モルヒネ


-6-



部屋に持ち帰った仕事は簡単なシステムの書き換えだった。
キーボードを何度か打ち間違えてエラーの表示がでる。ディアッカは舌打ちした。あの、嫌な感じがイラつく。


昨晩の徹夜作業あとバスターで仮眠をとろうとした所にミリアリアが現れて感情が制御できなくなった。
神経が昂ぶってハイな状態は血の力を呼び起こす。クリアになった意識がミリアリアの感情をイメージで拾う。
葛藤、困惑、追悔。

読み取れる断片的なイメージの中、ミリアリアはディアッカを同情していた。ディアッカがこれからも同胞と向き合わなければならないことに彼女自身の辛いイメージを重ねていた。ディアッカはそれを利用してミリアリアの咎める理性を崩そうと思った。頑なに自分を戒めるミリアリアは何度も越えてはいけない線を引きなおす。ディアッカは念じた。

必要として欲しいと。

これだけ、はっきりとイメージを他人に伝えられたのは初めてだった。
ミリアリアの中にあった隔てが全て消え去ってディアッカはあの時確かに意識を共有させたのだ。

ミリアリアは恐れながらもディアッカの意識をあるがまま受け入れる。

共有させた意識のその奥底に救いを求める抑え込まれた感情があった。 ディアッカはそのイメージをすくいあげる。
どうやってそれができたのか覚えていない。ただ、その感情をすくいあげ昂ぶった自分の感情を同調させた。

イメージを共有させるだけだった意識は完全に対話するまで形成された。

ミリアリアは死んだ恋人を抱いたままそれでいいのかと問うた。
ディアッカはそれでいいと包み込んだ。

それで――受け入れられたと感じた。

喜びで高揚する。意識をつかさどる部分が多大なエネルギーを放出するのがわかった。その力は集約して濃密になりミリアリアの意識を融合させたまま膨れあがる。

何もかもがドロドロに混ざり合い、核爆発のような閃光をあげて真っ白に弾ける。


――体が砕け散るようなインパルス。


そこで記憶が途絶えた。


おぼろげにミリアリアが呼ぶのが聞こえ、負荷がかかったからと伝えたことはかろうじて覚えていた。

目が覚めるとミリアリアはいなかったが、体にブラケットがかけられていた。
誰がかけてくれたのか。ミリアリアであろうと予想したが自信がなかった。

バスターの中での仮眠はほんの数時間だったがかなり深く眠れたようでほぼ調子は戻っている。
来てくれたのは夢じゃない、と確かめようとコクピットから出たところを不幸にも曹長に見つかり残りの仕事を押し付けられた。

与えられた仕事を効率よく片付けるもいかんせん量が多かった。解放されたのは勤務終了時間間際だった。
モニタにブリッジを呼び出すとミリアリアはあちこち回っているのでつかまらないとサイに言われ、ディアッカはあてもなくミリアリアを探しはじめた。


探し始めて急に不安が広がった。

意識を共有してディアッカはミリアリアが自分を受け入れたと確信していた。

それなのに 受け入れてくれたと思っていたミリアリアがディアッカを心から拒斥しようとしている嫌な感じがしたのだ。
その嫌な感じを追って倉庫に辿り着いた。
なぜか中にいるのがミリアリアだとわかった。

ミリアリアは倒れる直前だった。
腕に触れて抱きとめると不安にかられた感覚は消えた。
ディアッカが触れることでミリアリアから拒む気持ちが消えたように感じた。

ミリアリアは真っ青な顔色だった。 また食事もせず根詰めていたのかとディアッカはあきれながらも、不安に思っていたことを確認する。

このままの関係を続けることを。口付けをミリアリアは目を閉じて受け入れた。

唇が触れてディアッカは確信したのだ。

――自分だけではない。俺たちはお互いを必要としている。



「部屋で待ってる」
そう言えば来ると思った。ミリアリアは救いを求めてる。

確信は揺るぎないもの――のはずだった。


遅い時間になるのは予想していた。仕事を持ち込んで時間をつぶしていたので大して待ち焦がれていたわけではない。ただ、久しぶりにくつろいだ状態が考えなくてもよいことにまで意識を巡らせた。

