アメサラサ 雨と、不思議な君に、恋をする
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本作の初回限定版には、主題歌のマキシシングルと、予約特典としてスペシャルカラーブック(イラスト集)が付いてきます。以下、作家陣をあげておきます。 カントク、兼清みわ、小沢悠、緋賀ゆかり、KeG、鈴平ひろ、木場智士、☆画野朗、三月まうす、宮坂みゆ、雅樹里、えれっと、和馬村政、ちこたむ、すきま俊悟 の各氏となっています(イラスト集巻末掲載順、敬称略)。 私は、KeG氏、木場智士氏のイラストが気に入っています。 さて、CUFFSは、私が唯一トップページにリンクを貼っているゲームメーカーであり、唯一メーカー買いすると決めているところであります。当然、本作に対する期待も高かったのですが、不安点がなかったといえば嘘になります。何故なら、本作のスタッフに☆画野朗氏とトノイケダイスケ氏がいないから。私がCUFFSが好きなのは、F&C時代からこの二人が手掛けてきた作品が好きだからであり、その意味ではCUFFSというメーカーではなく製作スタッフとして二人がいるCUFFSが好きだといっても過言はないでしょう。そんなわけで本作は、私が今後もCUFFSを好きでいられるのか否かの分岐点となる要素も持っているゲームとも言えるのです。ですから、私が注目したのは、CUFFSが(シナリオライターが)トノイケ路線を踏襲するかどうかでした。果たして、アメサラサは今回も御伽噺のような優しく不思議な世界を紡ぎ出すことを選択したのか? テーマをとるか? ギミックをとるか? ■シナリオ 転校生が訪れたことをきっかけに、人に恋をし始めた主人公の変わっていく「日常」を描いた学園物。主人公は感情の変化によって天候を変える特異体質を持っています。本作のシナリオには、この特異体質の謎を解明していく物と、学園物としての普通の恋愛を描いた物の2パターンがあります。両者は内容がかなり異なり、後者が一般的な我々の住む世界を描いているのに対して、前者は現代ファンタジー世界(例えば「魔法使いサリー」)になっているのが特徴です。では、果たして前者が単にエブリデイマジックを描きたかったのかというとそうではなく、どちらも「恋をすることで変わっていく日常」が根幹にあることには変わりません。ですから、シナリオのギミック――世界観や特異体質の謎――はあくまでおまけとして捉え、ヒロインに恋をすることを通して変わっていく主人公の様子を楽しむのが本作の遊び方なのかな、と思います。 ■キャラクター 原画家は2人いますが、どちらも☆画野朗氏の雰囲気に似た絵を描かれているように思ったのは私だけでしょうか。CUFFSがそういう人選をしたのですかね? カントク氏の方(霖と倖)はおとなしく優しいタッチの絵で万人向けです。兼清氏の方(光羽と花香と霧)はやや目が離れているのが特徴的(前と感じが変わった?)ですが、こちらもやはりおとなしめのタッチ。作品の内容には合っているように思います。 キャラクター設定について。霖についてはシナリオで説明がされているのでOKですが、倖については説明が半端で今ひとつ納得出来ない点がありました。内気な点は理由がはっきりしていて良いのですが、何故あんなことが出来るのかは説明がほしかったです。全体的にヒロインが自分の性格にコンプレックスを感じているようなことはなく、主人公との関わりでヒロインの性格に大きな変化が起こることがないのが面白かったですね。髪形や服装を変えるなどといったお約束の表面的な変化はありますが、内面まで突っ込まないのは昨今のゲームには珍しいパターンともいえます。それにしても三本木先輩が声も含めて変人すぎる……。これは酷いと思う。 ■テキスト トノイケ氏のような婉曲的且つ詩的な描写はなく、読みやすさを重視した平坦なテキストです。大げさな感情描写をすることを避け、あくまで淡々と表現し続けるイメージなので、やや盛り上がりに欠け、読み続けていると眠くなるかもしれません。アドベンチャーゲームレベルでは合格点ではありますが、もう少し起伏のある調子でも良かった気がします。 ■演出 OPムービーは、イベントCGを使ったキャラクター紹介風のものですが、雨の中で傘がクルクルと回っていたりして綺麗ですし、カット割りも工夫されており、さくらむすびの頃からかなり進化しているように感じられます。ゲーム中は、日にちが変わった時に背景に変化がなかったり、時間が過ぎた時に何の予告もなしに背景が変わったりと分かりにくい点があることが目立ちました。斬新なエフェクトは用いられていません。 ゲーム内容とは別なのですが、パッケージの表は秀逸ですね。自然溢れる中で川に入ってスカートをあげている女の子――犯しがたい神聖なオーラを感じます。しかし、これはゲーム内容とマッチしていない描写でもあるんですよね……。これだけを見て買った人は騙されたように思うかもしれません。それにしても良いパッケージだ……。 ■ゲーム性 各ヒロイン、ノーマルエンドとハッピーエンドの2パターンのエンディングが用意されています。CUFFSはエンディングを2つ作る傾向があるようですね。エンディングが多いのは個人的には好きなので良かったな、と。若干、分かりにくい分岐もありますが、全体的には難易度は高くありません。エンディングによってシナリオの設定が変わってくるので、ゲーム性を重視したことでシナリオの整合性が取れていないのがやや残念(ADGではよくある話)。 ■Hシーン 各ヒロイン、2回〜3回あります。純愛物らしい初々しいHシーン。やや唐突なパターンが多い印象ですが、どのシーンも綺麗な演出が心がけられているように思いました。一方、必ずしも必要かというとそんなことはなく、なくても十分にストーリーとしては機能するであろう点ではやや残念です。まあ、予想の範疇ではあったのですが。 ■グラフィック 背景は綺麗で標準以上です。立ち絵パターンは各ヒロイン3〜4パターンで、表情は5パターンほど。霖の視線や口元が不自然であるなど、ややバランスが悪く感じるものがあったのが気になりました。イベントCGは各ヒロイン20枚前後とやや少なめ。完成度は高いのでバリエーションに富んでいるという見方も可能ではありますが、こちらも霖の表情にばらつきが感じられます。
本作のシナリオは、恋をすることで訪れる日常の変化を題材にしています。変化は一般的な範囲でのものあって、要するに「恋をするとハッピーになれる」ということを言いたいのです。この変化を表す物差しとして用意されたのが主人公の特異体質であり、プレイヤーが主人公の「日常」に変化があったことを分かりやすくするために「天気」を利用しています。ここで注意したいのは、主人公の「特異体質=日常」という点です。つまり「異常=日常」なのです。この「異常=日常」が「日常=日常」に戻っていくのが本作の味噌です。「異常」についてもう少し考えてみましょう。主人公の変化が起こる前の状況、それはストーリーの項を見ると分かりますが「誰かを好きになれない」という状況です。つまり、人を好きになれないということは異常だということ。本作には、「もっと人を好きになってみませんか」というメッセージが込められているのかもしれません。 ところで最初の項で提示しましたが、本作は御伽噺のような優しく不思議な世界を紡ぎ出すことを選択したのでしょうか? 結論から述べると「Yes」です。アメサラサは、さくらむすびとワンコとリリーでトノイケ氏と☆画野朗氏が築いてきたCUFFSのイメージを守るものでした。優しい御伽噺のような日常世界――これが本作にも当てはまると思います。しかし、何かが違う。トノイケ作品と本作の違いは何かと考えると、それは世界観の作品における位置付けにあるのです。トノイケ作品に登場する世界観のギミックは、それ自体がトノイケ氏の主張の塊といっても良い存在でした。つまり、トノイケ氏は作品のギミックを使って主張をしていたのです。しかし、本作のギミックは世界観を説明するための設定に留まっています。つまり、世界観からはライターの主張が見えてこないのです。ここにトノイケ作品と本作の大きな差があるのだと思います。だからといって本作が悪いということではありませんし、私はこれからもCUFFSを応援するでしょう。この優しい「雰囲気」がある限りは。 |