Afterward -その後-


※9の最後を修正加筆しました

-9- 最後修正加筆部分


部屋の外の音が遠くなってほどなくディアッカが部屋に入ってきた。
「もう昼。ランチになっちゃった。メシ食べよ。」
クローゼットをあけてごそごそいくつも箱をだしてきてイスの上に置く。
「せっかくだから市内案内するよ。これ着て」
箱を開けて次々と服をベットに広げる。
「それとこれ」

ポケットから小さな箱をだした。
ベルベットの箱を貝のようにあけて中をみせる。
「今更渡すのはマヌケなんだけど」
中には紫色の石のリングが1つ。
疎いミリアリアでもその石は知っている。
彼の瞳の色と同じ紫の水晶 2月の誕生石アメジスト。
美しくカットされたアメジストの紫の周りにダイヤとわかる透明な石が縁取られる。
シンプルだけど細工をこらしたデザインリング。高価なものだと1目でわかる。

「せっかく買ったし、深い意味はなしって事でもらってくれないかな」

ミリアリアは俯いて首を横に振った。
「ごめん」

ディアッカは深く溜息をつき、
「そっか」
箱をパタンと閉めポケットにしまった。

皮肉屋な口の端をあげた苦笑いを少し浮かべ すぐやさしい笑顔に戻る。
「シャワーあびて着替えておいで」
彼女の唇に触れるだけのキスをして部屋からでていった。

ミリアリアは部屋からでていくディアッカを目で追った。
霞んだ思考がようやく正常に働きだす。
甘い営みを思い出した。吐き出した話し合いも。
全て夢のように思える。
指輪を断られてもまるで何事もなかったように流してくれる。
いつもどおりだ。
きっとそれは彼女がプラントを去っていくまで
彼は変わらぬ態度でいてくれるだろう。
(それがディアッカのやさしいところ)

ミリアリアがトールと同じ位好きになった人。




-10-


時刻は昼をとうにすぎ
午後の日差しは柔らかく間延びした空気に眠気を誘われる。

ミリアリアはディアッカに連れられてアプリリウス市内にある大きな施設に来ていた。
首都コロニーにあたるアプリリウス市はプラントの政治的中心地であるが故
大きな行事式典もほとんど同市で行われる。
ここはその式典によく使われる美しい公園会場だった。
海にぽっかりと浮かぶ美しい島全体が公園となっているその施設は
プラントの歴史を展示した博物館や資料館が集積されている。

人工に管理された日差しと空調。
荒れる事のない穏やかな海も風も全て作られた人造美だとわかっているが
洗練され計算尽くされたその場所は宇宙に住むプラント住民の憩いになっている。
ユニウス7の追悼式典もこの美しい場所で行われた。

一般に休みの日にあたるせいか
家族連れや恋人同士といったほのぼのした人々で活気をみせるこの広い公園の
海を見渡す一角のベンチに2人は座っていた。

遅いブランチを軽くすませ部屋を出るとき
どこか行きたい場所はあるかと彼女に聞くと
「ディアッカの育ったところ」と答えた。
宇宙に浮かぶプラントのコロニー間はシャトルで移動する為
さすがに今すぐその場所にいくことはできない。
それならばその場所に近いイメージの所という事でここになったのだ。

ミリアリアとのデートの計画に自分の育った場所を指定されると思わなかった彼は
残念そうに言った。
「ホントは色々計画練ってたんだけど ここでいいの?」
「だって似てる場所なんでしょ?」
「んーまあね。さすがにシャトル乗って見に行くには 時間がないからなー
 俺の育ったとこなんて 大しておもしろい所なんかないんだけどさ。」

ぽつんと彼女は呟く。
「見たかったんだ。どんなところで育ったのか。」
そしてごまかすように言葉を紡ぐ。
「風が気持ちいいね」

「オーヴの風はもっと湿ってたな。だけどここなんかよりよっぽど生きてる感じがした。
 ミリアリアの育った場所、俺も見に行きたい…」
たわいのない会話。
また会う事を示唆する言葉を避けていたのにいつのまにか触れてしまう。
交わされる1つ1つの言葉がお互いを知る為のようでせつない。

