赤いCanvasシリーズ なでしこ 〜朱色のらせん〜
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伝説のCanvasから7年……。F&Cは「2」だけでは飽き足らず、ついに「赤いCanvasシリーズ」なる外伝を発売してしまいました。そうです。「なでしこ 〜朱色のらせん〜」は「赤いCanvasシリーズ」という昼ドラも真っ青のシリーズタイトルを冠しているのです。 確かにF&Cは、本作がCanvasの舞台である撫子学園が登場する以外にさしたる関連性はないと名言していました。この点ではF&Cは褒められないこともありません。しかし、如何に2に納得がいかずとも、そして本作がCanvasの看板を汚すような作品であったとしても私はCanvasのファンなのです。信者なのです。Canvasシリーズと銘打たれていればそれを見届けるためにも買わないわけにはいかないのであります。 なでしこには、初回限定版と特別限定版が存在しています。どちらを買うべきか悩んだ結果、私は1000円高い特別限定版を購入しました。特別限定版には小冊子がついてきますが、内容は、Canvas(便宜上1)の説明書の最後に付いていたような白黒の設定用資料と描き下ろし絵2枚。やられた……。他に、初回限定版にもついている「撫子入学案内」というおまけCDがありましたが、こちらはドラマCD、システム音声、OPムービー、声優メッセージ、イラスト集が入っており、充実した内容になっています。購入するなら初回限定版にしておきましょう。 今回も多数の原画家によって作られた「赤いCanvas」は、我々Canvasファンに迷走を見せ付けるのか、それとも……? 消えた淡いグラフィック キャラクター。4人もの原画家が参加していますが、絵は違和感なく纏まっており、F&Cらしいクセのなさという点である種の統一感すらうかがえます。この辺りは流石ですね。性格について。Canvasシリーズは、主人公のトラウマを解消するためにヒロインが存在していたきらいがあり、今ひとつヒロインの性格がシナリオに活かされない弱点がありました。具体的には、どのヒロインと結び付いても同じような結末を辿るのです。しかし、本作はヒロインの性格が深くシナリオに結び付いており、多様な結末が用意されている点において、ヒロインが一つのエンディングのための単なる触媒としてのみ存在しているのではないことが言えるために、Canvasらしさは放棄していますが、ヒロインの存在意義は高いと言えましょう。ついでに書いておくと、伊万里役の草柳順子さんはかなり良い仕事していると思います(私がやられただけかもしれませんが)。おまけの声優メッセージによると、これまでの仕事で一番声当ての多い仕事だったらしいので、草柳ファンは声を聞くために買っても損はないかと。 グラフィック。背景は丁寧ですが、一番の問題点はここ。Canvasと言えば特有の淡い塗りですが、なでしこでは淡いグラフィックが一切なし。これは致命的ですよ。CanvasのCanvasたる所以の一つがまったく表されていないのです。幾らこれまでのCanvasシリーズと関連性はないとは言え、Canvasの名を冠する以上、グラフィックくらいは不文律を守っても良かったのではないでしょうか。立ち絵および表情は豊富で、服装も数パターン用意されています。イベントCGの塗りも優秀。それだけに淡さがないことが残念でなりません。 ゲーム性。意外と難易度は高いかもしれません。バッドエンドが細かく用意されており、すべてを見なければ、最後のCG「Congratulation」を見ることが出来ません。F&Cでは久々にアドベンチャーらしいゲームですね。一応は個別ルートらしいものが存在するのですが、基本的には伊万里と皐月メインで話が進行するために、理花と奏がどこで分岐に入ったのかが分かり難くなっています。また、Hシーンが豊富で出現条件が細かく設定されているために、すべて回収するのは根気が要りますよ。 演出。OPムービーは、これでもかと言うくらい紅葉が舞っていますが、あまり意味はない気が。イベントCGを使ったヒロイン紹介的な内容ですが、合間合間に入るムービー用に作られたデジタルアニメーション(DNAの立体構造)が意味深です。本編中に関しては、車の音やバイブの音など効果音には凝っていますが、視覚的効果はほとんどありませんでした。シリーズ共通の口パクもなくなっていたことが気になります。 Hシーン。驚きました。エンディング前に一回というこれまでのF&Cではありません。選択肢によっては毎日のように繰り広げられるのです。自宅で、屋上で、公園で……。SMあり、放尿あり、レイプありと最早どこがCanvasなのかと言いたくなりますが、とにかくF&Cのクセに悔しいですがエロい。Hシーンの存在意義も高い。肌を重ね合わせなければ不安を押し殺せない主人公と伊万里の心情が上手く描写されていますし、それ以外のヒロインも合格点を出せます。但し、挿入前に挿入しているようなCGが出るのは感心出来ませんな。 テキスト。いつもながら安定していると思われます。主人公の独白とヒロインとの会話および稀にヒロインの独白がありますが、どれも違和感なく読めます。……としか書けないんだよな、この項目。あ、そうだ。Hシーンで主人公が喘ぐテキストは必要ないと思いました。 シナリオ。キャラクター項目でも書きましたが、Canvasシリーズは、悩みを抱えて先に進めない主人公をヒロインが救う……というあらすじが基本です。本作もそれに準じてはいるのですが、大きく違う点が一つあります。それは、主人公の求めるものが自身の夢ではなくヒロインであることです。これまで手段でしかなかったヒロインが目的になっているのです。と言うのも、本作が「赤いCanvas」の名に恥じず、ドロドロの三角関係、四角関係を描いているためです。主人公を信じて揺れる二人の少女と、様々な理由をこじつけながらどちらを選ぶか延々と悩み続ける主人公。 本編中の半分以上はこの手の内容ですから、これまでのシリーズ同様に一人のヒロインを追い続けたいというプレイヤーは手を出さない方が無難かと思われます。逆に昼ドラ的な愛憎関係が好みの方には、各キャラクターの関係設定が緻密なのでお勧め出来る一本となっています。
人が夢に向かって生きるには、大変な努力を必要とするのかもしれません。立場もありますし、お金のことも考えなければなりません。多くの人々にとって、人生=ギャンブルではないのですから。だからこそ、人は夢に向かって素直に生きていける、夢に向き合える人は輝いて見えるのでしょう。Canvasシリーズは、これまでそうした素直になりきれない人が素直になる過程を綴って来ました。 本作も同様です。なでしこは、コンセプトとしてはCanvasしているのです。しかし、ベクトルが違いすぎていることも確か。主人公の目的がヒロインそのものになることは、決して悪いことではありません。むしろ、シナリオ重視の傾向が見えて良いとすら感じます。Hシーンが豊富であるのも18禁ゲームとしては望ましいことです。しかし、それを何故Canvasでする必要があるのでしょうか? F&Cはトラウマ解消系シナリオ=Canvasシリーズと決め付けているわけではないはずです。スカイラインだってV35型はセフィーロというフィールドで出せば良かったわけで、これまでのシリーズイメージをぶち壊してでも本作をCanvasシリーズに加える意図が見えてこないことは、なでしこにとってそしてCanvasにとってもアキレス腱になってしまった感があります。 |