コーディネーターの中で一際優れた調整を受けたディアッカでも寝ないと精神に負荷がかかる。
人の情動を読み、共感を強いるといわれた血の力はあの時、増幅され思わぬ形となってディアッカに発現した。ミリアリアとの間にだけ強力に発動したのだ。
一族に秘め伝えられる意識の共有と呼ばれるもの。古い言い伝えに神聖で至上の幸福とあった。

多分アレがそうだとディアッカは思う。
ミリアリアとの融合はSEXでの快感にも近い、ありえないほどのエクスタシーだった。

ディアッカは目を瞑る。至上の幸福と感じたあの悦を思い出してみようと試みて


不快になった。


じわじわとディアッカの中に流れこんできたのだ。
ミリアリアが自分を拒む、あの、嫌な感じが。


浮かぶ不安はイメージとなって張り付いた。ディアッカは打ち消す。

さっき確信したばかりだ。直に触れてミリアリアは受け入れたと感じた。

気を紛らわそうとキーボードを打つ。エラーを示す表示が何度も提示された。

「くそっ」

舌打ちして顔を覆う。


血の力が薄いディアッカの唯一それらしい能力は人の情動を多少なり感じ取ることだ。たいした力ではない。雰囲気を読んで相手の感情を読むことは勘の良い人間には大概備わっているものだ。自分は多少強い程度でそれも向き合った時にしか感じない。だが離れていて強い感情を拾うこともまれにはある。

それは負の感情であることが多い。

一度つかんだ感情は拾いやすいのか。あの、「嫌な感じ」だけが敏感に感じ取れる。ミリアリアが自分を拒否しようとする感情だけが拾える。

ディアッカは念じた。

ここへ来い――ミリアリア

ここにきて抱きしめればそれは消える。倉庫で触れた途端消えたように。お前を救ってやれるのは俺だけだ。

ディアッカの願いは通じ
ミリアリアの気配が戸惑いながら近づいてくる。
廊下をこちらに向かって歩いているものの立ち止まっては迷っている。
それでも温もり欲しさに歩きだす。いらつく。
そこまで欲しいのなら、なぜ。

扉の向こう、すぐそばでミリアリアはまた、立ち止まる。


ディアッカは扉を開けた。
憎悪に似た怒りを秘めて手を伸ばす。それは懇願が歪んだもの。

――手を取れ

もし、誰かがその場を見ていたらディアッカから立ちのぼる妖気がみえたかもしれない。ミリアリアは磁力に引き寄せられるようにディアッカの手を取る。

触れた瞬間ディアッカはその血の力でミリアリアの中にある繰り返された葛藤を感じ取る。

ミリアリアは現実を辛く忘れたがっている。
触れれば贖えないほどこの腕を欲している。
ディアッカは思った。
求めているのならなぜ素直に従わないのか。
俺がこんなにも――。


体中の血が逆流するほど強烈な恋慕。
狂おしいほど抱きしめて冷たい肌に息を吹き込む。

暖めてやる。辛いなら忘れさせてやる。

だから拒むな

ミリアリア
はじめて欲しいと思った女

――逃がさない。






ディアッカは焦れた。
秘所に差し入れた指は多少湿りをひろうが蜜は絡まない。思ったようにミリアリアは濡れてくれない。

最初抱いた時の方がまだマシだった気がする。あの時ミリアリアは喪失感に苛まれて自ら体を投げ出した。今は、やはり拒む気持ちがあるから?

