そして明日の世界より――

ブランドetude 発売日2007.11.22
初回限定版9240円 
ハードPC ディスク数DVD1枚
OSWin2000/XP/Vista ジャンルADG
原画植田亮 シナリオ健速
音楽I've Sound 
音声あり ボーカル曲あり

ストーリー
四方を海に囲まれたちっぽけな島。
自慢できるものといえば輝く太陽と澄んだ青い海。
生い茂る樹々の緑くらい。

そんな変化に取り残された島に住む主人公・葦屋昴は、いたって平凡な18歳。

幼馴染でいつも元気な少女・日向夕陽、夕陽の姉で運動以外は完璧にこなす英語教師の日向朝陽、親友で悪戯仲間の樹青葉、病弱で大人しい転校生・水守御波と共に、島にある小さな学園に通い、運動会に海水浴、更には温泉掘りと騒がしくも平穏な日々を過ごしていた。

誰もがこの平和で楽しい日々が、どこまでも、いつまでも、かわらずに続くものだと信じていた。

そう、あの日までは――。

『この小惑星は秒速三十二キロメートルで大気圏に接触、僅かに大気表面を滑って軌道がズレた後に……地表に激突します』

突然の宣告――。残された時間は3ヶ月。

訪れるのは世界規模の大災害。
あまりにも唐突に訪れた世界の終焉に、混乱する人々。
そんな中、何とか自分を保ち続けようと必死になる5人――。

キャラクター名私的お気に入り度声優属性
日向夕陽■■■■■■■■■■10/10安玖深音幼馴染・元気っ子
日向朝陽■■■■■■■■ 8/10岡本あさひ幼馴染・眼鏡っ子・先生
樹青葉■■■■■■■■ 8/10青山ゆかり幼馴染・元気っ子・努力家
水守御波■■■■■■■■■■10/10夢篠さなぎ病弱・優等生
葦野竜■■■■■■■■■■10/10松涛エルザ
葦野海■■■■■■■■ 9/10かわしまりの母・元気っ子
日向陽■■■■■■■■ 9/10一条和矢マスター・髭
八島宗一郎■■■■■■■■■■10/10柴田秀勝老人

主要搭載システム
BGM及びボーカル曲
●オートメッセージ
●スキップ(既読判定あり)
●バックログ
●バックログ中の音声
●クオリティ設定
●CG鑑賞(クリアー後)
●音楽鑑賞(クリアー後)
●シーン鑑賞(クリアー後)
●BGM21曲
●OP歌
 For our days
 川田まみ
●ED歌
 return to that place
 川田まみ
●ED歌
 散歩道
 eufonius
●ED歌
 Kiss
 WHITE-LIPS
●ED歌
 夕空ワルツ
 eufonius
●ED歌
 Never end
 中原涼
●ED歌
 Amazing Grace
 KIYO・唯音
雑感
個人的名曲
 ある程度、文字速度は制御することができますので、基本的に不満はありません。使いやすいシステムです。  I}'veの音楽を絶賛したことはありませんでしたが、今回ばかりは別。全曲必聴です。エンディング毎に歌が違い、さらにボーカルも違うのには驚きです。また、名曲には入れませんでしたが、Amazing Graceのアレンジ曲も聴き応えがありますよ。

●For our days
●return to that place
●御波〜清らかな流れ
●涙の行方
●Happiness
●星空を見上げて
●はてなき想い
あすせか
(C)etude
非日常の中に日常を見出すことも可能
パステルカラーとつぶらな瞳


 購入の決め手はパッケージでした。etudeと言えばCanvasの彩を手掛けた植田亮氏が原画を務めるメーカー。氏の絵が良いことは知っていますが、寂しそうな女の子がパステルカラーに彩られる空をバックに、こちらを見つめている本作のパッケージは反則級。年々エロゲーをこなす本数が減ると共に情報自体も収集しなくなってきたので、このゲームの存在も中古ゲーム屋の棚で見るまでまったく知りませんでしたが、これほど素晴らしい魅力を放っていたゲームが出ていたとは。この少女の瞳に惚れた私は迷わずレジへ直行したのでした。

「そして明日の世界より」略して「あすせか」は、ストーリーの項を読んで頂ければ分かりますが、世界崩壊物です。彗星の落下を描いた映画はこれまで幾つもありましたが、本作もその仲間と言って差し支えないでしょう。私はパニック物が好きなので、あすせかには特に世界崩壊を目前にした混沌かつ陰鬱とした内容を期待していたのですが、それは良い形で裏切られてしまいました。果たして、あすせかが描いた世界観とは……?

