「スプラッシュさん、こんにちは」
その男は、会えば必ず笑みを向けて挨拶する。
「……また来たの」
「はい。僕は適当にしてますんで。いつも通り、気にしないで」
「……」
何が楽しいんだか、週に一回は必ず来る。
「私、海に出るわよ」
「どうぞどうぞ、いってらっしゃいませ。お仕事頑張ってください」
「……」
そう言って出ても、帰って来るまでここにいる。
――そして。
「おかえりなさい、スプラッシュさん」
……その男は、戻った時も必ず私に笑みを振りまくのだ。


かの歌は誰を救う ・前





奇妙なその男と出会ったのは、海上。
海岸から遠く離れた沖で、溺没寸前の危うい抵抗をしている彼を発見して、抱きかかえて陸まで運んだのが最初だった。
「あなた、どうしてあんなところで泳いでたのよ…」
「まあ……探しものを」
頭を掻きながら眉尻を下げるその姿に、私は呆れて注意する気も失せた。
「何かを沖に流したのか知らないけど、探すにしても無謀ね。馬鹿な真似はしないで、海洋探索ロボットでもレンタルしたらよかったのに」
「そう…ですね。すいません」
少しきつい口調で言うと、しゅんと小さく謝られた。…素直というか、気持ちが顔によく出る男だ。

「まさか仕事以外で救助するとは思わなかったわ。運がよかったわね、あなた」
その日の私は“非番”を頂いていた。彼を見つけていなかったら、陸に上がってヒトカラでもしていたところだ。
「…本当に。しかも助けて下さったのが、あのスプラッシュウーマンさんだなんて」
「長いでしょ。縮めていいわよ」
……律義にフルネームにさん付けまでする、変な人間。
「じゃあ、スプラッシュさんで。僕、スプラッシュさんがメディアに出た時に見たんですよ。実際見ても変わらないですね」
「……そう」
「それと僕は、あの人って名前なんで。適当に呼んで下さい」
私の素っ気ない返事を気にも留めず、あの人は笑って片手を出した。
「…では、あの人さん?これに懲りたら、単身で沖まで泳ぐなんてことはもうしないで下さいな」
「はは。肝に銘じます」
煩わしい事にならないよう笑顔を張り付け、彼と握手をしてその日は別れた。


……それから、気付けばこの状態だった。
曰く「ちょっと溺れていた」のを救助して以来、あの人は定期的に姿を現す。
どういう訳かこの基地に出入りでき、隊員たちとの仲も良好。上官に件を報告してもお咎めなし。…有力者なのか、何なのか。理解出来ない。
「あなたここで、何してるの。ここの隊員でもないくせに」
定期巡視から戻った私は、何度となく同じ言葉を投げた。
そして返って来るのも、いつも同じ言葉だった。
「スプラッシュさんを待ってますよ。ずっとね」
「……暇なのね」
些か、気味の悪ささえ感じる。どうせ彼も、勘違いをしている人間なんだろう。
メディアに私達の仕事姿が取り上げられて以来、ファンという存在(主に男性)が近づいてくるようになった。その中には、私に本気で恋愛感情を持ったらしい人間も少なくなかった。
人間の恋愛感情に、ヒューマノイドの私が応えられると思うのか……。
そういう仕事をするヒューマノイドは、別にいる。私は海難救助用であって、間違っても恋愛用ではない。


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