God bless you.-神のご加護を-
-2-
車についた発信機はなんと5コもついていた。
すぐわかる場所に2つ。かなり手の込んだ場所に3つ。
それだけマークされているという事だ。
車に乗り込みエンジンをかける。
わざと郊外から大通りにでる。大雨で深夜で走る車は数えられる位。
発信機は近くに止めてあった車につけておいた。
尾行を撒けば女神のオーダーはほぼ終了して迎えにいける。
(さて…撒きますか)
アスランはアクセルを踏み込む。
雨で視界の悪い大通りをかなりのスピードでとばす。
(ついてくるのは2台、いや、3台か)
ちらりとバックミラー越しに車を確認してさらにスピードをのせる。
対向車線を遠くトラックが向かってくるのが見える。
(いいタイミング)
中央分離帯のUターン用のすきまに突っ込んで反対車線にスピンターンさせる。
雨で滑るのは計算のうちだ。大きく流れてそのまま側道に入り込む。
尾行の車は1台だけついてきた。
あとの2台はトラックにつっこまれてまわってこれない。
側道から郊外に抜ける。この先の5差路で勝負をかける。
あまり整備されていない郊外の道路はわだちに水がたまり
この雨で水上スキーのように水しぶきをあげる。
後ろの車は正体を隠す事をあきらめ引き離されないように
アスランのバンにぴったりとついてくる。
車間距離を保ったままアスランのバンと同様のスピードで張り付く。
アスランは交差点の手前急にエンジンをきってサイドを思い切り引く。
水の上を滑っていくバンを
彼は手馴れたハンドルさばきで思う位置へところがしていく。
前の車がブレーキランプもつかないでいきなり減速し横滑りをするので
追っ手の車はぶつかりそうになるのをよける為急ブレーキを踏む。
読み通り後ろの車が水の上を横滑りしてくるのを彼は目の端で見ながら
キィをオンにしてシフトをいれアクセルをふむ。エンジンはかかり滑っていた車は
スピードをあげて鋭角に交差点を曲がった。
アスランはバックミラーをみる。
無残にも尾行車は滑ったまま信号機のポールに横っ腹をつっこませてのりあげてるのがみえた。
加速していりくんだ路地にはいる。
狭い道をアスランは優雅に滑るようにバンを走らせる。
この雨なら位置をサーチすることはむずかしいと思ったが
車のスピードを維持したまま携帯の電源をおとしPCのバッテリとチップも抜き取る。
彼の車は女神が指定した場所へ急いだ。
以前何かあった時にとカガリに言われていた郊外の公園にアスランは到着した。
車からおりて傘を差すと建物の影からカガリが走ってやってきた。
「アスラン!」
抱きついてきた彼女の身体は横殴りの雨で服のまま海で泳いできたよう。
アスランも発信機をはずしたりしていたので既に全身ずぶ濡れ状態だ。
「カガリ。とにかく車に。」
びしょぬれになりながら車の助手席に押し込む。
カガリがそのまま腕を引っ張りアスランを車中に引き込んだ。
ベンチシートだったのでそのままずれてアスランはカガリにのしかかるように
倒れ込む。
「ちょっと カガリ!」
「ふふ嵐もたまにはいいな」
天真爛漫な笑顔をアスランにむける。
会えた嬉しさはアスランも同じだが先ほどのキサカの電話の事を考えると
そう浮かれてばかりもいられない。
「まったく相変わらず考えなしだな」
「なんだよそれ」
口を尖らす顔もかわいいと苦笑を浮かべるアスランにカガリが言った。
「とにかく車をだして。ここは見つかる。」
そのとおりだと身体を起こし開けっ放しのドアから傘を拾って
運転席に回り乗り込んで車を走らせる。
傘をさしていたにも関わらず青みかかった漆黒の髪から
雨水がしたたり落ちる程の大雨の中。
久しぶりに会った恋人達をのせてバンは逃避行をはじめた。
横殴りの雨は周期的にバケツをひっくりかえしたように
フロントガラスを叩きつけ、前が思うように見えない。
