モルヒネ-8- ――凍っていく。 ディアッカはそう感じた。 焼付けを起したように引き攣れる繋がりに律動を緩める。 急速に、しぼんでいく欲望。攻めつけた下肢が鉛のように重い。 ディアッカは絶望に堕ちた。 首をうなだれて完全に動作を止める。 白い身体の両脇に手をついたが、力なくひじが折れた。 ミリアリアの冷えた身体に覆いかぶさる。 頭を抱きかかえるようにディアッカはふせた。 初めて抱いた時、ミリアリアは冷たい体だった。 愛撫を丁寧に施し、繋がって解放してやった頃、ようやく体温が少し戻った。 2度目に抱いた時はあんまり覚えていない。欲望のまま抱いて経験の浅い体は早々に意識を手放した。吐き出してカラッポになって、最後に自我を取り戻して抱きしめた体は温かい熱がつたわってきた。 気持が伴わないと彼女の身体はあたたまらないのだと思った。同情でもなんでも。受け入れると自分から思わないとミリアリアは温もりをくれない。 強引に抱いても、心は動かせない。 凍っていくのを止められない。 肉体が繋がっていても、望むものは手に入らない。 どうして彼女のことだけがこんなに感じ取れるのか不思議だった。 自国を守ると言い切った時の強い意志。想いの強さ。ミリアリアは強い。 その強さに惹かれた。 惹かれて、知りたいと願っていた。 今ほど血の力を憎んだことはない。負の感情が読める力など、いらなかった。ミリアリアの冷めていく意識などわかりたくもないのに。抱きしめればどうしてもイメージが流れ込んでくる。 ミリアリアは何も求めていない。生きているのさえ辛いと思っている。 今のミリアリアは抜け殻だ。生きる力まで失っている。自分が望む強い彼女はこの手の中で凍えていく。 欲しかったのは強いミリアリア。 その どうしてなのか、おかしなことだけど。 プラントでも軍でも1人でいる方が楽だと散々好き勝手にしてきたのに、17年も生きてきて初めて必要とされたいと願った。 不安も寂しさも誤魔化して生きてきた中でつきつけられた自分の価値が彼女に必要とされるだけで意味のあることだと思えた。 自分が本当に何を望んだのか。 どうかミリアリア、強い心のままでいて。 1人で凍えていかないで。 辛いなら抱きしめるから。俺を必要として。 俺が生きててもいい理由を与えて。 バスターのコクピットで意識が融合した時に浮かんだイメージは自分の願いそのまま。あの時イメージとして伝えた『言葉』をディアッカは音にだして伝える。 「俺を…必要として 生きる理由が欲しい」 からっぽになったミリアリアにその『言葉』は現実の音として聞こえた。 ディアッカの声が発する音は何か力が宿る『言葉』として頭の中で組み合わさる。 鼓膜から振動して脳へと伝わる『言葉』は記憶を引き出す。 ミリアリアの心臓がドクンと大きく脈打った。 あの時感じたイメージが ディアッカの口から吐かれたことに、ミリアリアは混乱する。 気のせいだと思い込んだ頭蓋内に響いたイメージそのものが瞬間に目の前に広がる。 自分の思い込みだと思っていたそれは現実のものだったのだろうか? 今、あの時のようにミリアリアの中にディアッカが入り込んだ不思議な「感じ」はない。 それでもディアッカの心が何かに追い詰められていることはわかった。 今ディアッカは自分の肩上に顔をうずめ、泣きそうな声で『言葉』を呟いたのだから。 懇願を含んだ『言葉』の意味。 ミリアリアはディアッカの言った『言葉』を頭の中で繰り返す。 必要とされるだけで存在意義が確かめられる。 それは自分も同じだと思った。 ディアッカも何かに縋りたいのだろうか。 