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「クリフト! 起きろ!」
 寝坊のソロがクリフトより早く起きることなど余程ないが、その彼がクリフトの百合を横たえたような寝顔を容赦なく叩いて起こす時は相当であろう。安らかな眠りに就いていたクリフトは両の頬を強かに打たれた痛みに驚いて半身を起こすと、自らに馬乗りになって次の一撃を繰り出そうとしている同室のソロ……いや、息を飲むような美人が瞳に飛び込んだ。
「大変だ、クリフト!」
 口調は荒々しいが、その声は琴を弾くように伸びやかな美声。迫る形相は鬼のように凄みがあっても、輝く瞳は可愛らしい少女のそれで、瞬きも失うほどの佳顔を間近に見たクリフトは明らかに狼狽した。
「ど、どなたですか」
 やや癖のついた己の前髪の隙間に女の長い髪が触れて、クリフトの胸は更に騒ぐ。胸ぐらを掴まれて彼女の接近を許したクリフトが、恐々と目の前の美人に正体を尋ねてみれば、
「オンナになっちまった!!」
「オ、……ッ」
 噛み付かんばかりに顔を寄せていた少女が、混乱するクリフトの早い理解を得ようと上半身の服を脱いで見せる。瞬間、弾けるような白い果実がクリフトの瞳に迫り、柔らかく揺れたそれに彼はいつにない奇声を挙げていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「よく読む雑誌は」
「週刊開脚大全」
「好きな体位は」
「後背位」
「成程。ソロさんのようですね」
 宿屋の一室。両側に配されたベッドに互いに腰掛け、幾つかの質問の答えを聞いたクリフトは、目の前で胡坐をかく美しい少女が旅のリーダーであり悪友でもある勇者ソロであるという結論を出す。
「朝起きたら、オンナになってた」
「魔法か呪いかを見分ける必要がありますね」
「乳がすげー柔らかい」
「とりあえず脚を閉じてくださいますか」
 彼独特の髪や瞳の色こそ変わりないが、女性らしい細顎や顔つきからはまるで同一人物とは思えない。華奢な体躯を纏う雪のように白い肌、そしてその器から発せられる声は鈴のように軽く、しかも何処かしら甘やかだ。珍しいものを観察するかのように己の乳房を揺すって見せるソロに頭を抱えながら、クリフトは溜息混じりに言った。
「先日の戦闘で傷を負った所は、もう塞がりましたか」
 この現象が敵対する魔族側からの罠であるとは思えないが、謀略であれ偶然であれ、如何なる事件にも必ず原因があるとクリフトは思っている。魔術や呪いが人体に入り込むには傷口が必要であり、クリフトは先の強敵との戦いでソロが多くの傷を作ったことを思い出して問うてみたが、薬草を塗るのも回復魔法をかけるのも忘れていたという頼りない回答が返ってきて、彼の杜撰な性格にますます眩暈が増してきた。
「ま。風邪みたいなもんだろ」
「風邪で乳房が膨らみますか」
 自身がこのような事態に陥りながら、客観を決め込んでいる彼にはほとほと尊敬の念が募る。クリフトは今や下着一枚でそれぞれの部位を眺めるソロに柳眉を顰めながら、しかし何かしら手掛かりはないかと彼の肌に魔力の入り込みそうな傷を探し始めた。
「うわ、お前なにするんだよ」
「傷を診るだけです」
「とか言って、このスケベ!」
 普段ならクリフトの細腕に掴まることもないだろうが、今のソロは痩身のクリフトより更に細い女の腕をしており、手首は彼の大きな手に簡単に握られてしまう。咄嗟にクリフトの男としての体躯の大きさ、そして自らの女としての弱さに気付いたソロは不意に逃れようと暴れ始め、ベッド際で悶着を起こした。
「犯される!」
「私が貴方に欲情するとお思いですか」
「じゃ、他のホンモノの女には欲情すんのか」
 別に二人が揉み合うことは初めてではなく、ソロがクリフトを揶揄って脇を擽る時や、クリフトがソロに回復魔法を掛けようとする時などにも面倒を起こしたことは幾度となくある。しかし片方が女の姿をしているのはこれが初めてであったのだから、其処に居合わせた人間から見ればさぞかし衝撃的な光景であっただろう。
「二人して寝坊とは、思いやられますな」
 朝食の時間になっても階下に集まらぬ一室のメンバーに痺れを切らしたブライが扉を開ければ、美しい女性を乱暴に押し付けるクリフトが目に入り、凡そ清々しい朝には似合わぬ光景に髭を振るわせた老魔法使いは、その瞬間、禿げ上がった頭に太い血管を浮き上がらせていた。
 
