モルヒネ


-7-



「俺を必要として」

意識を手放したミリアリアに告げても反応はない。

痛いほど硬く立ち上がる自分自身をディアッカはズボンから引きずり出す。先端に露をにじませたそれは刺激を与えればすぐ果ててしまいそうなほど猛り膨張していた。

今ほどまで攻め立てて蜜の壷となった場所に雄をあてがい、そのままつきたてようとして思いとどまった。
意識のないミリアリアをつい先日思うまま抱いたことはあるが今はあの時と違う。自分を受け入れたミリアリアが欲しいとディアッカは思った。

自分に抱かれていると認識してるミリアリアが欲しい。
彼女の心は死んだ恋人を想うのだろうがそれはどうでもいい。
生きてこの腕で抱いているのは自分だ。
快楽を与えて、応え、よがるミリアリアが見たい。
今与えた愉悦に耐え切れずおちたように。

ミリアリアのほんのりと紅潮した頬をディアッカは舐める。動かないのを残念に思い、白い胸の膨らみをきつく吸う。赤い印をつけて所有欲を満たす。


お前は俺のものだ。逃がさない。


高揚に耐え切れずディアッカは自身を自分の手でしごき始めた。


――ミリアリア

ディアッカはさらに硬くなった雄をしごく。手を早める。


――目をさませ
――俺がまたイかせてやるから


背筋を駆け抜ける悦にまかせ、ディアッカは精を放つ。
ミリアリアの白く薄い肌の上に白濁の液が吐き出された。
まだ硬いままの雄を搾り出すようにしごき続けて、震えが収まりディアッカはミリアリアの体の上に中腰で覆っていた体をゆっくり戻す。ミリアリアの足の間で正座する形で深く息を吐く。

激昂した欲情が次第にトーンを下げて治まる動悸とともに冷静にものをみるコーディネーターの理性が戻る。

ディアッカはくっくっと自嘲して笑う。


俺は狂ってる


気を失った女を見ながら興奮して射精するなど、変態のやることだ。


思考の隅に冷静な自分を感じながらミリアリアの投げ出された体の上に吐いた精を見る。


どうしてここまでこの女に欲情してしまうのか。我を忘れてしまうほど。
こんなにも抱きたい衝動が起きるのは、ミリアリアと相性がよいのかもしれない。

吐き出す精に子をなす力は、既にないのに。

水っぽい液はその年頃の男が吐き出す量とは思えないほど微量だった。
この液の中に正常に機能するスペルマはない。

第2世代の中でも特に自分は子供を成せないと宣告された。
一族の直系の血は多分自分で途絶えるだろう。望んでいたことだ。この戦争で命を落とせば今後自分のように苦しむ者もいなくなる。


戦争を終わらせるなど、たいそうな理念に惹き動かされてきたが、ディアッカは自分に幸せな未来があるとは信じていなかった。

あるとしても自分が命を落としたあとだろう。
生殖力が歪められた自分の未来は閉ざされている。何の価値もない。

軍に入って戦闘に身を投じた時から覚悟はできていた。だが無駄に命を落とすのは無意味だ。投降したのはくだらないナチュラルなんかに無様に狙い撃たれて吹っ飛ぶより生きながらえて一矢報いる方がよほど有益に思ったからだ。当初の思惑とは大きくずれたがその選択は正しかった。

この戦争は意味がない。
意味のない戦いで命を落とすなど。
このままお互いを滅ぼしあいどちらか殲滅するまで戦うなど愚かな選択でしかない。

自分はなんの為に生まれてきたのか。
生きている意味をいつも自問してきた。

コーディネーターとそれを認めないナチュラル。
同じ人の種でありながら互いを潰しあう。誰かが歯止めをかけなければならない。
この戦いで生き残ることはできないだろう。それは誰もが薄々予感している。それで死ぬことになっても 未来を繋ぐ理念に賛同してそれに力を貸し、散るのならまだマシだとディアッカは思う。
それなのに。

いつ死ぬかわからない今になって。
女を抱き、子を残そうとする宿命を成し遂げようと、種の保存本能が行動を暴走させるのか。

ミリアリアに拒否されることが戦いで死ぬより辛いと思うなんて。

ミリアリアの腹部にのったそれをディアッカは指でなでひろげる。粘りのない水のようなそれを肌に刷り込むようにミリアリアの腹肌にひろげた。

お前を抱きたいと、俺の体はお前を欲しがる。
だけど、本当に欲しいのは

――ミリアリア

ディアッカは白い胸を愛しげになでる。
ミリアリアが反応して喉の奥で息を漏らした。
その音に血が沸き立つ。

さっきまで働いていた理性は愛欲に砕破され、求める本能だけに突き動かされる。
ディアッカは子供のように穢れのない笑みをこぼした。


――目を開けて。海の色をみせて。


目覚めを促すようにディアッカはミリアリアにやさしく強引なキスを落とす。
唇から割り入った舌でミリアリアの舌を巻き取る。ミリアリアは霞んだ意識を表面に取り戻した。

口内を柔らかく蠢く熱いものは舌だと気が付いて目を薄くあける。
光るアメジストが見えた。


――綺麗な色


ミリアリアはこの宝石が美しい獣の目だとわかった。
自分はもうすぐこの獣と同化する。血となり、肉となり、しなやかな身体の細胞の一部となれる。つらいことも悲しいことも、何も感じないで済む。


「ミリアリア」
艶かしいほど色に濡れた声が呼ぶ。

ミリアリアの目は焦点が合わない。
ディアッカは自分の着ていたシャツとズボンを脱ぎ、塗りつけた自分の精を脱いだ服でふき取る。一度吐き出して尚色欲に硬くそり勃ちあがっている雄をもう一度しごく。


――俺を求めて。


自分の中心にあたる熱にミリアリアは気づく。
膝を抱えあげられ先端が濡れそぼる場所を円を描いて擦り当てられる。
ミリアリアはこの獣の腕の中で愉悦に耐え切れず意識を途切れさせていたことを思い出した。


獣ではない。痛みを忘れさせてくれたコーディネーターの男。
でもこれ以上はもう。


喉がひりついて声がうまく出ない。絞りだすように男の名前を呼ぶ。

「ディアッカ」

妖艶にディアッカは微笑んだ。
同時に欲望の塊が十分に潤んだ蜜の壷にゆっくりと押し入れられる。

「ぁああ…」

背をそり返しミリアリアは反射的に挿入から逃れようと腰をよじるが膝を抱えあげているディアッカの手がそれを押さえ込んだ。

指とは比べ物にならない肉棒が狭い襞筒を押し広げて深く満たしていく。
先刻与えられた雷火がミリアリアの中心を駆け抜ける。目の奥で火花が散り残り火が音を上げて瞬時広がる。


「ぁ…ぁ」


死んだ恋人とは適わなかった快感にミリアリアは身悶える。目を強く瞑って唇を噛む。ひくひくと勝手に襞が雄を締め付けるのがわかる。

はじめて肌を重ねたわけではない。ひどい抱き方もされた。それなのに繋がった場所から広がっていくもどかしい快楽にわななく。
極上の愉悦。


恋人ではない男との背徳な行為。どうしてこんなに。



「目を開けて。ミリアリア」


雄を全部納めてディアッカはミリアリアの脇に手をつき、耳元で囁いた。細波のように広がった悦が末端まで抜けきりミリアリアは息をつく。
震える唇に己を軽く重ねてディアッカはもう一度言う。

「目を開けて。」

じりじりと吐き出そうとさえする狭い洞奥を慣らすようにディアッカは小さくグラインドさせる。

「ぁぁ」

「いい子だから。目を開けて」
艶やかな声を潜めて、まるで子供をあやすように優しくディアッカは囁く。
それが逆に怖さを募らせた。ミリアリアは恐る恐る目をあける。息がかかるほど近く端正な顔立ちのコーディネーターがミリアリアを見ている。
微笑む口元とは裏腹な冷たいアメジストがミリアリアを射抜く。

「ミリアリア。まだ俺とのこと、なかったことにしたいの?」

心にわだかまる問題をつきつけられてミリアリアは目を見開いた。
「な…んで…」
「俺そういうの、勘がすごくイイんだ。」

ディアッカは腰を少し突き入れてまた引いた。
「ぁ…ん!」

「ミリアリアが知られたくないなら皆の前では関係ないフリするよ、ミリアリアが死んだ男を好きなのは知ってる。それも俺は気にならない。こうやってミリアリアを抱きしめられればそれでいいんだ。」

ディアッカは息を吐くように伝える。
「だから、このままで、いいだろ?」

問うように言いながらそれは必ず従わせると決意を秘めている。
ディアッカは腰をまた小さくグラインドさせてミリアリアの喉元をねっとりと舐める。
ミリアリアは喉の奥で引きつるように声をあげないように耐えた。
ふるふると首を振る。

――そんなずるいこと、できない

「だ…め」

ディアッカは怒りに震える。
「なんで…」
血が沸騰するように熱くなる。入り口ぎりぎりまで引き抜いて力任せに深く貫く。

「ぁあ!」

ひねりをいれてぐちゃぐちゃにかきまわす。動きを封じるように絡みつく洞奥。ミリアリアは必死で腰を逃がそうとするが押さえつけられる。

悦に飲み込まれないようにミリアリアは指を噛んでこらえようとする。
その姿がいじらしく、余計ディアッカの激情をたきつける。

怒りに熱くなっている血がギュウっと中心に集まる。より硬く膨らむ自分の雄。ミリアリアの耐える顔を見ただけでイッてしまいそうになる。


危険なドラッグ

キメればキメるほど深みにはまって抜け出せない。


ディアッカは抽挿を続ける。顔を近づけてミリアリアが噛んでいる指を舐める。唇で愛撫するようにその指をくわえた。律動を与えながら死肉を貪るハイエナのようにがつがつとミリアリアの指を、
手を、唇を、食らう。


ミリアリアは目を瞑って途切れそうな意識を掻き集める。
次第に与えられる悦が痛みに変わっていった。
追悔が広がる。

死んでしまった恋人、守れなかった自国、行き場のない憎しみ
忘れることの後ろめたさ
――生きることが辛く悲しい

ミリアリアはヒクっと喉で啼いた。

このまま死んでしまえば、楽になれる。



ミリアリアの肌がひんやりと氷のように

――凍っていく。






(H17.2.9)



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