼く女二人、蛇皮線とも違う弦楽器をかき鳴らし歌う者たち。この箱の中にいくつも違う世界があるみたいだ。俺の居たところに近い格好をした劇のようなものもあった。
字を読むにはまだ少し時間を要すし(同じ言語のはずなのに)、この世界のことを理解していくにはテレビはちょうどよかった。
「時計」の長い針が一周すると、箱の中の状況はほぼ全て一斉に一新された。この世界は実に正確に時を刻むものだと感心してしまう。

「ただいま戻りましたー」
「おっと。もうそんな時間か」
「あ、テレビ見てたんですか。遠山の金さんだ、なつかしー。左近さんの時代から250年くらい後の話ですよ。じゃ、これ着て出かけましょ!」
「えっ」

がさがさと音をさせながらあの子が戻ってきた。手に持った荷物を差し出し、帰って早々だというのに急かす。俺の身の回りの品を買いに行く為のはずだが、楽しそうに見える。仕事が多いほうが生き生きする性分なのか。
あの子が買ってきた服は、ジャージというらしい。運動着だが室内着にする人もいる動きやすい服、だそうだ。

「待て、というとは稽古着で街に行くのか!?」
「だって細かいサイズがわからないんで、ちゃんとしたのは試着して決めたほうがいいと思ったんです。それにこれ、着やすいから。」

そういう人もいるから大丈夫ですよ。とあっさり言われて結局着替える羽目になる。ろんてぃ(ロンT)とズボンとやらは言われたようにして着られたが、羽織の閉じ方はわからず、あの子にやってもらった。……この歳で服を着せてもらう日が来るとは。

「ちゃっく?といい、羽織り自体も不思議な生地だな」
「綿とか麻とか、わかりやすくないんですよね。……よし、じゃ行きましょうか――って脇差を入れようとしないでください!」
「小太刀も駄目?」
「基本、武器系統はダメです!」

ここじゃあ狙われることもないですからと説得され、やむなくそのまま外に出た。
ジャージはずいぶんと薄くて軽いが、外で寒いということはなく動きやすかった。
履物は突っ掛けただけのサンダル。これも、後であの子の履いているのと同じようなスニーカーに買い替えるという。


日の光が心地いい。だが、景色は一変している。背の高い建物ばかりで山は見えず、緑も少ないし、何より地面が土ではない。あの子は整備が進んだせいと言うが、淋しい気もする。
しかし、それより。交通手段が凄かった。

あの子さん。この塊共は何」
「自動車っていうカラクリです。輿に近いのかな?でもあの松風より全然馬力ありますよー」
「……走るのか」
「ええそれはもう。っていうか今から乗るんですけど、コレに。」

あんまり大きくなくてすいません、と付け加えられても基準がわからない。あの子は「でも赤くて可愛いでしょ?」なんて続けたが、鉄の塊に可愛いも可愛くないもあるか?
そして扉を開けられ座らされ、紐のようなもので縛られた。いつもは俺のほうが縛――いや、これ以上はやめておこう。
反対側から入ってきたあの子も自分で同じようにして、なにやら手を動かすと、音とともに振動が来た。

「!?」
「あ。びっくりしました?左近さんは何もしなくっていいんで、音楽でも聞いててください」

おそらく目を白黒させていたであろう俺を見て、あの子は軽く謝った。軽快な音楽が流れ出したが、音楽どころではない。
彼女が目の前にある輪を回すと、俺たちを乗せた塊は方向を変えて本当に動き出した。しかも、本当に速かった。風を切らないから実感として薄くなるが、視界の流れ方からしてどこの早馬よりも速いのではないか。

「……こいつは、すごいな」

今、ひきつった顔をしていると断言できる。横では鉄の馬に跨る人まで見えた。
ここにきて、俺は400年以上も先の時代に来てしまった重さをとてつもなく感じていた。
自動車は列をなして進む。時折止まり、また走りを繰り返し、街へと――。



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