生きるのが辛いと、思うのだろうか。 ミリアリアはディアッカの背をそっと撫でた。 絶望に打ちのめされてふせていたディアッカは手から伝わる優しさを感じて顔をあげる。 凍えていくと感じていた絶望が薄れていく。 ミリアリアの青い瞳が慈愛を含んだ色に見える。 ディアッカはミリアリアが何かいいたげにしているのを察し、促すように首を少しだけ傾ける。 ミリアリアは迷ったようにしていたが、意を決したように口をひらいた。 「…ディアッカも…」 ディアッカの頬に手を添える。 「辛いの?」 「うん」 うなづく自分は子供みたいだ、とディアッカは少し恥ずかしく思った。 それでもミリアリアが手を伸ばして触れてくれるのが嬉しくて甘えるように頬を擦り付ける。 頬を押し付けてディアッカは胸の奥が震えた。 ミリアリアの手がほんのりと暖かい。 いつも偉そうに口の端をあげて威圧する男が見せたしぐさにミリアリアは驚きとともに庇護の感情がわきあがる。 薄明かりの中に見えるディアッカは不安げに愛情を乞う子供のようだ。ミリアリアは胸の奥がキュンとなる。 コーディネーターはナチュラルより肉体の成長が早く、15歳で成人扱いと聞いていたが、ここにいるのは頼りなくて、自分と同じように何かを辛く思い苦しみ縋る少年。 私がディアッカを必要だと言えば、楽になれるの? こうしていれば、つらいこと忘れられるの? ディアッカも忘れられるの?私と同じように? それは色々な意味を含んだ言葉で。ミリアリアは聞いた。 「…楽になれる?」 ズルイと思う。否定する自分に嘘をつくことになる。受け入れる為の免罪府を手にいれようとしているのかもしれない。心の中で葛藤はいまだ続くけれど。 ディアッカは答える代わりに頬に添えられた手を取り、その手に唇を押し付けた。 ミリアリアの白い手に何度もキスをする。愛しげに、甘えるように。 しばらくそうして名残惜しげに離すとディアッカは今度はミリアリアの唇にゆっくり自分を近づける。 まだ迷うような青い瞳と目があった。 ミリアリアの心がはかない影のように思えてディアッカは慎重に伝える。 「ミリアリアが必要としてくれたら」 太陽の暖かさを溶かし込んだ青は海の中から水面を見たように大きく揺らぐ。 唇を近づけて重ねるとミリアリアは目を閉じた。端からこぼれおちる雫は躊躇いも流していく。 ディアッカの口付けにミリアリアは自分から閉じた唇を開く。舌を招きいれるようにして受け入れた。 むしのいい考えだ、と本当に思う。この行為が今もいけない事だと思うのだけれど。 それでも自分が彼を必要として、それが彼の生きる理由となるなら。 卑怯な女となって生きてもいいのかもしれないとミリアリアは思った。 必要として、必要とされて、どちらかが与えるだけじゃなくお互いに縋るものが必要なのかもしれない。 キスを深めるディアッカは眩暈をおぼえる。 ミリアリアの身体の温度を確かめるように肌に触れた。 冷えた体はそのままだったが触れるとそこからほんのりと温かさを戻すように思えた。舌は柔らかくつたない動きながら応えてくれる。 萎えていた自身にも熱が伝わる。急に質量を戻した雄はミリアリアの中で存在を主張しはじめた。 ディアッカは心の中で笑う。ゲンキンな体だ。 ミリアリアが受け入れてくれると思っただけでこんなにも発情してしまう。 欲求に従って激しくしたいのをとどめ、深い口付けは優しいまま腰を少しだけ回し入れる。 舌を絡ますミリアリアの息に声が混じる。ディアッカは腰を少し引いてまたゆっくりと押し入れた。性急にならず慣らすようにゆっくりと続ける。 口付けも律動もじれったいほど緩慢にそれでいてしっかりと捕らえて。 