Afterward -その後-


-5-


ドックベイから降下用エレベーターに乗りアプリリウス市が見えてくると
ミリアリアは感嘆の溜息をついた。
時刻はもう夕暮れをすぎ夜の時間になる。
プラント一の首都アプリリウス市は政治的中心地であると共に
プラント有数企業のビルが立ち並ぶ巨大都市だ。
摩天楼の灯かりが宝石箱をひっくり返したような夜景を繰り広げている。

「…綺麗」
うっとりと外の様子に魅入るミリアリアに
ディアッカが背後からそっと手をまわそうとする。
エレベーター内には他にも人がいた。
「人がいるのよ」小声で叱咤するとその手を軽くはらいのけた。
「なんだ、いつものミリアリアに戻っちゃった。」と横に並び
ミリアリアの手を握った。
「これはいい?」ぎゅっと手をつなぎ手の甲にキスをする。
(ほんとにこういう所が扱いなれているって言うのよね)
なかば呆れ顔でミリアリアは下界をもう一度見下ろす。

(最初で最後かもしれない、よく見ておこう)

ディアッカに連れられてミリアリアは
長いエレベーターを降りりエントランスを抜けターミナル乗り場からエレカに乗って移動した。
「これからどこへ行くの?私が泊まるホテルはどこ?」

サイの話しだと今夜泊まる所はディアッカが既に手配済みと聞いている。
「ああ、その前に見せたい物あるからちょっと寄っていこう」
「見せたいものって?」
「行けばわかるよ」
エレカに乗って20分もすると遠めからも見えていた、一際高く 
見るからに荘厳な造りのビルのゲートに到着した。
「ここはプラント最高評議会ビル。昨日までAAとクサナギの代表とラクス達、
 あとプラント最高頭脳が集まって停戦条項案を練り上げてた。」
「ここに何の用があるの?」
ディアッカはニヤリといたずらっぽく笑う。
(また何かたくらんでる?)

警備ゲートでディアッカはパスカードを見せ、2人を乗せたエレカはすんなり中に入った。
エレカを降りて階段を上り中に入る。
ビル内のエレベーターに行き着くまでに5回程チェックを受けた。
「厳重ね」「そりゃ、ココは中枢だからね。」
当たり前のように流すディアッカを見てミリアリアは溜息をついた。
(こんな所をパス一つですんなり通れるって
やっぱり赤い軍服はエリートだって本当だったのね)
本当はトップパイロットといえども簡単に通れる場所ではないのだが、
ディアッカはあえて言わなかった。


ディアッカの両親は共に最高評議会メンバーだ。
産業企画推進区域にあたる市の選出で
彼の両親は個々に経営するグループ企業のトップにあたる。

ディアッカはミリアリアに両親の職業については話さなかった。
両親の名声は両親のもので自分の功績ではない。
ディアッカはプラントでの自分の家柄だけに興味を惹かれて寄ってくる人間に辟易していた。
だからこそ自分の実力を試す為、軍に入ったのだ。
親が評議会委員でプラント有数の企業のトップだと言っても
ミリアリアは信じないかもしれない。
AAでのディアッカは単なる元捕虜でMSのパイロットだったのだ。
知ってどうなるわけでもないと彼は思っていた。

エレベーターは最地下階にある最高評議会議室まで降りる。
エレベーターを降りてまた警備にチェックを受けた。
そして赤い絨毯が引き詰めてある先の 広いホールにミリアリアは連れてこられる。
博物館を思わせる広い円形の天井の脇に落ち着いた照明に照らされて
『それ』は飾ってあった。

「これ…」
ミリアリアは声を失った。
教科書で見た事のあるその形は巨大な鯨の化石にみえる。

――エヴィデンス01――

通称くじら石と呼ばれる地球外生命の証拠であるその化石を
一度見てみたいとミリアリアはディアッカに言った事があった。

ミリアリアが物心ついてから今まで ナチュラルがくじら石を見る事は叶わない夢だった。
プラントに展示されているくじら石は戦争が続いている以上ナチュラルが目にする事は不可能だ。
だが停戦という明るい希望がさしこみ
自分は今一目みたいと思っていたくじら石の目の前にいる。

ミリアリアは感慨と感動と自分を取り巻く全てに感謝したい気持ちだった。


端から端まであきもせず見ているミリアリアをディアッカはやさしく見守っていた。
時がゆっくりと流れていく。


ピーッ 電子音が鳴りミリアリアは我に返った。
「やべ 30分って言われてたんだ。ごめんミリアリア時間だ。」
ディアッカが言ったとおり警備員がこちらに向かってくるのが見える。
「時間です。」
警備員に軽く頷いてディアッカはミリアリアの手をとってエレベーターホールまで戻った。

ミリアリアが手を強く握ってお礼を言う。
「ありがとう見せてくれて」
「どういたしまして。会議にでてたAAの奴らは見れたからね。
 見たいって言ってたミリアリアが見れなかったら残念に思うと思ってさ。」
ディアッカはそういってエレベーターに乗り今度は上の方の階を押した。

「次は何?」
「ちょっと顔見せ」
またいたずらっぽく言うと今度は少し神妙な顔をした。

高速エレベーターで耳がつんとしたと思ったら着いた。
ずいぶん高いビルなのだ。
エレベーターホール脇に眺望できるスペースがあり
眼下にはプラントに降りる際に見た、先程の高度よりは低いが夜景が一面に広がる。

反対側に長い廊下が続いている。
そちらに向かってディアッカに連れられミリアリアは歩いた。

古城のホテルを思わせる廊下にいくつかドアがありその1つの前に立つ。
格式の高い評議会ビルの風情を重んじた古風な造りのドア。

軽くノックをして真鍮色のドアノブを彼が開ける。

「悪い、遅れた?」
ディアッカが親しげに声をかける方向に
彼らより年上だが若い青年がデスクに座っていた。
「5分遅刻ですね。中でお待ちですよ。ディアッカ様」
(ディアッカ様?)
青年の言葉にミリアリアは目を丸くする。
ミリアリアはディアッカに背中を促されて中に入った。

本棚とデスクが置かれたその部屋の奥にもう一つ扉がある。
その前に立ちディアッカは軍服の襟をしめて正した。
向き直ってミリアリアの軍服の襟も少し直し、大きく深呼吸した。

その様子からこれから会う人物がディアッカより上に位置する人物だとわかる。
ミリアリアは少し緊張した。
青年が手元の内線を押してコールする。
相手がとった事を知らすランプがつくと
「ディアッカ様がおいでになりました。」と丁寧に言った。
そしてどうぞとジェスチャーするとディアッカはドアを開けた。

中は執務室といった広い空間に来客用の落ち着いた色調のソファがあり
その前に大きなデスクがあった。
ディアッカはミリアリアを先に中にいれてドアをしめるとZAFT式の敬礼をした。
「遅くなりました。ディアッカです。」
デスク脇にある本棚から本を取っている壮年の男性が立っていた。
長い髪はウェーブがかって厳格そうなその男性の印象を和らげていた。
男性は本を机に置くとゆっくりとこちらに歩いてきた。

「ミリアリア・ハウ嬢です。」
ディアッカがミリアリアを男性に紹介する。
「はじめまして、ミリアリア・ハウです。」
ディアッカの言葉にミリアリアはオーブ式のお辞儀をしながら自分の名前を言った。

男性は柔らかな笑みを浮かべる。
(あれ?誰かに似てる?)

男性が低い艶のある声で
「はじめまして 」と手をだした。
反射的にミリアリアも手を差し出す。
握手をしながら男性は自分の名前を言った。
「タッド・エルスマンです。」
(エルスマン?)
そう聞いてミリアリアは息をとめた。

ディアッカを見ると目が合いウィンクをされた。



(H15.10. 9)



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