 
 

 
 
 
「お前の所為で俺まで凍らされたぞ」
「それは私の台詞です」
 朝から氷石の飛礫の如きブライの叱責を浴びたソロとクリフトは、メンバーより驚異の視線を集めながらやや遅い朝食を摂った。
「ねぇ、本当にソロなの?」
「まぁね」
 翡翠の泉に染められたような髪の色や、紫水晶(アメジスト)を見立てたかの如き瞳の輝きは凡そ他に類を見ぬ彼の特徴ではあるが、細い体躯に乗る小さな顔は彼の面影を微塵も見せぬたおやかな美しさ。癖のある巻き髪の隙間より覗く天空の兜こそ、目の前の可憐な少女が天空の勇者であることを何よりも証しているのであるが、それがなければ虫も殺せぬ乙女にしか見えない。
「ちょっと、ホンモノかどうか触らせて」
「こら、やめろって」
 彼の変容ぶりに特に驚いたのはメンバーの女性陣で、変わり果てた姿をまじまじと見ては本人の朝食を滞らせた。目を丸くして閉口し続ける妹のミネアとは真逆に食いついたマーニャは、すっかり女になった勇者の姿を舐めるように見てはあちこちに触れる。
「オッパイけっこうあるわね」
「おい、変態!」
「女同士なんだから恥ずかしくないわよ」
「男のココロは譲れないね」
 脇を締めて身を守るソロの隙間を狙うように手を這わせたマーニャが身体中を撫で回し、その弄るような手つきを目の前にしたクリフトがコホンと咳をして窘める。他の男性陣はと言えば、女性と化してしまった勇者の目を瞠るほどの美しさを直視するのも躊躇われるようで、呆れ顔を装って遠巻きに眺めるのみ。ライアンなどはショックの度が過ぎて部屋に戻ってしまったくらいで、不憫にもこの光景に耐えられるのはクリフトだけだった。
「呪いでなければ何れ解けます。それまで待つしかありません」
「このカラダで生活しろってか」
「それも自業自得かと」
「お前は残酷な事をサラッと言うのな」
 彼の皮肉めいた笑みも普段ならば目を伏せて交わすところが、麗しい乙女が流し目に微笑すれば神官のクリフトとて戸惑いもする。彼は苦し紛れに二度目の咳払いをすると、食器を片付けて席を立った。正直、ソロの美貌はあまりに目に悪い。
「神官なんだから呪いくらい解いてみせろよ」
「それが呪いだと言うなら、私が呪ってやりたいくらいです」
「なにおう。俺の美貌に照れてる癖に」
 同年代で気の許せる友人の態度に不服を覚えたソロが悪態を吐いて視線を反らせば、ソファには先程から己をジッと見つめていたアリーナと瞳が合う。彼女は身体ごとこちらに向けながら、まるで様変わりした女体のソロを観察するように眺めていた。
「どうした、アリーナ」
 彼女の反応を測りかねたソロが努めて晴れやかな笑顔で問うと、アリーナは咄嗟に瞳を反らして首を振る。
「う、ううん」
 同性とて狼狽するほどの美しさは確かだが、サントハイムの至宝と呼ばれるアリーナが引け目を感じることもなかろう。ソロは細くなった小首を傾げると、次にテーブルを拭くクリフトに普段通りの声を発していた。
「クリフト、稽古つけるか」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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