Afterward -その後-


-6-



「息子がお世話になったそうで。感謝します。」
「…あっいえ」
握手をし終え、手を離すと くらくらと目がまわりそうになるのを必死でこらえた。
心臓が許容量を超えて稼動してしているのがわかる。
「どうぞ」
タッドはソファに座るように促した。
身動きできないミリアリアを支えるようにディアッカが座らせる。

にこやかに笑うその瞳の色はディアッカと同じ紫水晶の色だ。
(うわーダンディなお父さん。)
年を取ったらディアッカもこんな風になるのかとボーッと考えてると
「ミリアリアさんはオーブの工業カレッジの学生だったとお聞きしていますが
 何を専攻されていたのですか?」
タッドが質問してきた。

「…ぁっはい。機械工学です。ロボティクスやシステムコースを選択してました。」
「そうですか。地球に戻られたら学業に復帰されるんですか?」
「はい、そのつもりです。」

先ほどの青年が飲み物を持ってやってくる。
タッドはどうぞと柔らかな物腰で勧める。すべてが洗練されているような動作だ。
ディアッカを見るとすっかりリラックスした様子で紅茶に口つける。
(どういうつもり?)ミリアリアは軽く睨んだ。
ディアッカはどこ吹く風で知らん顔だ。

あたりさわりのない会話が続いた。
ヘリオポリスでの学生生活の事やオーブ本土の暮らし、両親の事など
しばらくしてディアッカが間合いに入った。
「ではそろそろ失礼します。」
ディアッカが言い切り立ち上がった。ミリアリアもあわててそれに続く。

タッドは一瞬残念そうな表情を浮かべたがすぐあたりのよい顔に戻った。
「来週には地球に戻られるとの事ですな、お気をつけて」
そう言うとまた握手を求めてきた。
「ありがとうございます。」
(大きな暖かい手)
しっかりと握ってディアッカに似た柔らかな笑みにミリアリアは別れを告げた。

「あなたにお会いできてよかった。」
タッドはしみじみと言った。

「では父上」
ディアッカがまた敬礼するとタッドは頷いた。
ミリアリアはお辞儀をしてディアッカに付き添われ部屋を出た。

部屋を出た途端全身の力が抜けるようだった。

ディアッカを睨むと彼は手でちょっとまっててとジェスチャーし先ほどの青年に
「じゃ、俺ら帰るから。食事手配しといて」と頼んだ。
「かしこまりました。では楽しい休暇をお過ごしください。」
「明日1日じゃねー明後日も休んでいい?」「だめです」青年はにこやかに言った。
「ちぇっ」舌打ちしながらディアッカは扉を開けミリアリアにどうぞと手で促す。
「失礼します」ミリアリアは青年に挨拶した。
「よい夜を」
青年は彼らをドアの外まで見送った。


「ディアッカ!どういうつもり?」
「何が?」
「何がって…お父さんに会うなんて聞いてなかったし。」
「親父が会いたいっていうからさーまあいいじゃんミリアリアの事気に入ったみたいだし」

ミリアリアは困惑した。
ディアッカの父親に会うなんてまるで恋人扱いだ。
(つきあってるって事になってるのかな)

曖昧にしてきた関係がここにきて不安定な自分を追い詰める。
ディアッカの事は嫌いじゃない。
むしろ特別な感情を彼に持っている事を最近彼女は自分で認めた。
だがそれは許し難い事だと彼女は思っていた。
――まだトールが亡くなって日も浅いのに――

肌を重ねて彼が深く自分の中に入り込んでいる事はもう変えようのない事実だが
来週にはAAは地球に戻る。
ディアッカはプラントに残って自分達の関係はそれでおしまいになると
ミリアリアは考えていた。
それが一番自然な形だ。

プラントに来てAAに残っていた時
彼との別れを考え寂しいと泣きそうにもなったが
自分はナチュラルで彼はプラントのコーディネーターなのだ。

中立国オーヴにいてもナチュラルの彼女がプラントに住む事はありえない。
そしてディアッカは常々プラントに戻ったら外には出れなくなると言っていた。
それがどういう意味かはわからなかったが今日彼の父親に会って確信した。


「それより腹へったろ?食事にしよう」
ディアッカはエレカにミリアリアをエスコートする。

女性に対する卒ない態度は生まれながら身についたものだろう。
言葉は粗雑だが品のよい身のこなしは育ちのよさを感じさせる。
彼の家は普通の家ではないのだろう。

最高評議会が行われるビルに秘書付きの1室を構える名士の父親
ディアッカ様と呼ばれてそれがさも当たり前のように振舞う。

AAでの彼とは別世界の彼がここにいる。
自分達の未来が交錯する事はないとミリアリアは思った。



(H15.10.10)


<目次に戻る> <NEXT>

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル