Afterward -その後-


-4-



キラと別れ、ミリアリアはよけいな事を考えないようにブリッジで雑務に集中した。
おかげで仕事は早く終わりそうだった。
(早くあがってもその後に考えちゃうのにね)
それでも考える暇がないこの状態は彼女にとってありがたかった。

毎夕方定時連絡がブリッジに入る。
本日の経過連絡とAAでの庶務報告の取り交わしをして
それを記録につければミリアリアの本日の業務はほぼ終了だった。

それはいつもより早くに鳴った。
定時連絡だと思いミリアリアは回線を開く。
「お疲れ様です。」
「ミリアリア!」
そこに金色の髪をした褐色の青年が映った。

その声と姿を見て 懐かしさと恋しさがごちゃ混ぜにこみ上げてミリアリアは言葉がでなくなってしまった。
ついこの間まで触れ合う距離にいた今一番会いたくて会いたくない人。

「ミリアリア?」
「ディアッカ…」
ようやくふりしぼって声をだした。

名前を呼ばれて嬉しそうに彼は話す。
「やっと連絡とれた!よかった元気そうで。
 忙しくてさー毎日、手があくのは夜中になっちまって連絡できなかったんだ。」
ディアッカは子供のように笑う。
いつもの口の端をあげて皮肉をいうあの彼ではなく
2人きりの時にみせる強引で甘えた彼がそこにいる。
「明後日休みとれたんだ!こっち出てこいよ!」

ミリアリアは急な誘いにびっくりした。
「艦長に許可とってあるよ。明日定時にあがって。迎えに行くから。」
「ちょっちょっと急に言われても」
そんな事いってもシフトの問題もあるし、と続けようとするミリアリアに
「じゃ明日ね!」そういって回線を切ってしまった。
パチンと切れたモニターに唖然と見入る。
(久々に連絡取れたら、これ?)
いつもながらの強引さにミリアリアはおかしくなった。
くすくすと笑い今まで沈んでいた気持ちが軽くなっていくのがわかる。

ほどなくコールで定時連絡がはいる。
「お疲れ様です」
昨日に引き続き今日も艦長直々だ。折衝がほぼ終わりに近づいているのだろう。
余裕のある穏やかな笑顔だ。
「明日午後に戻ります。留守番ご苦労様。明日になったら交代しましょう。」
語尾に含みがあるので怪訝な顔をすると
「あなたを明後日休みにするようZAFT側…彼から申し出があったわよ。」
「えぇっ?」
艦長の休暇宣告にミリアリアは驚く
(ほんとに直申請したんだ)
「来週にはAAは地球に戻る事になるわ、シフト変更して楽しんでらっしゃい。」
艦長はやさしくミリアリアに言った。

「あなた達はこれからよ。」

――やらなければならない事はまだある。私達は生き残ったのだから――
ジェネシスが破壊されプラントから停戦の呼びかけが入ったあと
艦長が呟いた言葉を思い出す。
たくさんの辛い想いの上に自分達は残された。
前を向いて生きていかなければならない。

ミリアリアはディアッカの言葉も思い出す。
――明日ね
(そうだ。キラの言うとおりキチンと話しをしよう。)

うやむやに出切ないほど深く入り込んでいた彼の存在をミリアリアは否定するのをやめようと思った。
(進む道は決まっているけど)彼と自分の今までを否定する事はないのだ。
トールが、仲間が、沢山死んでしまった。
その中で生き残った者はこれからを精一杯生きなければ弔いにならない。

ミリアリアは報告のファイルに入力を始め残りの仕事を片付けた。


翌日午後に会議に参加していたAAのクルーは帰ってきた。
ミリアリアにサイが包みを渡す。

「ディアッカから渡してくれって。」
「なに?」
包みを除いてみると緑色の服が入っている。
「ZAFTの制服だって」
「えー?なんで?」
「ほら、会議もひと段落で地球軍の制服組もとりあえず帰ってきちゃったろ?
 今日明日うろつくのに地球軍の軍服だと危ないんだって。変な奴もプラントにはいるからって」
「私服じゃだめなのかな」
「さあ…議場内は関係者以外はチェックが厳しいからじゃない?」
「だって議場内に用があるわけじゃないでしょ?」
「うーん…よくわかんないけど色々案内したいって言ってたから
 素直に着ときなよ。」
納得がいかなかったがサイにいわれるままミリアリアは受け取った。

皆が帰ってきてミリアリアは時間が気になった。
気になるほど余裕があったという方が正しい。
(いつもなら次々と仕事が舞い込んであっという間に定時となるのに)
今日に限って仕事は順調に終わり手持ち無沙汰なかんじである。
それがサイやブリッジクルーの計らいであるとは知らぬままもうすぐ就業時間終了となる頃
「そろそろ支度しなよ」とさっさと追い出された。
渋々自分の部屋に帰って着替える。
不本意だが言われた通りZAFTの制服を着た。
(なんでぴったりのサイズがわかるんだろう)
ZAFTの制服だけではなく靴までサイズがぴったりだった。


廊下を歩くと見慣れぬ服装に整備士達がミリアリアに注目する。
気恥ずかしさに困って早足で搭乗デッキへ向かった。
廊下を抜けてデッキに出るとそこにディアッカがもう待っている。
「ミリアリア!」

赤い軍服姿のディアッカが満面の笑みで迎えた。
「ミリアリア、ZAFTの軍服も似合う。」
久々に会うディアッカの笑顔にミリアリアは
ZAFT軍服を着る羽目になった文句も忘れて見惚れてしまった。
(どうしたんだろう すごくドキドキする。)
顔が赤くなっていくのがわかった。
ディアッカは自分の言葉でミリアリアが赤くなったのだと思っているのだろう。
彼女の心中に触れることなく
「行こう!」と手をつながれドッキングベイに向かった。

ミリアリアは自分の動悸が治まらなくて閉口した。
(なんかディアッカが格好よくみえる。)
「どした?」
歩きながらまじまじ見るミリアリアにディアッカが心配そうに聞く。
ミリアリアは違和感を素直に口に出してみる。
「なんか感じが違う…なんでだろう」
(ああそうだ 軍服)
ディアッカの着ている赤い軍服はアスランが着ているのを見た事はあるが
見慣れない制服だ。
軍服に目線を移して見ているミリアリアにディアッカが気が付いた。
「ああ、この制服着て見せるのは初めてだっけ。似合う?」
あいかわらず自信過剰な態度も久しぶりのミリアリアには懐かしく思えて素直にうなずいた。

目を丸くするディアッカだがすぐ嬉しそうにミリアリアの肩を抱き寄せた。
「今日は素直だね」

――そうよ 素直になるの。
ミリアリアはそう決めていた。


(H15.10.8)



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