God bless you.-神のご加護を-

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コーディネーターはあまり風邪をひかない。それでも何かの拍子でくしゃみ位はする。
アスランがくしゃみをした時
カガリが「Bless you!」と言った。
「Thank you.」アスランが鼻をこすってかえす。
「へえ?プラントでもおまじないあるの?」
「いや、月にいた時キラに教わった。」
「そっかキラの両親はナチュラルだもんな」
「なんでくしゃみすると悪い事がおこるっていうんだ?」
「なんだよ、教わったんじゃないのかよ」
「詳しくは聞いてないんだ」
「大昔の言い伝えなんだ。悪魔が魂を奪う時くしゃみさせて吸い取るって」
「ふーん?」
「だから魂吸い取られないよう神様に守ってもらう言葉だったって言われてる」
アスランは無意識に胸元の守り石を服の上からさわる。
「俺はいつも護ってもらってるな」
「お前危なっかしいからな」
「俺よりカガリの方がよっぽど心配だよ」
「大丈夫、お前に鍛えられたし。それに護ってくれるんだろ?」


モルゲンレーテ社の工場の開発室。
アスランはようやくひと段落ついた仕事をかたづけていた。
「お疲れ様、ちょっと嵐になりそうよ。帰り気をつけてね」
上司がアスランに声をかけて帰って行く。
彼はあまり天気予報など見ない。
プラントでは気象は管理されていて
いつ雨が降るかの予報は1ヶ月単位で決まっていた。番組表のように。
だから地球は不思議だった。
オーヴは亜熱帯に属する地域で火山地帯。湿度は高くスコールがよくある。
この時期 急に嵐になる事も少なくない。

同僚に軽く挨拶して工場をでる。駐車場まで歩く間にぽつりと雨が頬にあたる。
会社から与えられているバンに乗り込む頃には
フロントガラスにぽつぽつと水滴がつき始めた。
初めて彼女に出会った島でも急な雨に驚いたっけと彼は思い返す。
(あの時はこんな風になるなんて思いもしなかったけど。)

穏やかな生活が彼を満たしている。
ザフトのアスランはここでは一介の技術者でしかない。
オーヴにきてからもう3ヶ月になる
停戦協定から終結の調停へ。時間がかかると思っていた終戦は
ブルーコスモスの盟主が死亡したせいなのか反コーディネーター勢力の
弱小化によりもうすぐ実現する。
もちろん影に尽力を尽くした人々が相当働いたおかげなのだが。
終結の為の締結協定は1ヶ月後にプラントと地球連合で正式に結ばれる。
平和な世界はもう目の前だ。

プラントの最高議長だった父親が亡くなり、アスランの立場は微妙なものだった。
ナチュラルとの共存を拒む人々がプラントにはまだ少数ながらいるので
亡き議長の意思を継ぐものとして借り出される事もあるかもしれないと
あえて地球に下りることをすすめてくれたのはモト婚約者のラクスだ。
プラントに残って父の行った事の責任を取って平和の為に働く事を考えていた
アスランにとってそれは逃げるようでずいぶんと虫のいい話に思えたのだが
地球で自分を必要とする人達がいたのであえてそれに従った。
アスランを必要とする人達。それは親友と恋人。親友はキラで。恋人は
――カガリ。
天真爛漫に笑う顔が浮かぶ。
アスランにとってカガリは命よりも大事な存在だ。その彼女が地球に来いと
えらそうに だけど懇願するように言ったのだ。
だから彼は従った。彼女が望むなら決して離れない。
だが最近彼と彼女を取り巻く環境に少し変化が生じていた。

ワイパーを動かし見辛くなった視界を一掃させる。
風雨は次第に強くなっていく。
雨の中を走る自動車内の騒音とは違った音が微かに耳に聞こえた。
コンソールに置いた携帯が点滅している。
ニュートロンジャマーキャンセラーが流出して
地球には以前のようにネットワークが急速に網羅されるようになった。
ここオーヴもそのおかげで通信はかなりの距離で届くようになる。
そのかわりアスランの動向も監視されるようになったのだが。

時刻はもう次の日付に変わろうとしている。
こんな時間にかけてくるのは1人しかいない。
車を端に寄せて携帯にでる。
「はい」
「キサカだ。」「え゛っ」
予想外の威圧的な低い声が聞こえ、アスランは内心ガッカリした。
カガリのお目付け役であるキサカ。
カガリがアスランと付き合っている事は内輪では公認だが
オーヴの全ての実力者が認めているわけではない。
アスランがコーディネーターで戦争を推進したプラント最高議長の息子だというだけで
オーヴから排斥するべきだという首長もいるのだ。
水面下の圧力から庇ってくれたのがカガリの叔父である現代表首長と
側近である数名の議員達と
アスランがオーブに貢献する人材だと主張してくれた
オーブ復興の要であるモルゲンレーテ社の現在技術局最高責任者であるエリカシモンズ
そして地球軍との戦闘で弱体化したオーブ軍の中で実権をにぎるキサカだった。
だがキサカは矢面に立ってくれてはいるがカガリとの親密なつきあいにあまりよい顔をしていない。

親密なつきあい――カガリがアスランの部屋で寝泊りする事なのだが――
亡くなったオーヴの獅子に託された責任をキサカは一途にまもろうとしていた。
それでなくても未成年の女の子が頻繁に男の家に外泊するなど、常識的ではない。
ましてやこの2ヶ月程は同棲してるといってもいいほど当たり前のようにカガリは
毎日アスランの部屋に泊まりにきた。
いくらカガリがアスランを好きだからといっても目に余る行動は反勢力に排斥の火種を与える事にしかならない。

