裏2



白く光に反射する美しい破片が ゆらゆらとゆっくり落ちてくる。
太陽の光が細く長くカーテンのループを描いている。

(ここは海の底?
 ゆっくりと降り落ちてくるこの白い雪はマリンスノー?
 それとも なつかしいオーブの海?)

――私は …どうしたんだろう?

水の揺らぎに、溶ける光に、照らされたまわりが
だんだんと暗くなっていく。
眠りから覚醒するような身体の重みを感じて
夢をみているのだとカガリは気づいた。

唇に感じていた柔らかな感触がふいに消えた。
肺が苦しくて息をしていなかった事を思い出し
深く息を吸ってゆっくり吐く。
身体がそっと倒れていくのを感じる。
背にあたる布の感触でようやく地についた平衡感覚を思い出す。
ささえていた手が離れ瞼にかかっていた前髪をそっとすくいよける。
見なくてもわかる。

自分の大好きなあの長い指。

ゆっくりと目を開けると鮮やかな翠玉の光。
穏やかに微笑む美しい男の顔。
「…アス…ラン」
名を呼ばれて更に慈しむ笑顔。



カガリの少し放心したようなうつろな瞳は濡れた琥珀のようで
つややかで惹きこまれる。
今も繋がってる部分がひくりと動く度に
本気で回復していきそうで、名残惜しいがアスランは秘苑から自身をずるりと抜いた。
「ん」と一瞬目を瞑るカガリの表情が奥底にまだチリチリと音させる残り火を煽る。
このまま見ているだけでまた欲情してしまいそうだと
アスランは自分をあきれてしまう。
カガリの前ではどうしても自制がきかない。
そんな自分に驚き信じられない気持ちでいるにもかかわらず
カガリの前では子供のように求めてしまう正直な自分を
平静なもう一人の自分が苦笑の目でみつつ好ましく思うのだ。
血のバレンタイン以降はじめて温かい人間らしい感情を
取り戻せたように思う。
カガリだけが自分を解放して自由にしてくれるのだ。
カガリだけが。


アスランはカガリに触れるだけのキスをする。
余韻にひたってまた暴走しかねない自分を叱咤して
気持ちを切り替えた。
薄明かりの中事後の処理をと身体を起こし、
ティッシュとタオルととってベットに戻ると
ふと光が目の端にはいる。
サイドテーブルに置かれたそれを手にとった。
服を脱ぎ捨てた時それだけ大切にテーブルに置いたのだ。

愛しい女神がくれたハウメアの護り石。
アスランはその石を身につける。
自分が女神のものである証として。

ベットでけだるそうにカガリは横向きに丸まってそれを見ていた。
カガリは思う。
あらためて意識して見るとこの男はなんて綺麗な生き物なのだろうと。
ネコ科の若い肉食獣を思わせるアスランの身体。
無駄のない筋肉のつきが暗がりの中でも美しい陰影を落とす。
目を奪われてその動きを追う。
アスランはカガリの横に手をついて膝をそっと持ち上げた。
いきなり恥ずかしい部分をまたあらわにされそうで、
カガリはあわてて脚ひいて手を押さえた。
「ちょっ 何?」

「今、拭くから」
「え いいよ 自分で」
そう言って起き上がろうとしてカガリは顔をしかめる。
「ほら、まかせて。」
アスランはカガリのおでこを軽く抑えて寝かせ、頬にキスをして黙らせる。
女神は観念して大人しく横たわり、厚意を受け入れた。

もう一度膝を持ち上げて
夜目にもたけたコーディネーターは細いシナヤカな脚の間から
とろりと流れ出るものに目を凝らす。
まだ生えそろわぬ恥毛がべったりと張り付く股間を
ぬらしているのが自分の精なのだと思うと顔に血が上る。
と、シーツをよくよく見ると細腰の下辺りに黒い染み付いている。
ほんのりとした灯りの中ようやく治まりだした自分自身も見る。
うっすらとギラついた照りに混じる赤。

破瓜の標。純潔の証。
胸詰まるような感銘に抱きしめてくちづけたくなる衝動を押さえ
そっと流れでる場所を拭ってやる。
触られてカガリはまた甘い息を吐く。
2度も吐き出した熱のせいでヒンヤリと冷たいシーツと細腰の間に
挟みこむようにタオルを敷きアスランは身体をカガリの横に滑らせる。
片手を女神の腕の下から肩にかけて抱きしめる形に置いた。

初体験となる体をゆっくりと休ませてやりたいと思うのだが
初めての標を見て余計恋慕は募るばかりで。
唇にふれる細い肩の肌ざわりについキスを送ってしまう。
「ふふ」
カガリはくすぐったそうに笑みを零し身体を少しよじる。

「ごめん。痛かったろ」
アスランが腰をそっと労わるように撫でた。
「謝るな。いいんだ。アスランだから…許した。」
カガリらしい返答がかえってきてアスランは安堵する。
強くて慈愛にみちた女神。
恋しくて心に浮かぶ言葉を素直に音にだす。
「あいしてる」
肩にキスを送り続けながらアスランが言うと
カガリが頬をすりつけた。
「うん」恥かしそうにそれでも嬉しそうに微笑む。
その笑顔にもアスランは胸焦がれる。

もう何もいらない。彼女の他には。
許されるのなら地球に降りよう。
この愛しい女神から離れることはもう出来ない。
キラもバルトフェルトも後悔するなと言った。
今女神を手放せば一生後悔するだろう。