「資料館行ってみる?」
「うん」
彼はつとめて明るく言う。手をつないで。
傍から見ればどこにでもいる恋人同士だ。
ディアッカから送られた服に身を包むミリアリアは
昔からここに住んでいるかのように空気に溶け込み、
同じように私服の彼が先日まで凄惨な戦場で戦っていたなど思いもしない。

資料館の中に昨夜見たエヴィデンス01のレプリカが飾ってあった。
「実物はもっと威圧感があったなあ」
飽きもせず見入る彼女を彼は微笑んで見守る。
ミリアリアと付き合えたら毎日が退屈しないだろう。
2人であーだこーだと話していると楽しくて時間がたつのが早い。
今まで知らなかった感情。こんなに一緒にいたいと思う女はいなかった。

片端から説明と批評を繰り返し、最後に物物しいゲートをくぐると
『血のヴァレンタイン』ユニウス7の悲劇と銘打ったブースだった。

ミリアリアは足を止め身体を震わせた。
平衡感覚が保てなくなる様子がわかったので彼は咄嗟に身体を支える。
「ミリアリア?」
「ごめん…気分悪い。外でたい」
支えて外に出て、ベンチに座らせるとぐったりと彼に身体を預けた。
「また貧血?横になった方がいい」
彼は彼女の頭を膝の上にのせて足もベンチにのりあげさせた。
「何か飲み物持ってこようか。」
「…大丈夫。このままいて。」
しばらく様子を伺う。土色の顔色に少しずつ赤みがさしてきた。
目を瞑ったままミリアリアは話す。
「ユニウス7に私達行ったの。アルテミスで補給も受けられなくて攻撃されて逃げた後。
 水が欲しくて…」
彼はアルテミスにAAが立ち寄った事を知っている。
攻撃したのは他ならぬ自分達だ。
だがアルテミスで補給が受けられずユニウス7に寄ったというのは初耳だった。
「気休めにしかならないけど皆で折り紙で花を折って黙祷したの。
 そのあと墓場荒らしみたいな事した。水がなくて困っていたの。」
彼女は手で顔を覆う。声が震えていた。
「ユニウス7はそのまま。核で攻撃された時の姿のまま。  亡くなった人がそのまま…浮いてた…」
指の間から涙が溢れ出る。
「地球軍はひどい事をしてるって…その時…本当に思った」
学生から心構えもなく突如戦艦に乗せられた彼女にどれだけの恐怖を与えてきたのだろう。
そしてそれに逃げる事なく彼女は立ち向かってきた。
「ここが核で消えなくてよかった。地球も…」
他人を思う心に胸が締め付けられる。

戦争は幼い彼女の心に相当な傷をつけてきた。
強靭な精神力を持つ筈のコーディネーターでさえ、戦闘による精神崩壊を起こす者はいる。
やさしい心が現実についていけず唐突に命をたつ者さえいる。
今までが錯乱した世界だったのだ。
麻痺していた感覚が停戦で落ち着きをみせた心に恐怖を呼び戻している。

彼は急に不安になった。
恋人の死から立ち直る為に全て切り捨てて地球に戻る彼女が
戦争の傷跡を垣間見ただけで倒れてしまう。
この先そばにいて支える事ができないのが歯がゆい。

家に縛られている今の自分はあまりにも無力だ。
側について見守る事ができない。
なら彼女の言うとおりにしようと思ったのだ。

ポケットにある箱を彼はきゅっと握る。

そして――もう決めたと言った。
恋人の死を受け止めて前に踏み出すのがどれ程彼女にとって辛い事なのか
『約束できない。』といった言葉があらわしている。
彼女の決意を無視する事も彼にはできない。

彼女は彼を拒否したのだ。どうする事もできない。



(H15.10.29)

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