Truth -真相-
2人は傍目にはつきあってるようにも見える。
でも2人に聞いてみるとそれぞれ違う回答が返ってくる。
ミリアリアはただの同僚というし
ディアッカはニヤリと笑って「さあね」と とぼけた。
宇宙にきて、2人がそういう関係になっても〈ただの同僚〉の枠はそのままだ。
ミリアリアは死んだ恋人が忘れられない。
ディアッカが自分に好意をもって接してくれてるだろうとは思うが
それでどうするといった事にはなっていない。
彼はミリアリアが自分を好きじゃなくても構わないと言う。
ただこの手を払わないでいてくれればそれでいいと言う。
真面目なミリアリアにとってそれは罪悪感に繋がった。
自分に好意を持つ男の気持ちを踏みにじってる気がするのだ。
(このまま彼の好意に甘えていいのだろうか?)
時折彼女はこの関係を終わらせた方がいいと彼に提案する。
その度彼は彼女を抱きしめる。
彼女は心地よいその腕を払いのける事はできなかった。
先の見えない未来に気持ちが疲れて寄り添い肌を重ねる。
破滅的な予感を快楽でごまかしていた。
心の逃げ場所を求めて傷を舐めあってる。ミリアリアはそう思っていた。
ディアッカと肌を合わせて、しばらくして
ミリアリアは今まで忘れていた下腹部の痛みを感じた。
(あ、始まった。)
それは恋人が死んでから止まってしまった女である証。
恋人を失って彼女は精神的にも肉体的にもダメージを受け
それは敏感な彼女の体に反映した。
(身体って不思議)
彼に身体を許して外的刺激だけだとしても
彼女の身体は子孫を残そうという原始的本能を復活させたのだ。
自分の女である証を見て彼女はちょっと心配になった。
(そういえばアイツ避妊しない。)
今までは自分もそんなに気にしてはいなかった。
だが望もうと望まざると、自分の身体は勝手に準備をはじめているのだ。
気にしないわけにはいかなかった。
その夜いつものように彼が彼女を誘いにきた。
だが彼女は拒否した。
彼は引き下がらず無理やり彼女を押し倒す。
「ちょっちょっやめ!」
スカートに手を入れていつもと違う感じに彼は気がついた。
「あっそっか。こういう事か…」
だが彼女をまさぐる手を緩める様子はなかった。
「ちょっ…だからわかったんなら止めてよ!」
「なんで?いや?」
「いやに決まってるじゃない!」
「俺は別に気にしないけど。シャワー室でする?」
とんでもない男だと彼女は思った。
「何言ってんのよ!いやだったらいや!」
渾身の力を込めて彼を跳ね除けようとした。
だが彼はいとも簡単に彼女を押さえつけ、愛撫の手をやめようとしない。
彼は優しくキスをした。啄ばむように彼女の頬に唇に首筋に。
だんだんと官能をくすぐる彼の唇に反応して彼女は身体が熱くなるのがわかった。
だがここで流されてはいけない。
「やめて!」
低く怒りを込めて彼に威嚇した。
彼女が本気で言ってるのを察したのか彼は行為を中断した。
「どうしてもいや?」「いや!」
彼女の即答にがっくり首をうなだれ渋々抑え付けた手を放した。
彼女はこれ以上、組敷かれないようベットから起き上がろうとすると
彼の腕がウエストにまわされ逃げないよう捕えられた。
「じゃあ…一緒に寝るだけでもいいや」
抱きかかえた腕に力がこもる。
「ちょっと…やだここで寝る気?」
「ここが嫌なら俺の部屋来る?」
飄々と言いながら茶色の髪に顔を埋めて音をたててキスをする。
「もう…」
身体を許してから彼は彼女に強引な振る舞いをみせた。
それは決して憎憎しいものではなくあくまでもスマートでさりげないのだけれど。
皮肉めいた人をからかうような態度が鼻につくが
柔らかな微笑みを携えそれは不思議と嫌な感じはしなかった。
コーディネーターのもってうまれた魅力というのだろうか。
彼はAAの中でクルーにも好かれていた。
「わかった。何もしないって約束してね。アンタの部屋にいくわ。」
ミリアリアが溜息まじりでそう言うと
ディアッカは満面の笑顔を彼女に見せた。
ミリアリアの部屋は下士官用の大部屋ではあるが
AAに女性クルーは艦長と自分しかいないので1人部屋も同然だ。
