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「ソロ殿はどうなさるか」
 安宿の風呂場に続く廊下、男湯と女湯の入り口を分かつ暖簾を前に、メンバーの視線は現在も異変が続いているソロに集中していた。
「そりゃ今は女の子なんだから、私達と一緒に入りなさいよ」
「嫌だね。尻の穴まで犯される」
「隅々洗ってあげるわよ?」
 マーニャの冗談を交わして男性の集団へと逃げ込もうとすれば、風呂桶を手にしたライアンがぎょっとしてそれを拒む。
「男湯に裸の女性が居るのは精神衛生上よくありませんな」
「ライアンは冷たいな」
 ソロの可愛らしい大きな瞳が上目がちに詰れば、見つめられた方のライアンは閉口して視線を反らす。どうにか支持者を募ろうとソロが隣のトルネコに微笑みかければ、彼は曖昧な苦笑いをしてそれを拒んだ。
「いや、私も困りますよ。他のお客さんだってビックリするに違いありません」
「トルネコだって若い娘の裸は見たいだろ?」
「えぇ勿論。 ……っていやいやいやいや!!」
 猜疑の眼差しが一斉に大商人に集まり、彼が懸命に両手を振って否定する。このままでは一向に解決しないと思ったクリフトは、小さな溜息を吐いて口を開いた。
「ソロさんは一人で離れの湯にでもお入りいただきましょう」
「えー」
 この宿には従業員用に簡素な銭湯がある。客のもてなしに建てられているものでなければ、湯に入る楽しみなど凡そ感じられぬ所であることは間違いない。まして旅の癒しが宿での食事と温泉にあると毎度期待しているソロにとっては、最も入りたくない湯である。
「何か適当なワケアリの理由を作って入ってきて下さい」
「お前は鬼だな、クリフト」
 しかしこの提案を良しとしたのはソロ以外の全員。結局は彼が風呂場で何がしかの面倒を起こすのではないかと勘繰る仲間達は、その危険性を回避する為に強く頷首し彼を拒んだのだ。
「畜生、酷えぞ」
 男湯に入っても女湯に入っても貞操が犯されるのは目に見えて理解る。しかしこれではあまりに理不尽だと恨めしさが募ったソロは、提案者であるクリフトを見てパッと閃いたようだった。
「よし。クリフトも付き合って貰うぞ」
「えっ」
「この残酷なアイデアを出したお前には責任がある」
「そんな」
 クリフトは予想外の展開に周囲を見渡したが、彼の訴えるような瞳を受け取ってくれる仲間は誰一人として居ない。こちらの提案はクリフト以外の満場一致で決定となり、二人は笑顔で離れの湯へと送り出された。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「誰が病気ですって」
「だって貧弱だろ、お前」
……
 病気がちの夫を薬湯に入れてやりたいので、一緒に入れる小さな風呂を貸して欲しい――。宿の管理人に話す入湯の理由としてソロが思いついた捏造は、クリフトの自尊心を打ち壊すのに十分なものだった。
「全然怪しまれなかったし、良かったな」
「余計に傷つきます」
 初対面のイメージを今でも大切にしていると言うソロに深い溜息を吐き、クリフトは脱力しながら湯船に浸かった。
「まぁまぁ、俺の裸を見せてやるから元気出せ」
「見苦しいので隠してください」
 ソロは脱衣所から一糸纏わぬ姿で歩いてくると、仁王立ちでクリフトの目の前に出て見せた。しかしクリフトはその声に一瞥もくれず熱い湯の中で目蓋を閉じる。
「興味なし?」
 つまらん、とソロは腰に手を当てて大きな呼吸を一つ吐くと、隅に置かれていた風呂桶を足で動かして側に寄せ、クリフトの浸かる湯船から何度も湯を掬って頭から被った。
「あまり湯を無駄にしてはいけませんよ」
「へいへい」
 二人で入るには小さい湯船や、備え付けの痩せた石鹸などは、やはり此処が一般客向けでないことを如実に示している。クリフトが湯に浸かる一方でソロが髪や身体を洗う様は、湯を楽しむというよりも作業的であることは否めないが、それでも過酷な旅の中で風呂にありつける機会はなかなかないのだから、これも貴重な時間と言えよう。
「クリフト」
「はい」
 目蓋を閉じて湯の心地よい熱さを感じていたクリフトは、近くで髪を洗う音を耳に返事をした。
「こうやって髪を洗ってるとな、一緒に乳が揺れる」
「報告はしなくて結構です」
 ソロの言葉を適当に聞き、クリフトはその柳眉を僅かに歪めながら更に身を沈める。言動こそ普段の奔放な彼に違いないが、見た目は勿論、声の音もまるで別の女性なのだ。いくら彼の魂が男であるとはいえ、自分が女性と一緒の風呂に入っているという事実はなんとも不思議な感触がある。
(意識などは)
 勿論少女はソロであり、旅を導く勇者である彼に対する感情など変わる筈もないのだが。湯船の中で密かに波打つ心臓の鼓動が早いのは、湯の熱さに反応してか、それとも。
「なぁクリフト」
「何ですか」
「女のお股ってどうやって洗う?」
「知りませんよ!」
 いつにないクリフトの荒げた声が浴室に響いた。
 
 
 

 
 
 
「あ、ソロ。お風呂はどうだった?」
「民家の風呂と変わんねぇ」
 旅の疲れを落とすつもりが、逆に疲れたような。ソロがまだ乾かぬ髪をクシャリと掻き上げながら廊下を歩いていると、丁度ロビーで涼んでいたアリーナと出くわした。
「クリフトは?」
「先に上がったよ。俺が怒らせた」
 歯を噛み締めるように笑う仕草は以前と全く変わらないのに、今のソロがして見せるのは何処か雰囲気が違う。悪戯好きな彼がクリフトを揶揄って笑う様は少し色気があり、微笑で緩んだ瞳は同じ女性であるアリーナさえ見蕩れる程可憐で美しい。
 アリーナはぼうっとその横顔を見つめながら、唇を小さく動かして独り言ちた。
「ソロ、可愛いし、綺麗」
 部屋に戻った時にはどう弄ってやろうかと含み笑いを続けていたソロは、そんなアリーナの小さな呟きを聞くと、気を良くしてか冗談めいて言った。
「上玉だろ? 素材が良いから当然さ」
 女の姿をした自分に優れた美貌があることは自覚しているソロである。やや大仰に肢体をくねらせながら色っぽく微笑して見せると、艶めかしい視線を注がれたアリーナは少し驚いた後に苦笑した。
「これ、マーニャの真似」
「ソロったら」
 やはり中身は彼である。アリーナはソロのクネクネとした大袈裟な仕草に声を出して笑ったが、昼間に感じた心のしこりが消えることはなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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