促される舌に止まっていたミリアリアの舌がまた絡められるがすぐ、止まってしまう。 リラックスするようにディアッカは細い肩から腕にかけて撫でた。 そのまま手の先まで撫で指を交互に絡ませて握る。握りこまれたミリアリアの指も閉じた。 触れている先から熱が伝わっていく。 まるで処女を抱いているかのようなキツく乾いた洞窟がほんの少し潤んで引き攣れた痛みを和らげた。 ディアッカはあいている片手で膨らみをすくい上げる。手でその感触を味わいながら、猛りを増した雄で襞壁を探る。 洞窟の中ほどにある、先ほどミリアリアを指でイカせたあたりに狙いを定めて少し斜めに腰を入れた。 「ぁ、はっ…」 たまらずといった風に口付けをのがれミリアリアは喉をそらす。ディアッカはその喉に吸い付いた。 雄のくびれがその場所をひっかくようにして細かく振動を与える。 ミリアリアの指に力がこもる。首筋を舐めながらディアッカは胸を触っていた手を脇について本格的に腰の動きに集中する。 背筋からせりあがるようななんともいえない感覚にミリアリアは中心が熱く反応していく。 ディアッカと初めて肌を合わせた時は、尋常な精神状態ではなかった。2度目の時は身体だけが本能に反応して受け入れはしたが、青いままの精神は深い愉悦までは達することはない。苦痛に近い暴力的な動きに耐え切れず意識を落とした。 でも今は。 正気の状態であるミリアリアの意識は身体が勝手に感度をあげていくのにおいつけない。 行為を拒絶しようとしてあんなに苦しんだのに、向き合って受け入れようと思った途端、心の奥がゆるりとその悦を導いてくる。 じんわりと広がる果てしなく甘い官能がミリアリアを包む。 ミリアリアの身体は与えられる刺激に急激に開花し、それを受け入れる為に変貌していく。 ざらついた襞が収縮して絡み付いてくる。ディアッカ自身を包む内壁が暖かかく雄を包む。それがミリアリアから染み出す液だとわかってディアッカはますます集中する。こすり付ける雄をグラインドして少し幅を広げて抽挿した。 握りこまれた手はディアッカの体重を支える為に押さえつけられて動かせない。ミリアリアは洩れでる声を抑えるようにあいている手の指を噛んでいた。が、律動から細かく与えられる悦に耐え切れず噛む指を離す。ディアッカの腰を抑えた。逃れようと逃げてよけいそれが悦を呼び込む。 開いていた両膝をディアッカの腰に押し付けてヒクヒクと力が入ったと思うと背をそらし喉の奥から細い叫びを上げた。 ディアッカは腰を止める。ミリアリアは苦痛に耐えるように眉を顰めていたがそれが達したせいだとすぐにわかった。 雄を包む襞がぐにゃりと動き熱くなったのだ。しばらくしてその小さな蠕動は収まり、抽挿を再開すると動きがスムーズに、少し水音が加わる。 雄は今までにないほど猛りを増す。 抽挿を速めるとミリアリアは 「お願い、ゆっくり」 とディアッカの腰に爪をたてた。 それが達したせいで過敏になったせいだと経験豊富なディアッカにはわかっていた。 行為に慣れた遊び女なら更に情欲を注ぎ込むように追い込むところだが、ミリアリアはそうではない。 大切に扱いたいと、壊すほど愛したい嗜虐心をどうにか押さえ込んでディアッカはミリアリアの希望通り動きを緩める。 願い通りされればミリアリアは一度達した体をまた強張らせはじめた。 絡まる細胞のうねりでミリアリアがまたのぼりつめようとしているのがわかる。 「ぁ、ヤ、ダメ」 首を振ってミリアリアは小さく言った。 初めて抱いた時も2度目にひどく抱いた時もこんなそぶりはみせたことがない。 たまらない。 