極限脱出 9時間9人9の扉
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脱出ゲーム×打越鋼太郎
チュンソフト×打越鋼太郎という、KIDが破産する前は考えられなかった組み合わせで製作されたのがこの「極限脱出」です。……などとと最初に書いておきながら実は打越氏がシナリオ担当であることは大分後になって気付いたことだったりします。買おうと思ったのは、発売の前月に偶々立ち読みしたファミ通で「脱出ゲーム」と紹介されている点に惹かれたからです。脱出ゲームとは、画面上の絵にカーソルを当てて情報収集を行ったりアイテムを使ったりして閉じ込められた空間から脱出する古典的なアドベンチャーゲームであります。パソコンやコンシュマー機では「手の平」や「虫眼鏡」カーソルを十字キーで調べたい箇所までゆっくりズルズルと合わせざるを得ませんでしたが、DSでは直感的且つ直接調べたい箇所にタッチ出来ますのでストレス知らずです。勿論、インターフェースが優れていることに惹かれたのではありません。謎めいた空間に複数の男女と共に突然閉じ込められ、制限時間以内に脱出しなければいけないというシチュエーションに惹かれたのです。パニックアドベンチャーが大好きな私にしてみれば、これを買ったのは自然の成り行きというわけです。そんなワクワクするシチュエーションに打越氏がシナリオを担当していることを知り、期待倍増で臨んだ一本。評価の行方は如何に? 二画面あるDSならではのトリック ■シナリオ 突然閉じ込められた謎の施設から9時間以内に脱出しなければならないパニックアドベンチャー。脱出するには「ノナリーゲーム」に勝ち抜かねばらず、ゲームの条件以外は置かれた状況の多くが謎に包まれています。 目的は二つ。ひとつはノナリーゲームに勝利し脱出すること、もうひとつはノナリーゲームを企てた犯人「ゼロ」の正体を見破ることです。両方とも一周目では達成出来ない構造になっています。昨今のギャルゲーは数周させて最後にトゥルーエンドを用意するのがすっかりお決まりになりつつありますが、本作もこのパターン。マルチエンディングと見せかけて「実はすべてのエンディングはこのためにあったのです!」というヤツです。打越氏得意の空想科学を各ルートに伏線として散りばめて、すべての伏線を回収したところで、一気にそれを繋げて解を導き出していきます。非常に爽快です。 ただし、このゲームには大きな問題があります。お膳立てとして用意したルートでばら撒いた謎の一部を、半ば確信的に回収せずに終わっているのです。最も重要なゼロの正体は明かされます。ただ、伏線ルートで度々散らつかせていた「ゼロがどのような現象でゼロになれているのか」という問題や、最終ルートで出現する「イレギュラーな数字根」について置き去りにされたままなのです。これらの謎の鍵を握ると考えられるのは、本編中でノナリーゲームとは何等関係ないのに話題に上がり、エピローグに後姿だけが登場するとある人物(?)の存在ですが、結局その正体については触れられることなく終わってしまいます。これは、最終ルートまで真エンディングを引っ張るゲームとしてはいささかお粗末な結末であり、消化不良の感が強いと言わざるを得ません。散々思わせ振りな話をしておいて結局「後はご想像にお任せします」では、あまりに後味が悪いではありませんか。本編中、これらの謎については空想や科学的な理論を用いて説明しようとすつシーンが多々あり、これらの理論をすべて見せるために真ルートを最後まで残すわけです。しかし、理論には根拠が欲しいですし、根拠は証明しなければなりません。ところがゼロと謎の人物の関係については、明確な説明はなく憶測しか示されないためにすべてが曖昧に終わってしまっています。これでは折角伏線を張ったのに台無しです。中途半端はよくありません。打越氏のシナリオは好きですが、今回は、すべて答えを出さなかったことでシナリオの価値が半減してしまうという残念な結果になってしまいました。 ■キャラクター ストリートファイターの西村キヌ氏がキャラデザを担当。気のせいか筋肉質なキャラが多いような……(笑) ギャルゲーではないので、目玉が大きな萌え絵ではありません。というか男の方が多いです。ヒロインを除くとどのキャラも一癖ありそうな顔をしています。顔だけではなく服装もまた奇抜で、この二つを見て感じるであろう第一印象がそのまま性格を表しています。 性格面ではパニックアドベンチャーに必要なタイプを揃えています。トラブルメイカー・頑固者・自己犠牲家……。また9時間という短いゲーム内時間ながら、各キャラの設定にも重要な意味があります。彼らは一見まるで接点がないようですが、全員ノナリーゲームに選ばれるだけの過去を持っています。関係なさそうにしているキャラこそとんでもない秘密を持っていて、驚かされることでしょう。 ■テキスト 客観的に事実を述べ続けていく淡々とした文章ながら、所々に主人公のギャグが入っているので、読んでいて苦痛にはならないと思います。 打越作品は空想科学が登場するため、その説明的文章が散見されるのが定番ですが、今回もそれは健在です。とはいってもそれほど濃い内容ではありませんので、理屈っぽいゲームが苦手という方でも問題ない範囲です。 もうひとつ見逃せない特徴があります。それは、上画面で主人公の一人称や会話、下画面で三人称や心理描写が書かれていることです。わざわざ分けているのにはシナリオ的に意味があってのことで、面白い叙述トリックになっているのですが、それを差し引いても不自然にならない程度に書き分けられているのには感心しました。 ■演出 所々に短めのムービーを挿入しています。