そのまま無理やり捻じ込んでしまおうかとディアッカは一瞬思ってその 考えを葬る。

それでは駄目だ。一方的な行為を望んでいるわけではない。
自分を受け入れたミリアリアが欲しいのだ。
もう2度と拒むことができないように体から染み込ませないと。深みに追い込むような快楽を与えなければ。断つことができないくらいに。

唇を解いたディアッカは体を起こして秘所から指を抜きミリアリアのスカートを脱がす。
戸惑うようにディアッカの腕を押さえる力ないミリアリアの手をよけて構わずショーツも脱がした。むき出しの下肢を両手で割り、その間に身をおいたディアッカはミリアリアと目を合わせる。まだ迷うような面持ちのミリアリアに艶麗に微笑み、部屋の灯りを落とした。


乱暴に落としても手に入らない。なんて面倒な女を欲しがってしまったのだろう。


薄明かりの中で見るミリアリアの白い頬に優しくキスを落とす。つい先ほどまで荒々しくまさぐっていた手がうってかわり繊細なタッチで肌を撫でる。

唇で軽く食みながら顎からうなじ、耳たぶ、を舌で嘗め回す。その間もミリアリアの背を少し起こし上着を脱がせホックを外して完全に胸をはだけさせた。乳房をすくいあげながらつぼめ先端を軽く摘む。

ミリアリアは小さく声を漏らす。アンダーシャツもすっぽり脱がせて肩からブラを引き抜いた。何も身につけないミリアリアの体の線をなぞるように掌で撫でる。
ディアッカは喉元に吸い付いて唇を這わす。唾液でぬらすように鎖骨から胸元をなめる。飾りを口で含んで甘噛みしながらもう片方を手でやわやわと揉み解した。

ミリアリアにはなす術もない。ただ這う唇を意識で追いかけて与えられる粟立つ感触に耐え続けた。声を立てず息だけが荒ぐ。

体を撫でる手が恥丘に辿り着いた。弾力を確かめるように強く押し撫でクレパスの中にある片花びらを指で挟み腹で擦った。
「ぁ、…ゃ」

小さく声を上げるミリアリアの抑える手を制してディアッカは体を起こし自分だけ座りなおした。

おもむろにミリアリアの両足を肩に担ぎ上げ太ももを抱え込むように 体を引き上げる。ももを持ち上げたミリアリアの背の裏を自分の腰ではさみささえるように固定した。

甘美な香りを放つ秘所に口元に寄せ淡い茂みに口付ける。

ミリアリアが体をよじった。
「いや、ディアッカ、やめて」
肩で逆立ちする不安定な体制では到底力など入らない。ディアッカの膝をつかみ、懇願する。
「ディア…お願…い」

「外に聞こえる」
ディアッカは卑怯にも言い放つ。ミリアリアはこの関係を知られたくない。唇にキスをするように割れ目に口付けながらディアッカはほぼ真下に見えるミリアリアの表情を見る。

ミリアリアは一瞬目を見張って強く瞑る。唇を噛み顔を背けた。ディアッカは花園の中心にある割れ目の間に舌を入れ込む。

「…んんっ」
くぐもった声は罪の意識など吹き飛ばす。嗜虐心に煽られてわざと音をたてて舐め啜る。

仕官住居区のはずれにあるこの部屋の前になどほとんど人が通らない。ミリアリアだってそれを知っているだろう。それでもモシモを考えてミリアリアは唇を噛みしめるのだ。無駄な自己の道理を貫くために。それだけ彼女は自分を責めている。


楽になれるのに。
楽にしてやる。
お互いの利潤を一致する行為を刻みこんで忘れさせてやる。


ディアッカは唾液を塗りつけるように柔らかい肉をなめる。切り裂いたばかりの肉色を思わせる陰唇は舌のざらついた部分を強く押し付けて刺激を与える。

薄い恥毛が濡れてオレンジ色に光るすぐそばに小さなほくろがあった。
ディアッカは目を細める。

コーディネーターの視力でもこの薄明かりなら注意しないと見つけられないほど小さなほくろは白い尻に近いモモの付け根にあった。
舌でぺろりと舐める。

きっとミリアリアも知らないだろう。稚拙な抱き方しかしてなかったと思われる恋人もきっと知らない。
自分が与える官能に逐一新鮮な反応をミリアリアは示す。経験が浅い証拠だ。