だがここは他のクルーの部屋と並んでいるので
朝早くディアッカを追い出したとしても他の人に目撃される可能性は高い。
ディアッカの部屋は仕官区になるので
人手不足のAAの中で他の人間に出会う確立は下士官区よりかなり低くなる。
なのでディアッカと情事を重ねる時、ミリアリアはディアッカの部屋に行く事になるのだ。
「先行ってて。」
「来なかったら襲いにくるよ?」
いたずらっぽく不敵な笑みをうかべ彼は念をおした。
返事をせず虫を追い払うような手振りをみせる。
彼は肩をすくめて部屋をあとにした。
身体を許しあう仲なのにミリアリアは相変わらず皆の前ではそっけない。
周りの人間にディアッカと特別な関係だと知られるのが嫌だと彼女ははっきりと彼に告げた。
それが別に不満というわけではない。
ディアッカは恋愛沙汰には淡白だった。
明日をも知れない軍人になる頃には彼は深い結び付きを求める女が面倒臭くなっていた。
幸い近づいてくる女は大概遊び半分で面倒な事はなかった。
擬似恋愛を楽しんでは軽く別れての繰り返し。
来る者は拒まず、去る者は追わず。
そんな彼が真面目な彼女に何故か惹かれるようになる。
ミリアリアとの関係は説明が難しい。
彼は自分を殺そうとして助けた女が不思議で興味がわいた。
ただ彼女が死んで欲しくないと願っただけで行動したら
いつの間にかAAに乗り込む事になっていた。
多少の下心はあったものの彼女が自分に向いてなくてもいいと思った。
彼女を抱いたのは今まで感じた事のない庇護の気持ちと同情からだった。
彼女は恋人を殺した相手が目の前に現われ自国が落ちていく様を見て、心のバランスを崩した。
だから欠けたバランサーを戻す手伝いをしただけだ。
そして彼が崩れそうになった時意外にも彼女がささえ返した。
お互い傷の舐めあいだったかもしれないが今は不安定な心の支えになって
こうして身体を寄せ合う関係だ。
ミリアリアはディアッカの事は嫌いではないという程度だろう。
身体を許しても彼女の心は死んだ恋人が占めている。
ディアッカはミリアリアの事を好きかと聞かれればそうだと答えられる。
だが彼女の気持ちが欲しいとまでは思わない。
ミリアリアが自分をどう思ってようが抱きしめる腕を拒否されなければそれでよかった。
自分と真面目な彼女を隔てる元恋人はこの世にはいない。
生きてる他の男に今の彼女がなびくとも思わない。
隠しても2人がつきあってるだろうと周りは既に暗黙の了解をしめしていので
彼女にちょっかいかける男はいない。
(ならこのまんま曖昧でもいいか)
彼にとってこの関係は面倒臭い事もなく、彼女のそばにいられれば満足だった。
彼女を抱いていると言いようのない暖かさを感じる。
こんな恋愛ならしてもいいと彼は人ごとのように考えた。
ディアッカの部屋にミリアリアが訪れたのはそれから1時間もあとの事だった。
「来ないかと思った。」
柔らかく抱きしめて彼はベットに彼女を引きずり込んだ。
「来ないと、襲いにくるんでしょ?」
「ご名答」
組み敷いてキスの雨を振らせ始めるディアッカを制して
「約束。今日は何もしないで」ミリアリアは冷たく言った。
「キス位いいでしょ」続けようとする彼に彼女は
「やっぱり帰る」と起き上がる。
「はいはいわかりました」
両手を軽くあげて降参のポーズをとり彼は彼女の上から身体をずらした。
彼女は溜息をついて彼に背をむけて寝転ぶ。
彼は後ろから腰に腕をまわして抱きかかえた。
「なんで嫌なのかなーアレの時って余計に感じるんでしょ?」
「アンタねえ」
肩越しに睨み付けると彼はにっこり頬にキスをしながら「違うの?」おどけて言った。
あきれて口がふさがらない。
(この男にははっきり言わないと駄目だ)
彼女は意を決して本音を伝えた。
「だってアレの時はもう妊娠の可能性があるのよ。」
「えっ?」
ミリアリアの言葉にすごく驚いたディアッカは身を乗り出して彼女の顔を見た。
彼女は顔を少し赤らめて目を合わせないようにそらした。
「だってあんた全然避妊してくれないし…」
彼女の言葉が飲み込めない風だった彼が納得したように大きく頷いた。