 なお、初回限定版にはサントラが付いてきます。大変良い音楽が流れるゲームなので、見かけたらサントラのためだけでも購入して損はないでしょう。


星降らずとも日常は破滅する


■シナリオ
 人類滅亡へのカウントダウンをきっかけに、混乱する中で本当に大切なものを見つけていく内容。ヒロイン救済型の典型。日常の変化に戸惑うヒロインを助ける中で、自分がヒロインに対して抱いている気持ちに気付くパターンです。面白いのは、シナリオの引き金が必ずしも隕石落下である必要はない点です。このゲームの肝は、人類が滅亡しようかという世界観です。ですから、滅亡へと追い込まれていく状況を目一杯に生かさなければならないはずです。しかし、各ルートは、実際には世界が滅亡せずとも起こり得る物語を描いているに過ぎません。しかも悪いことに、このゲームでは隕石が落ちるシーンを各ヒロインルートで描かないのです。隕石落下まで三ヶ月の期間がありながら、パッケージに「二週間の物語」とあることから、これは確信的に行われていると判断できますが、世界観を生かさないどころか放棄してしまうシナリオを、結末が美しいというだけで合格とするかは難しいところ。あすせかの世界観に魅力を感じて購入した私のようなプレイヤーはいささか失望を覚えるかもしれません。平時に起きてもおかしくない破滅を、あえてパニックの最中に起こすことで、日常の破滅の深刻性を非日常の到来と対比させ、前者の割合が後者と変わらないことを浮き彫りにしたアイロニックな手法は、好き嫌いが分かれるところでしょう。

■キャラクター
 クセがなく、素直に可愛いと言える絵です。その端正な顔は、大方のプレイヤーが設定しているハードルを軽く超えることでしょう。御波だけ他のキャラと違う雰囲気を出していますが、それもまた由。サブキャラも含めて合格です。
 本編では、各ヒロインの強さと弱さの二面性が明らかにされます。この二つが揃って初めてひとりの人間としての存在感が際立ってきます。ただし、それは主人公がいないと成り立ちません。なぜなら、ヒロインたちは恐るべき「主人公依存症」であり、主人公がいなければ、自己崩壊への道を突き進むことが想像に難くないほどの脆さを持っているのです。彼女らは、主人公により自分に足りない部分を補完されることにより、生き延びています。これは、崩壊する世界が生み出した一時的な現象ではありません。原因は閉鎖的な空間に他ありません。こうした性格を助長したのは、主人公が持つ魅力です。男からすると悪くは感じないのですが、ある種、病的な側面もあると理解しても良いでしょう。また、ヒロインの二面性は主人公と恋仲にならない場合、抑圧され続ける点は皮肉としかいいようがありません。何故ならヒロインはその時、人としてあるべき姿をとっているとは言い難いからです。

■テキスト
 本作は一応、回想の形をとっているのですが、それを感じさせない現在進行形のテキストです。と言うか、回想の意味があったのでしょうか。やや行間を読ませるような表現があり、解釈をプレイヤーに任せる部分が見受けられる文がありましたが、概ね読みやすく、宗教臭い場面があるにも関わらず、表現は大仰しさを感じさせないシンプルなものが多かった印象です。及第点。

