アトラク=ナクア
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西の横綱……なんて言われてるアリスソフトですけど、私は鍵っ子葉っぱ世代なのでアリスのソフトを全部プレイしたことは無いですし、古いものに関してはあまり詳しくないのですよ。そんな私がこのゲームと出会ったのはとあるアリス信者の方から熱烈にプッシュされたからなんですが、如何せんやや古めのゲームなので廉価版でさえ店舗で見つけるのに一苦労しました。 と、まあ前置きは置いといていきましょうか。今回の御題はアトラク=ナクアです。 リーフが勃興してゆくさなか、老舗アリスソフトは「アリスの館4・5・6」という言わばファンディスク的なゲームを発売しました。この中の一本が今回取り上げるアトラク=ナクアです。その辺りの詳しい情報を知りたい方は公式サイトへゴーですよ。 さて、アトラク=ナクアですが、特徴的な点が多々見られます。 まず、主人公が初音という女性であること。エロゲー、ギャルゲーの主人公は大体男性ですから珍しいパターンですよね。次にビジュアルノベル形式で、文が第三者視点をとっていること。これは主人公が女性であるためにプレイヤーが感情移入しにくいことを睨んでの上手い切り替えし方と言えるのではないでしょうか。さらに、独自の世界観を難なく受け入れさせるためにも有効であり、違和感なくプレイヤーをゲームに集中させるためにとられたものとも捉えられます。また、この形式をとったためにゲームの全体像を表しきることを可能にしていて、プレイヤーをおいていくことなくシナリオを進行させることに成功しているので、この点も評価できます。 構成面で成功したアトラク=ナクア。続いて主人公は常とゲームの舞台を見ていくこととしましょう。 初音の初音による…… 「……『姉様』と……そう呼んで」 「生憎……御免なさいましね」 「ふふ……」 何と言うか……こういう人です、初音姉様は。和風というか古風な言葉遣いで(飽くまでもお嬢様言葉ではない)、うーんこの雰囲気は独特なのでプレイしてもらわないとどうにも伝え難いですが、最高に格好良いんだこれが……。人間じゃないんですけどそこが良いというか。 初音は傷を負った女郎蜘蛛で、傷を癒すために必要となるのが人の血肉と精気で ある、という凡そ現実離れした主人公をプレイヤーは見るわけですが、それに反して舞台 は現代のとある学園なんです。一つ間違えばプレイヤーはアトラク=ナクアの世界を受け 入れることが出来ずにゲームを投げ出してしまうかもしれません。そんな設定を受け入れさせた 要因の一つが先に述べた客観的な視点で描くビジュアルノベル方式だったわけですが、そ れ以上に重要なのが先に述べた初音の存在と言えるのです。 ある程度風貌や服装が限定されないギャルゲーにおいて、アトラク=ナクアの主人公 初音にはビジュアル的な限定要素が大きかったはず。妖怪という日本固有の設定を生か しきるためには、ある程度の和風な要素が欠かせないからです。それでいて現代世界にお いておかしくない程度の設定に留める必要もあります。舞台を通常の学園にしたが故に生 ずる問題ですね。 以上の条件を受けた本作の主人公初音は、黒髪でロングヘアー、古風なセーラー服と いういでたちで、丁寧で古風な日本語を使用するキャラクターに仕上がりました。転校生という設定で 。全体的に和風な風貌と独特な口調ながら、初音がシナリオと融合した時にそれほ ど違和感を感じないのは、正しく成功の現われと言って良いでしょう。妖艶な主人公・初音の初 音による初音のための物語がここに始まるのです。
和風キャラクターを受けた和風伝奇ADGである本作には、これまた和風な音楽が流 れます。そんな日本という「クニ」を意識させられるアトラク=ナクアですが、主人公が女性で あるが故に、Hシーン描写はクセがあります。相手も女性であるために端的に言ってしまえ ばレズビアン。場合によっては初音に男性器に似せた器官が出現することなどもありますが、 本質的に女×女と言って差し支えないでしょう(男も混ぜたりすることもありますが)。 ですが、ただのレズゲームで終わらないところが本作の素晴らしさの一つ。初音と、ヒ ロインであるかなこの関係が非常に美しい! 一見完璧な主従関係に見える二人の関係に 表面には見えない相互依存が見出せて、主人公初音の残虐な妖怪性と優しい人間性の葛 藤を描いたシナリオにも注目したいところです。 総括に移る前に、良くなかった点もあげておきましょう。 本作はADGでありながら選択肢が少なく、EDに影響するものもほぼ無い。故にボ リュームが少なく一本道のゲームになってしまったところが残念な点。ですが、CG回 収のために様々なルートを通らなくてはならないのでゲーム性が無いと言う事は無いです。というか、短い中でアリスらしく高いゲーム性を打ち出しているとさえ思います。 元が三本のうちの一本であり、値段のことも考慮した場合、十分に評価出来るゲ ームですね。 我々はどことなく「妖怪」という設定に対して寛大です。妖怪は日本という国に古 来より度々現れ語り継がれてきました。科学の発展した現代社会においてその存在は否定さ れたと言っても過言ではないのですが、まだまだ「物語」としての妖怪の存在は、人々の中に おいて大きいと言えます。つまり、ゲームの中である程度の非現実的な設定が許されるということ 。これを生かしきれるかがアトラク=ナクアの様なシナリオを展開させるゲーム のポイントとなるのです。多くの伝奇的ノベライズゲームが存在しますが、この特権を生かしき れたゲームはそうそう多くはありません。そんな中で「和」をあちこちに散りばめた魅力溢れ る一本となった本作。アトラク=ナクアは、素材を上手に調理しきったゲームなのです。 秀逸な音楽と妖しくも魅力的な主人公・初音と共に、皆さんも是非アトラク=ナクア の世界を楽しんでほしいと思います。 |