郊外を抜け、以前使った事のある山道に入りだいぶ走ってようやく車を停める。
ライトを消しエンジンはかけたままヒーターを強にした。
「ずぶ濡れだな、こんなタオルしかないけど」
作業の汗拭き用にいれてたタオルを後部座席からひっぱりだす。
「ありがと、ここは?」
ガシガシとタオルで頭と顔を拭いて見せるカガリが聞いた。
「調査で使った事ある道なんだけどキャンセラーがここには届かなくて
ジャマーの影響でまったくアンテナたたなかった。」
ほらとセンサの表示をアスランがみせる。
「深夜だし山道だし多分車も通らないだろ」
「そっか」
ほっと安堵するカガリの横顔にずぶ濡れの金糸の髪がはりついていた。
そっと指で目にかかりそうなヒト房をアスランの長い指がすくい上げる。
その指をくすぐったそうに微笑んで
「ひどい嵐になったな」
カガリもアスランの前髪からおちる雫を掬い取る。
アスランの骨ばった繊細な手がカガリの頬を撫でた。
「家出なんて…」
はっとカガリは表情をくもらせる。
「…もう連絡きてたのか…」
「あたりまえだ。俺のところなんか真っ先にチェックされるだろうに。」
「…だって!」
「…カガリはオーヴの姫なんだし…心配してるんだよ」
他人のような言い方にカガリは俯いた。
車のライトを消し真っ暗な山道でエンジンとヒーターの音も外の雨音にかき消されるほどの嵐の中。
コーディネーターのアスランはすぐ夜目になれたのでカガリの金の瞳に光る雫が浮かぶのがわかった。
カガリは静かに涙を浮かべ訴える。
「お前はいいのかよ。会えなくなるんだぞ…」
困惑してアスランは黙る。
いいわけなんかない とはっきり言えたらどんなによいだろう。
だがカガリはオーヴ首長国連邦の次期代表首長を熱望される存在なのだ。
自分は今は一介の技術者にすぎないが以前はプラント最高評議会議長の跡継ぎといわれ、
今も陰謀の火はくすぶり続けている。
和平条約を結ぶまでになったとはいえコーディネーターの不穏分子を助長させる種となるアスランと
和平条約の要になったオーヴの次期代表とのロマンスなど
ブルーコスモスの再結成の噂がある今、不安材料にしかならないだろう。
側近がカガリの身を案じて2人そ離そうとするのはわかる。
アスランはカガリをみる。
涙をぽろぽろ流しながらカガリは睨みつけてくる。
この愛しい女神をずっと護っていこうと彼は誓ったのに。
そばにおこうとすれば彼女を危険にさらすのだ。
「アスラン…わたしは…お前のそばにいたい。ずっとだ。はなれるのは嫌だ。」
まっすぐにアスランを捉えるカガリ。
「ブルーコスモスの残党がなんだ!お前が護ってくれるんだろう?
なら私を命がけで護れ!そばにいろ!そばにいなけりゃ護れないじゃないか…」
胸がぎゅうっとつぶされるような感覚にアスランは目を細める。
「お前がいないと…私は…何もできなくなる。」
「カガリ…」
「好きなのに…離れなきゃならない理由なんて大した事ないのに。そんなのいやだ!」
「いや…立派な理由だと思うけど」「アスラン!」
離れるさびしさを誤魔化そうとアスランはあえてつっこみをいれてみたが、
今のカガリには返す余裕もなく真剣に彼の返事を待つ。
金を弾く瞳は静かに力強く焔を揺らしながら彼を焦がす。
彼女の手が彼の胸元を押さえる。
服の下にある守り石を生地ごと彼女は掴む。
「約束したじゃないか…護るって。ハウメアの神に誓うって。」
毎夜愛を確かめ合いながらじゃれるように肌を寄せ合った。
絶対離さないでとカガリは彼の腕の中で何度も約束させた。
石に手を重ね神に誓えと。側にいると。
アスランは誓うと言った。絶対離さないと何度も石に誓った。
側にいて護れと言うなら何があっても側にいようと誓った。
「アスラン…愛してる」
彼を捉える呪文を彼女は唱える。
濡れた瞳からは宝石の雫が零れ落ちた。