■演出
 オープニングムービーは、イベントCGを使いながらヒロインを紹介していく形式。音楽とカット割の入り方が絶妙なのですが、今一内容がありません。神月社氏が担当のムービーは大体このパターンが多いですね。効果音は、セミの鳴き声など夏らしさを感じさせるものがよく出ていました。乗り物の音も幾つかありましたね。。演出で最も良かったのは、エンディング。各ヒロイン、エンディングに入る直前に画面がホワイトアウトしてエンディングタイトルが画面に現れるのですが、この際にタイミング良く解説の文字が文字ボックスと別枠で現れ、涙を誘います。また、タイトル画面や背景の「雲」がプレイ中ずっと動き続けているのには関心しました。気付きにくい効果ですが、これがあると臨場感が一味違いますよ。

■ゲーム性
 基本的にストーキングしていれば良いので、攻略は楽です。ただ、ノーマルエンドを含め全員のエンディングを見た後、所謂アフターストーリーが出現します。CGを回収しない人は気付かない可能性があります。このアフターストーリーがトゥルーエンドの役割も果たしている非常に重要な話なので、見逃さぬよう注意が必要です。

■Hシーン
 青葉が2回、それ以外が3回ずつ。絶望的な状況下でお互いを確認し合う、ある種悲壮なシーンを期待したのですが、必ずしもそうしたものばかりではなく、本作の世界でなくても成立するような普通のシーンも結構ありました。ヒロインの存在を認めてあげるために行為に及ぶパターンがほとんど。つまり「本当の私はこうですがそれでもよければどうぞ」という一種の踏み絵的要素があったように思います。ですから、必要性はあります。1シーンが長くないので実用性は低いかもしれません。

■グラフィック
 背景は丁寧です。室内は小物が細かく描写されており、自然も色鮮やかな表現が為されていて不満はありません。イベントCGは差分抜きで82枚。一枚一枚は丁寧で時間が掛かっていると感じさせてくれますが、少なめですね。凡そ必要な場面で出ていましたが、100枚以上は欲しかったところです。立ち絵は各キャラ3〜5パターン。多くはありませんが、表情が多彩で服装も3パターン前後用意されているので、見た目に飽きることはないでしょう。また、立ち絵の質が良いのでイベントCGとの大きな差を感じないのも特徴でしょうか。


総合得点■■■■■■ 74/100
おすすめ度■■■■■■■■  9/10
ボイス■■■■■■■■  9/10
シナリオ■■■■■■■■  8/10
テキスト■■■■■■■■  8/10
キャラクター1■■■■■■■■  9/10
キャラクター2■■■■■■  7/10
音楽■■■■■■■■■■ 10/10
演出■■■■■■■■  8/10
システム1■■■■■■  7/10
システム2■■■■■  5/10
Hシーン1■■  1/5
Hシーン2■■■■■■  3/5
グラフィック1■■■■■■■■  4/5
グラフィック2■■■■■■■■  4/5
世界を紡ぐ“あるべきすがた”


“あるべきすがた”であり続けること、それが本作のテーマです。当たり前の中に大切なものがあります。いえ、当たり前であること自体が大切なのかもしれません。では、当たり前であるためには何が必要なのでしょうか。それは、希望を“想い”の中に抱き続けること。希望を抱き続けることで、当たり前の姿、即ち“あるべきすがた”を見出し、日常を維持することができるのです。

“あるべきすがた”で精一杯生きた人間の希望は、他の人へと伝播するようです。というより、他の人と共有せざるを得ないのかもしれません。なぜなら、ひとりで希望を維持し続けるのは至極困難なことだからです。だから、希望は広がっていきます。その結果として、日常が続いていくのでしょう。本作は日常が希望の連鎖によって維持されていることを、大袈裟に表したのです。ですから、一度この世界の日常は人類の消滅により事実上滅びているのです。
 ところで、アフターで起こった“希望”の発見という天文学的数値で起こった奇跡は、もう一つの日常を作り始めました。きっかけとなったのは「ものがたりの終わり」。そしてそこからすべてが始まります。そして明日の世界より、新しい日常が動き出したのです。日常が消えても、“あるべきすがた”にはいつでもなれるのですから……。

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