秘密の場所を見つけたとディアッカは薄く笑う。


――俺しか知らない顔を引き出してやる。


花びらは開き肉厚を膨らませる。肉片がもちあがり隠れていた芯芽が顔をだす。充血したばら色のそれを痛めないように花びらだけディアッカはしゃぶりすする。

肩だけで支えるミリアリアは顔を背けた状態で苦しそうに口をふさいだ。けなげに耐える姿が余計ディアッカを煽ることも知らず。
シーツをたぐりつかみ口にくわえる。

ディアッカはそそられて一層愛撫に励む。
舌で陰花をくすぐり唾液をまぜあわせてしっとりと濡れた壷のふちを指でやさしく擦る。爪をたてないよう指の先腹で目に見える浅い肉襞の部分をやさしく円描いた。

「…ぅ…んん」

ミリアリアは息が粗ぐのを恥じて息を詰める。快楽に耐える声が格別に聞こえる。
体の中心に血が集まるのがわかる。ズボンがはりつめる。 知らず知らずにディアッカも呼吸が早まった。
更に鮮やかに色を増す花びらを音をたててすすっては、勃ちあがった芯芽を舌でそっと弾く。

ミリアリアの喉奥からの小さな悲鳴。

ディアッカは指を2本襞に埋め込ませる。腹側のざらついた部分を確かめるように指をばらばらに動かして襞を押し広げる。
舌を縦横無尽に動かして花びらを散らすようにしたまま指の腹で洞奥を擦り押す。

ミリアリアは反射したように体をねじらせた。
ディアッカの膝の固定から逃れ、片足をディアッカの肩から落として耐え切れぬ様子で股をつぼめる。それがかえってディアッカの指を銜え込む様態になり、なお身をよじらせる。
ディアッカは歪んだ笑みをこぼす。

挟み込まれた手を引き抜きディアッカは肩からミリアリアの足を下ろした。
ねじれた少女の体を肩をつかんでまっすぐに組み敷き唇を重ねる。
胸を押しつかんで動けないようにして閉じられた股間に手を差し込んだ。隙間からねじり入れてそのまま秘所に指を入れ込む。


「ぁあ!」


重ねた唇から首をふって背け悲壮に喘ぐミリアリアを、ディアッカは胸を攻めるのをあきらめてその開いた手で頭を固定させた。

唇を覆い舌をからめる。先ほどさぐった場所を指でぐりぐりと刺激押す。
勃起したクリトリスを手首に近いひらで押し付け擦りながらすこしだけ襞の中を斜めに探るとミリアリアは喉奥の喘ぎを高める。

強弱をつけて細やかに振動を与えながら、その場所を執拗に擦る。指をばらばらに動かして蜜をかき混ぜる。襞でトレモロを奏でるように。


唇を奪われたままミリアリアは息を詰める。
背をしならせ脳髄を駆け抜ける快感に体が浮遊していく。

ディアッカに塞がれた喉の奥でミリアリアは細く高く嬌声をあげる。

差し入れられた指を包む粘膜が急に生き物のようにうねり、ミリアリアは足をつぼめ硬直した。洞奥から染み出してくる蜜の温みがディアッカの指を伝いこぼれ落ちる。

ディアッカはミリアリアの口内を吸ったままその感触を楽しんだ。

指に纏いつくミリアリアの襞。

硬直した体はゆっくりと弛緩していく。指を締め付けていた肉壁はひくひくと痙攣していた。
口付けたままのミリアリアは睫に涙を携えてピクリとすると動かなくなった。

ディアッカは名残惜しげに唇を吸い、はなす。

もう一度軽くキスしても反応はなかった。
達したと同時にミリアリアは落ちてしまったようだ。

ディアッカは口の端を上げて微笑んだ。

絞り込むようにまだ震えるドロドロになった秘所から指をぬき、絡みつく粘液をなめる。
自分の唾液とは違う甘美な欲情の味。

「俺を必要として」

意識を手放したミリアリアにディアッカは囁いた。





(H17.2.4)



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