シモンズの申し出を受け、モルゲンレーテに身を置く事を
アスランは心の中で決める。
一緒に降りることをキラは喜んでくれるだろう。
エターナルの同僚やバルトフェルトはどう思うだろうか。
と考え及んでバルトフェルトが言っていたことを思い出した。

「そういえば…ごめん。カガリの伝言って…俺聞いて無かったんだ。」
半身を少し起こし急にあやまるアスランにカガリは不思議そうに聞く。
「…伝言って?。」
「俺をカガリの部屋に呼んだんだろ?大事な用があるって」
「なんだ、それ?」
まるで初耳といったカガリの様子にアスランはバルトフェルトに
イッパイ食わされたのだと苦笑した。
だがそれは自分にとってよかったのだと感謝したい気持ちになる。
軽く為息を吐いて肘をついて頭をささえ横向きにカガリを見下ろしながら
柔らかい金の糸を指に絡める。


覚えのない事を言うアスランの顔は穏やかで
先ほどまでの激しさが今は夢のようだとカガリは思った。
自分は彼に抱かれたのだ。そして、意識を共有した。
不思議な感覚。
ずっと一緒に とカガリは思った。
アスランも同じに思ってくれたと確信がある。
自惚れではない。心で感じたのだ。

アスランの心臓の辺りに手をあて、
首から下がっている紐をたどって自分が渡した護り石を手に取る。
はじめは死んで欲しくないとただそれだけで渡した。
あの無人島で一夜を過ごし、キラを殺したと涙を流すコーディネーターは
自分と同じ年頃の、頼りない少年に見えたのだ。
そうして死線を共に乗り越える仲間となり、
いつの間にかかけがえのない人になった。
指を筋肉にそってなぞり、鼓動を手に受ける。
生きている――今自分は彼の腕の中にいる。
カガリはハウメアの神に感謝した。
あんなにひどく血を流す怪我をしてたのに、
無事にこうやって触れ合え、お互いの想いを通わせることができる。
――血。
と、ふと心配になる。
――そういえば怪我は?

「…お前…怪我は大丈夫なのか?」
「…大丈夫だよ。」
微笑む秀麗なコーディネーターは慈しむように女神の髪を撫でる。
あんな大怪我だったのに。こともなさげにさらりと言う。
まるでカガリの為なら怪我の事など、どうでもいいというように。

カガリの胸の奥にじわっと熱く湧き出す気持ち。
もう離れる事など考えられない。
融合した精神はもう半身を失っては生きていけない。
求める心に素直に従って何が悪い。
カガリは密かに決意を固める。

「アスラン…私…」
固い表情になってカガリが思い詰めた声で切り出す。
「私は…決めたぞ!」
急に声を荒げる女神に目をまるくして何を?とアスランは表情で聞く。
「お前がプラントに帰るって言うなら…私もついて行く!」
「――カガリ。」
「駄目だって行っても…ついていくからな!。…うん。何とかなる。何とかするさ!。」
(ああもう本当に)アスランは思わずカガリを抱き寄せる。
このかわいい女神から離れようなんて一瞬でも考えた自分は本当に馬鹿だ。
アスランは胸詰まる幸福におかしくなりそうだった。
自分を喜びに追い詰める当の本人は尚不安そうに訴える。
「…嫌なんだ。離れたくないんだ。…アスランの言う通り何でもするよ。だから私を…」

嬉しい申し出をいつまでも聞いていたいと思うも
自分が既に女神の元を離れぬことを決めたと言えば
どんな顔をするかが見たかった。
「カガリは俺をそんなにひどい男にしたいの?」
「えっ?」
「俺が…このままカガリと離れてプラントに帰ると思った?」
「だって…そう言っていたんだろう、みんなに…」
「そうだけどさ。それは…カガリが俺のものになる前の…」
「ば、馬鹿!、変な言い方するなっ!!」
「…ようやく…元のカガリだ。」
からかうようにいいながらアスランはカガリを抱きしめた。
「…モルゲンレーテに行くよ。」
「…アスラン。」
抱きすくめられたカガリがそっとアスランを見上げる。
不安に暗がかっていた琥珀が希望の色に変わる。
「正直迷ったけど、カガリの側にいたい。君が望んでくれるなら…」
「…一緒にいてくれるの?」
「一緒にいよう。」
「うん…」
カガリは恥かしそうに頷いた。そうしてまたアスランを見上げ
微笑む。

太陽の笑み。それは命を生み出す地球に恵みをもたらす慈愛と創造の光。
この少女に惹かれ、導かれ、心救われて、ここまできたのだ
この笑顔を護る為ならなんでもしよう。
何があったとしても命をかけて護りぬこう
アスランは胸元の石を握り締めカガリの手をとる。
「ハウメアの神に誓うよ。カガリとずっと一緒に。共に生きることを。」

気障な言い回しもこの端正な顔立ちのコーディネーターに
言われればまるで違和感がなくて
カガリは耳まで真っ赤にして胸に顔を埋める。
「うん」消え入りそうな声でアスランの誓いを受け止める。
手に入れた大切なものを2度と放すまいと

足元のシーツを細い肩まで引き寄せて、アスランはカガリごとしっかりと抱きしめた。







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長いので切りました。
まだ続く(゚◇゚;)次はダラ長

(H16.8.1)




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