アスランは腕を伸ばす。
――カガリをはなせない
体裁と鬱屈された自制心にいつも支配されて
いつも本当に大切な事を見過ごしてしまう。
どうして自分が命ながらえて生きているのか。
どうして自分はここにいるのか。
すべてこの愛しい女神を護る為にあるのだ。
どんな事をしても護ってみせる。
命をかけて。世界中を敵にまわしても。
愚かな考えだ。どう考えても危険な方を選んでいる。
軍にいた頃の自分だったら即時に冷静な状況判断をして
有無をいわせず彼女をキサカの元に送り帰しただろう
彼は頭の隅で思いながらも
ずぶ濡れの女神を力いっぱい抱きしめた。
理屈じゃない感情に翻弄される自分をあえて選ぶ。
焼けるように込み上げる感情にアスランは掠れた声で言った。
「カガリにばかりいつも言わせてごめん」
背中にしがみつく細い腕も甘い匂いのする体も全部全部つつんで。護る
お互いの心は強くつながっている。
「カガリを護る為に俺はここにいるんだよな」
「アスラン」
ひんやりとした柔らかな唇にそっとくちづける。
差し出された舌は熱く。自分の舌と絡ませる。
次第に強く絡みあう舌に欲情しだす自分を抑えきれそうにないと
唇を離そうとするとカガリが頭を抑える。
引き込みあう舌と唇とそのまま巻き込まれそうになるのをカガリのくしゃみが救った。
「くしゅん!」咄嗟に離れて「bless you.」とアスランが言うと
「Thank you.」不満そうにカガリがかえした。
プッとアスランが噴出す。「なんだよ」カガリが憮然と言った。
「ごめん 濡れたままじゃ風邪ひく」
彼は笑いをこらえて後部座席につなぎが入ってた事を思いだす。
「ほらこれ着ろよ」ひっばりだした作業着をカガリにわたす。
「…うん。そうだな濡れてきもちわるい。」
そういってカガリは服を脱ぎだした。
深い間柄といってもアスランは割りとそういう場面に弱いので
「ちょっとまて」と顔を赤らめてカガリを制し、
「俺外でてるから」とドアをあけようとする。
「ばか、お前が風邪ひくだろ?こんなドシャ降りなんだぞ?」といって服を脱ぎながらアスランの肩を引きとめた。
「…じゃこっち向いてる」「いつも見てるだろ?」
カガリはズボンもガシガシ脱ぎ捨てた。
「くしゅん!」もう一度くしゃみをする。
「ほら早く着ろよ」
見ないように背を向けるアスランにカガリが後ろから抱きついた。
「おい、俺にだきついたら着替えた意味が…」
腕を解いて振り向くと
下着姿のカガリが身を乗り出してアスランの頬を両手で押さえた。
「…んっ!」唇を奪うとカガリの舌が彼の唇に滑り込んでくる。
「ちょっ!着ろって!」あわてて肩を抑えてひきはがす。
「せっかく脱いだからしよう」
テレもなくカガリが真面目な顔で覗き込む。
「ばっ…く、車の中だぞ、ここは道の真ん中だし…」
「このあたりはめったに車が通らないし電波も悪いから平気だってアスランもいったじゃないか。
こんな大雨だし。それに寒い。暖めて。」
妖艶に微笑むカガリはこういう時照れてしまう彼だとわかっている。
(余計挑発したくなる)アスランの手をとって自分の胸にあてた。
車のヒーターで服を脱いだ今、肌は乾いてきている。さらりとした肌触りにぞくりと
欲望がちらりと覗く。
必死に理性を保とうともたげる考えを押さえ込み慌ててその手を払う。
「…駄目だよ…今日は持ってないし…」
「いいよ今日は安全日だ。アスランも風邪引くし脱げよ」
カガリはそういってアスランのシャツのボタンをはずし首にかかったネックレスを引っ張り出す。
「ちょっカガリ…」
首から守り石のネックレスをはずすとバックミラーにひっかけ、
困った顔のアスランに濡れた瞳を向けて掠れ声で言った。
「…今、して…」
(H15.12.29)
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