そして明日の世界より――
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
購入の決め手はパッケージでした。etudeと言えばCanvasの彩を手掛けた植田亮氏が原画を務めるメーカー。氏の絵が良いことは知っていますが、寂しそうな女の子がパステルカラーに彩られる空をバックに、こちらを見つめている本作のパッケージは反則級。年々エロゲーをこなす本数が減ると共に情報自体も収集しなくなってきたので、このゲームの存在も中古ゲーム屋の棚で見るまでまったく知りませんでしたが、これほど素晴らしい魅力を放っていたゲームが出ていたとは。この少女の瞳に惚れた私は迷わずレジへ直行したのでした。 「そして明日の世界より」略して「あすせか」は、ストーリーの項を読んで頂ければ分かりますが、世界崩壊物です。彗星の落下を描いた映画はこれまで幾つもありましたが、本作もその仲間と言って差し支えないでしょう。私はパニック物が好きなので、あすせかには特に世界崩壊を目前にした混沌かつ陰鬱とした内容を期待していたのですが、それは良い形で裏切られてしまいました。果たして、あすせかが描いた世界観とは……? なお、初回限定版にはサントラが付いてきます。大変良い音楽が流れるゲームなので、見かけたらサントラのためだけでも購入して損はないでしょう。 星降らずとも日常は破滅する ■シナリオ 人類滅亡へのカウントダウンをきっかけに、混乱する中で本当に大切なものを見つけていく内容。ヒロイン救済型の典型。日常の変化に戸惑うヒロインを助ける中で、自分がヒロインに対して抱いている気持ちに気付くパターンです。面白いのは、シナリオの引き金が必ずしも隕石落下である必要はない点です。このゲームの肝は、人類が滅亡しようかという世界観です。ですから、滅亡へと追い込まれていく状況を目一杯に生かさなければならないはずです。しかし、各ルートは、実際には世界が滅亡せずとも起こり得る物語を描いているに過ぎません。しかも悪いことに、このゲームでは隕石が落ちるシーンを各ヒロインルートで描かないのです。隕石落下まで三ヶ月の期間がありながら、パッケージに「二週間の物語」とあることから、これは確信的に行われていると判断できますが、世界観を生かさないどころか放棄してしまうシナリオを、結末が美しいというだけで合格とするかは難しいところ。あすせかの世界観に魅力を感じて購入した私のようなプレイヤーはいささか失望を覚えるかもしれません。平時に起きてもおかしくない破滅を、あえてパニックの最中に起こすことで、日常の破滅の深刻性を非日常の到来と対比させ、前者の割合が後者と変わらないことを浮き彫りにしたアイロニックな手法は、好き嫌いが分かれるところでしょう。 ■キャラクター クセがなく、素直に可愛いと言える絵です。その端正な顔は、大方のプレイヤーが設定しているハードルを軽く超えることでしょう。御波だけ他のキャラと違う雰囲気を出していますが、それもまた由。サブキャラも含めて合格です。 本編では、各ヒロインの強さと弱さの二面性が明らかにされます。この二つが揃って初めてひとりの人間としての存在感が際立ってきます。ただし、それは主人公がいないと成り立ちません。なぜなら、ヒロインたちは恐るべき「主人公依存症」であり、主人公がいなければ、自己崩壊への道を突き進むことが想像に難くないほどの脆さを持っているのです。彼女らは、主人公により自分に足りない部分を補完されることにより、生き延びています。これは、崩壊する世界が生み出した一時的な現象ではありません。原因は閉鎖的な空間に他ありません。こうした性格を助長したのは、主人公が持つ魅力です。男からすると悪くは感じないのですが、ある種、病的な側面もあると理解しても良いでしょう。また、ヒロインの二面性は主人公と恋仲にならない場合、抑圧され続ける点は皮肉としかいいようがありません。何故ならヒロインはその時、人としてあるべき姿をとっているとは言い難いからです。 ■テキスト 本作は一応、回想の形をとっているのですが、それを感じさせない現在進行形のテキストです。と言うか、回想の意味があったのでしょうか。やや行間を読ませるような表現があり、解釈をプレイヤーに任せる部分が見受けられる文がありましたが、概ね読みやすく、宗教臭い場面があるにも関わらず、表現は大仰しさを感じさせないシンプルなものが多かった印象です。及第点。 ■演出 オープニングムービーは、イベントCGを使いながらヒロインを紹介していく形式。音楽とカット割の入り方が絶妙なのですが、今一内容がありません。神月社氏が担当のムービーは大体このパターンが多いですね。効果音は、セミの鳴き声など夏らしさを感じさせるものがよく出ていました。乗り物の音も幾つかありましたね。。演出で最も良かったのは、エンディング。各ヒロイン、エンディングに入る直前に画面がホワイトアウトしてエンディングタイトルが画面に現れるのですが、この際にタイミング良く解説の文字が文字ボックスと別枠で現れ、涙を誘います。また、タイトル画面や背景の「雲」がプレイ中ずっと動き続けているのには関心しました。気付きにくい効果ですが、これがあると臨場感が一味違いますよ。 ■ゲーム性 基本的にストーキングしていれば良いので、攻略は楽です。ただ、ノーマルエンドを含め全員のエンディングを見た後、所謂アフターストーリーが出現します。CGを回収しない人は気付かない可能性があります。このアフターストーリーがトゥルーエンドの役割も果たしている非常に重要な話なので、見逃さぬよう注意が必要です。 ■Hシーン 青葉が2回、それ以外が3回ずつ。絶望的な状況下でお互いを確認し合う、ある種悲壮なシーンを期待したのですが、必ずしもそうしたものばかりではなく、本作の世界でなくても成立するような普通のシーンも結構ありました。ヒロインの存在を認めてあげるために行為に及ぶパターンがほとんど。つまり「本当の私はこうですがそれでもよければどうぞ」という一種の踏み絵的要素があったように思います。ですから、必要性はあります。1シーンが長くないので実用性は低いかもしれません。 ■グラフィック 背景は丁寧です。室内は小物が細かく描写されており、自然も色鮮やかな表現が為されていて不満はありません。イベントCGは差分抜きで82枚。一枚一枚は丁寧で時間が掛かっていると感じさせてくれますが、少なめですね。凡そ必要な場面で出ていましたが、100枚以上は欲しかったところです。立ち絵は各キャラ3〜5パターン。多くはありませんが、表情が多彩で服装も3パターン前後用意されているので、見た目に飽きることはないでしょう。また、立ち絵の質が良いのでイベントCGとの大きな差を感じないのも特徴でしょうか。
“あるべきすがた”であり続けること、それが本作のテーマです。当たり前の中に大切なものがあります。いえ、当たり前であること自体が大切なのかもしれません。では、当たり前であるためには何が必要なのでしょうか。それは、希望を“想い”の中に抱き続けること。希望を抱き続けることで、当たり前の姿、即ち“あるべきすがた”を見出し、日常を維持することができるのです。 “あるべきすがた”で精一杯生きた人間の希望は、他の人へと伝播するようです。というより、他の人と共有せざるを得ないのかもしれません。なぜなら、ひとりで希望を維持し続けるのは至極困難なことだからです。だから、希望は広がっていきます。その結果として、日常が続いていくのでしょう。本作は日常が希望の連鎖によって維持されていることを、大袈裟に表したのです。ですから、一度この世界の日常は人類の消滅により事実上滅びているのです。 ところで、アフターで起こった“希望”の発見という天文学的数値で起こった奇跡は、もう一つの日常を作り始めました。きっかけとなったのは「ものがたりの終わり」。そしてそこからすべてが始まります。そして明日の世界より、新しい日常が動き出したのです。日常が消えても、“あるべきすがた”にはいつでもなれるのですから……。 |