またトゥルーエンドへ到達するフラグが立つと「予告編」と称したムービーを見ることが出来るようになります。この予告編はイベントCGやセリフ、ステージ場面を繋げただけの簡単なものですが、攻略のヒントになっているので侮ることは出来ません。 本編アドベンチャーパートでは、目パチ・口パク、扉が開閉する重々しい音といった効果音といった基本的要素は押さえてあります。またDSの上下二画面というハードの構造を使用した驚きのトリックが仕掛けられています。テキストの項で述べた通り、上画面で他キャラとの会話、下画面で心理描写が映り、脱出パートは下画面を使って捜査するのですが、進めていくと所々で何となく違和感を覚えることがあります。終盤にこの違和感の正体が明かされた時、ハードという「入れ物」に演出が仕込まれていたことにきっと驚くはずです。詳細を書くと完全なネタバレになるので避けますが、中々面白い発想だと感心させられました。 ■シチュエーション 極限状態からの脱出を描く本作。全員が恐慌状態に陥ることはあまりない代わりに、突然ひとりだけおかしくなってしまうようなシーンが散見されます。全員がパニックを起こしているなら異常であることが普通になるのですが、ひとりだけおかしいとなると状況的にはそれが普通であるにもかかわらず、逆にその人だけが異常であるかのように錯覚してしまうんですよね。ですから、状況よりも人間の異様性を浮かび上がらせることに力が入っているように感じさせられました。 恋愛的なシチュエーションはほぼなし。主人公とヒロインが何となく良い感じにはなりますが、特に突っ込んだ関係にはなりません。まあ、ギャルゲーではないですからね。 ■ゲーム性 ゲームはノベルパートと脱出パートに分かれています。ノベルパートは選択肢を選びながらテキストを読み進めていくビジュアルノベル形式、脱出パートは画面をタッチして部屋から脱出するのに必要な情報を集めたり道具を使っていく探索ゲーム形式です。本編中では何度か登場人物が分かれて行動する場面があり、誰と組んだかでエンディングが決定します。これを決めるのはノベルパートです。脱出パートは基本的にゲームオーバーはありません。分からなくてもチームを組んだメンバーがヒントを段階的に出してくれます。難易度は高くありませんが、隠された道具をタッチする際、当たり判定が結構シビアなものもあるので、目くらめっぽうタッチしていたのではクリアーできないでしょう。 両者に共通して登場する、本作の肝となるシステムとして「数字根」があります。これは複数の数字を足して答えが2桁以上ならその数字を足して最後に割り出された1桁の数字のことです。1+2+3+4+5なら答えが15で2桁ですので1と5を足して数字根は6になります。この数字根を駆使して密室から脱出していくのです。ソフトには数字根を出すための計算機も組み込まれているので、計算が苦手な人でも問題ありません。 ひとつ問題があるとすれば、一周ではトゥルーエンドに辿り着けないことが前提となっているゲームなのに、脱出パートのスキップが出来ないことでしょうか。私は20周以上したので、攻略方法が分かっているのに同じステージを何度も通らされてかなり苦痛でした。メンバーが同じ場合は脱出パートを任意で飛ばせる配慮が欲しかったところです。 とはいえ、全体的に遊び甲斐があるゲームであることは確かです。ジャンルとしては古典の部類に入る密室脱出物ですが、DSのタッチパネルが従来のハードに比べより直感的に遊べるような機能であることも大きいでしょう。 ■グラフィック 探索ステージが全16で1ステージ平均5枚程度の背景があるので、トータルで80枚前後あります。背景をタッチして物を探すというゲームの特性上、奥行きやディテールを意識した3Dグラフィックスとなっています。アイテムに関してはポリゴンっぽさがあり凹凸が目立ちますが、携帯機としては合格点でしょう。 立ち絵は2Dで各キャラ5パターン以上。目パチ口パクアニメーションあり。表情は変わらず、立ち絵ごと変えるタイプです。 イベントCGは立ち絵と同じタッチです。アルバム鑑賞がないので正確な枚数が不明ですが、50枚前後ではないかと思われます。死亡シーンなどが多く、見ていて楽しい絵はあまりありませんが、盛り上げ役にはなってくれるでしょう。
Ever17以降、打越氏はプレイヤーをシナリオ上必要なシステムに組み込んできました。それは主人公をロールすることとはまったく別物。ここではプレイヤーはゲームを形成するために理論・仕組み上、必要不可欠な存在となるのです。これまで用いられたのは「観測者」という形でしたが、今回は別の形です。 本編には「形態形成場理論」なる実在の科学理論が登場します。これは「直接的な接触が無くても、過去にある人や物(A)に起きたことが、まったく別の地点にいる他の人や物(B)に伝播する」というテレパシーのような理論です。ゲームにはこれを利用して、発信者(A)が形態形成場(情報をプールする擬似空間)に向けて情報を発信し、受信者(B)が形態形成場にアクセスして情報を受信するシーンがあり、またこれこそがノナリーゲームと姿なき犯人ゼロの正体を知る重要な手掛りになっています。 この「形態形成場」こそが、今回のプレイヤーのポジションです。「形態形成場」なくして本作は成り立たないので、正しくプレイヤーはシナリオ上必要な機能として組み込まれているといえます。 明かされなかった謎・回収し切れなかった伏線など、問題は多いゲームです。しかし「プレイヤーの正体」が明かされる瞬間に覚える興奮は、こうした問題を凌駕するものがあります。自分が知らぬ間にゲームのシステムとして機能しているという、驚愕の構造を楽しんでほしいと思います。 |