だからといってアスランにはカガリを拒む事ができない。
彼は愛しい女神が毎夜側で寝息を立てて寄り添う幸せを手放す事ができないのだ。
軍にいた頃のアスランを知るものがいれば彼の体たらくを信じられないというだろう
アスランはカガリに対してだけ(いや厳密に言うとキラとカガリの2人にだけ)
甘く呆けた1面を見せる。

だがそろそろ何か言われるだろうと思っていた矢先
聞く耳もたないカガリに立腹して首長がキサカを通じてアスランに控えるようにと
言ってきた。それが1週間前。
一緒にいたいと思う反面 内情を考えて欲しいと言うキサカの言う事もわかる。
アスランは意を決してこの1週間残業にかこつけてカガリが泊まりに来るのを断っていた。

「何か」
「カガリが家出した」
「へ?」
「君の部屋を悪いと思ったが見張らせてもらって先ほどカガリがいるのをみつけたんだが」
「逃げられたんですか?」
「そうだ」
カガリが本気になれば多少の拘束など容易く突破してしまうだろう。
宇宙で共に戦った時、白兵戦や拘束された時の脱出方法など教育をしたのはアスランだった。
生き延びて欲しいから、無人島での無謀で無知なままでは死んでしまうと
かなり親切に教授したのが仇となってしまった。
「わかりました。見つけたら連れ帰ります」
「すまない」
「それで…家出の原因って」
「実は…」

アスランは深く溜息をついて携帯を切った。
キサカが言いにくそうにアスランに話した内容は簡潔にいうとこうだ。
コーディネーターをナチュラルの敵とするブルーコスモスの残党が集結して
戦争終結の象徴であるオーブの代表を抹殺するべく画策されていると
情報が入ったのだ。
かなり信用のおける筋からの情報なので首長も流す事ができず。
しばらくの間カガリを今あるシティから
とある先に避難させようと決めたのだそうだ。
避難はアスランにも出ていて明日にでもプラントまたは中立コロニーに
移動するようにと通達があるだろうとキサカは言った。
同じ場所に身を隠すようにならなかったのは
プラントのナチュラル排斥を謳った残党勢力がアスランとカガリの関係を
好ましくおもわず、同じようにカガリを狙う可能性があると判断されての事だった。

実はその情報は既にキラから聞いていた。
動きはあるといった程度だったがオーヴ側に情報が行ったという事は
本格的に動き出したという事だ。

ブルーコスモスとナチュラル排斥の残党
戦争は終結を迎え平和な未来が目の前に見えるのに。
相手が死ぬまで戦う。どうしてそんな愚かな考えをもつものがいるのだろう。
戦争は手の中にあった平穏で幸せな日常を一変して血塗られたものに変えてしまう。
アスランは軍にいた頃の自分を嫌悪していた。
プラントを守るために信じて戦って人を殺す事に躊躇なく従事してきた自分。
その為に多くの命を絶った。
ラクスの反乱とジャスティスに乗る事で見えなかったものが見えたとき
憎しみの連鎖は断ち切らなければ業火はひろがるばかりだと
カガリ達と共に戦う道を選んだのだ。

戦争はもうすぐ終わる。締結協定さえすめば公に残党狩りができるのだ。
それまで身を隠す事を決めた首長の判断は間違っていない。
自分が側にいて護ってやりたいのはやまやまだが、
別の危険に彼女をさらすことになる。
ここは言われた通り別々に身を隠す方がより彼女の安全に繋がる。

冷静な状況判断をする彼の中で葛藤がまたもせめぎあう。

(…たった1週間離れただけでこれだけせつない)
身を隠すとなれば当分姿を見ることもできなくなるだろう。
1度幸せな生活を過ごしてしまえばそれを失う事が惜しくなる。
限りなく貪欲な人間。(俺も奴らとそうかわりはないか)

深くもう一度溜息をつくと携帯とは違う音が聞こえる。
仕事で使うノート型のPCからだ。
緊急メールが入ると鳴るように設定してある。
急いで電源を入れ立ち上げる。
メールチェックをいれるとどれも仕事関係の大して急がない用件ばかりだ。
点滅は消えない。つまり。
(暗号メールの方か)

暗号変換で送ることができるように設定をしてある独自の暗号メールシステムを
作ろうと言い出したのは
おそらく世界(コロニーも含めて)で一番最先端技術をもつという企業にいるディアッカだ。
いかに今後の情勢を正確に把握できるかが平和の鍵だと
アスランとキラは巻き込まれて開発を手伝った。
試験的なものだがかなり完成度は高く送信時に暗号化され
解読は相当な解読の為のスペックと時間と労力が必要だ。
その暗号メール用のアドレス知っているのはキラとディアッカとラクスと渦中のカガリ。

ソフトを起動させ解読するだけで相当な容量をくうのでノートPCに入っていた資料は
おしゃかになる。
アスランはまたも溜息をつきながら解読用のソフトを起動させ専用のブラウザをあけた。
暗号変換をおえて表示される内容はホンの数行
「話がある。尾行を撒いて例の場所に向かえに来い。車の発信機も壊すように。C」
アスランは苦笑しながら嬉しさに心が躍る。(カガリに会える)
こんな状況で不謹慎とは思うが彼女に会えると思うだけで子供のように手放しで
浮かれてしまう。(女神の命令じゃ逆らえないな)
キサカにああは言ったもののカガリのオーダーが彼には最優先事項だ。
いそいそと実行しようとする自分自身に自分であきれながらも
後部座席の工具箱からディアッカが持ってろと渡してくれたセンサーを取り出す。
(ホントにどうかしてる)
車についた発信機を探す為、雨の中外に出た。

(H15.12.29)




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