溢れる思慕に突き動かされて自然に口元に吸い寄せられる。 どうしようもなく身体中が痺れて、もどかしい状態のところに唇から生気が吸い取られるような口付けをされてミリアリアは余計熱にうかされる。 じりじりと下肢の中心は相変わらず熱く、滑らかに動く舌に絶妙なタイミングで吸い込まれる。 意識が朦朧とした頃に、ディアッカはようやく名残惜しげに口付けを解いた。ミリアリアは深く息を吐く。 そうしてゆっくりと現状を把握しようと焦点の合わない目をあける。すぐ目の前に美しい彫刻の美貌を持つコーディネーターがあった。 薄明かりで特に反射するような光源がないのにディアッカの瞳は綺麗に光っている。 ――綺麗 うっとりと見とれていると下肢にまたうずくような悦が走る。 「ぁぁっ」 存在を主張する欲望が中心にぐいとえぐりこまれる。 むき出しの神経を刺激する喜悦が生まれては連鎖して体中を焼く。 ディアッカとしたらそんなに動かしたつもりはないのだが、一度ついた火は瞬時に燃え広がりミリアリアはまた、すぐに達してしまった。 秘奥から温い水が沸き出でる。 壁が収縮して粘膜はうねりビクビクと肉棒に痙攣が伝わる。 ディアッカは喉を鳴らした。 「ミリアリア、お前ん中、すごく…」 こときれそうな状態なのにミリアリアはディアッカの尋常でない声が気になって薄く目をあける。 色に濡れた紫が 闇の帳のように瞬く。 「ごめん、もう…」 泣き言のように苦しげに吐かれ、ミリアリアが何かを答える間もなく、ディアッカはミリアリアの体を抱き上げて起した。 繋がったまま座り直す。 ディアッカの腰の上に乗るミリアリアは思いがけなく深く銜え込む形に悲鳴をあげる。 ディアッカのたくましい肩にしがみついて許しを請う。 「え、いや、ダメ、ユルシ…」 ようやく抜けていた痺れが瞬時に全身を襲い、動こうにも深く突き刺さる楔は悦楽を生むばかり。 ディアッカの方も完全に限界を超えていた。 中心を貫く雄は硬く前にも増して猛ている。 浅くなっていた洞窟の天井に先端が当たる。 じわりと押し当てるように突き上げるとミリアリアの奥が引くついて急に締まる。 ただ腰をゆるりと動かすだけでミリアリアは震えた。 先端があたるその場所に数度刺激を与えるだけで十分だった。 襞がそのまま生きているような蠕動を雄に与える。 感じた悦が何倍にもなって相手に還元され、それが永遠に繰り返されて。 「ぁ――、」 縋りつく少女をディアッカはきつく抱きしめる。 密着した肌からつたわる互いの法悦。 繋がった一番奥に膨らむ熱を感じる。 互いを求めて意識が交錯する。 脳のどこかで歓喜によるオーガズムが起こる。それが全身をつたって何もかも解放した。 同調する愉悦と互いに与え合う肉体の充実感。 まるで違う意思を持つかのようにその場所は急激に収縮して激情を受け止める。 ディアッカはもちろん達し、ミリアリアは。 はじめて与えられた悦楽に屈し、 身悶え、 白く弾けて、 果てた。 ミリアリアはかき消されて行く意識の底に沈んでいく。 波に漂うような心地よさにすべてを委ねた。 力強い腕に抱えられてゆっくりと背にシーツがあたる。 柔らかなものが肌に触れた。 それがディアッカの唇だと身体に染込んだ記憶が教える。 眠っていく意識が説く。 まだ迷う心は残るけれど、 この未来を選んだのは自分。 暗く圧し掛かる未来を手探りだけで進む勇気を与えてくれるなら。 このキスは 辛いと感じる現実が鈍麻していく 使い方を誤れば危険な それでも今の私たちには 必要な ―― end. (H17.2.9) <文目次へ戻る> < オマケ > |