「…ふ〜ん、なるほどね。そっかナチュラルはそういう心配があるんだな」
今度は彼の言葉に彼女が驚いた。
「ナチュラルはってどういう意味よ」
ディアッカはミリアリアの茶色の髪をくるくると指に絡め遊ぶ。
「コーディネーターの出生率低下って知ってる?」
「それは知ってるけど」
「自然交配の出生率が第3世代は激減してるって言われてるけど本当は第2世代からなんだよ。」
「え?」
「つまりSEXして妊娠する可能性はすご〜く低いの。俺も体外受精だし。」
「!?」ミリアリアは淡々と話すディアッカを肩越しに驚きの眼差しで見つめた。
「うちの両親なんか一度もSEXした事ないんじゃない?」
にやりと笑って絡めた髪ごと指にキスをする。
「ミリアリアはそんな事気にしてたんだ。」
「そんな事って…だって私はナチュラルだし。オーヴではそんな話聞いたことないわ。
ナチュラル相手の統計じゃないんでしょ?」
彼女は戸惑いながらも反論する。
「ん――っそうだけど…多分ないだろうなあ。」
「なんで言い切れるのよ。」
「だって精子がほとんどないんだってよ」
「ええ?」
「俺の親父は第1世代だけど無精子に近かったんだって。
親がそうだと息子も遺伝する。俺も調べたけどナチュラルの100分の1以下らしいよ
その中で活性精子はほぼ皆無。遺伝子操作を多く、していればしてる程
第2世代はほとんど試験管ベビー。
俺がSEXでミリアリアを妊娠させたら2人共プラントで捕まって研究対象だね。」
「そんな…コーディネーターの未来って…」
「そっ。だからラクス達はナチュラルと共にあるべきだって言うわけ。
自分達だけじゃ子孫は続かないからね。
婚姻統制にあるプラントで今や家族計画は研究所に行くのが常識。
卵子も分裂異常で正常に発達するのは第3世代で50%以下」
ミリアリアはあらためて自然に手を加える恐ろしさを想った。
より優秀な人類を夢見た調整された世界に未来は厳しく閉ざされる。
呆然とする彼女を見て彼は目の前に手をかざしてひらひらした。
「そう驚く事ないだろ?デメリットは研究していずれは解決するって言われてるし。」
声をひそめて彼女の耳元に唇をよせて呟いた。
「コーディネーターにとってSEXは純粋に愛を語る行為な訳だし…」
なおも暗い顔のミリアリアにディアッカはちょっといたずらっぽく囁いた。
「でももし万が一妊娠したら、俺の子供産んでよ」
ディアッカの言葉にミリアリアは絶句した。
「産んで」
彼は柔らかい微笑みを浮かべてもう一度言う。
「んなっっなっ何言ってるのよ!」
彼女は顔を真っ赤にして彼の顔を手で押しのけた。
「いたった、痛いって」
「今こんな時にもし妊娠したら困るでしょっ!」
「だから産んでいいって」
「産んでいいってどうやって育てるのよ!」
「そりゃ引き取って責任もって育てるさ」
「!?」
「俺んちは大歓迎だぜ?なんたって跡継ぎ作るのに精子だけよこせって言う親だからね。
子供が出来たなんて言ったら戦艦押しのけて子供だけ向かえにくんじゃないの?」
「??それって自分達じゃなくてアンタんちで子供育てるって事?」
「?自分達で育ててもいいけど?」
ミリアリアは自分がとんでもない事を言ってるのに気が付いてまた赤くなった。
「でもそうしたら俺と結婚しなきゃならないよ。戦争終わったらプラントにくる?」
彼は彼女の肩ごしにウィンクすると耳たぶにキスをした。
「行くわけないでしょ」「ちぇっ」
(和平を唱える自分達が生還する可能性だって少ないのに)
だが戦争が終わる未来を語る彼の気楽さに救われた。
彼の腕の中で抱きすくめられてる自分が心地よかった。
(この心地よさに甘えてはいけない)
彼女はいつも彼の腕の中で罪悪感に胸がしめつけられるのだが。
戦争してる歪んだ世界。疲弊した心は罪悪感をも彼のやさしい腕で癒される。
(今はこのまま…)
ミリアリアはディアッカの腕を抱き返した。
end.
(H15.9.23)
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