慟哭そして…
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移植ゲームの吹き溜まりとなっていたセガサターンには珍しい、18歳以上推奨のコンシュマーオリジナルゲームです。パッケージの表には、紐に捕らわれ宙吊りとなった少女の周りに、不安げな顔をした女たちが並んでいるという何とも陰鬱な絵が描かれているのですが、裏に「助けて 誰か… 私を…」としか書かれていないため、内容がさっぱり分からりません。一応ジャンルには「トラップアドベンチャー」と書いてあるのですが、そもそもトラップアドベンチャーとは何なのかがよく分かりません。そんなわけで謎に満ちた「慟哭そして…」ですが(タイトルもよく分からん)、その正体は密室脱出ゲームです。トラップアドベンチャーとは、密室に仕掛けられた罠を解除して少女たちを助けるアドベンチャーということだったのでした。 細かな内容については次項で述べますが、このゲームは難易度が高くかなり面白いです。今となってはどこでも手に入るわけではありませんが、それほど高いプレミアが付いているわけではないので、脱出ゲーム好きの方は、見かけたら購入することをお勧めします。 なお、各キャラの日常シーンを描いたドラマCDと設定資料集とトレーディングカードが特典として付いて来ます。 究極難易度の脱出ゲーム ■シナリオ 正体不明の殺人犯が潜む、謎の廃屋から脱出するパニックアドベンチャー。ゲームの最も重要な目的はヒロインを救出し廃屋から脱出すること。 ゲーム内時間は、閉じ込められてから脱出するまでのおよそ一晩に設定されています。マルチエンディング方式で、最終的にはゲーム中に最も好感度を上げられたヒロインとエンディングを迎えることになります。本編は大きな共通の流れが決まっており、その中で所定の期間に発生するイベントを処理し、好感度を上げていく仕組みです。イベント処理の選択権はプレイヤーに委ねられているため、ビジュアルノベルにあるような個別ルートは存在しません。 シナリオは大きく二つのタイプに分かれます。ひとつは、殺人犯の正体を暴き廃屋の謎を解くもの。もうひとつは、殺人犯には極力関わらずに廃屋から脱出するものです。どちらのタイプに進むかはヒロインによって分かれます。ゲームの肝が前者にあることは言うまでもなく、ヒロインによって廃屋の謎にまったく絡めなくなってしまうのはバランスとして良くありませんが、どちらにしてもヒロインは全員等しく犯人の罠に陥ることになります。ピンチに陥ったヒロインを見ると、救いたくなるのはギャルゲーマーの性を利用して、どちらのシナリオでも何とかモチベーションを保たせる辺り、よく作れてらいるのかもしれません。 ■キャラクター ギャルゲー界の大御所横田守氏がキャラデザを担当。下睫を強調しパッチリとした目、プックリ艶かしい唇、肉感的な体……どこを切っても横田絵です。この人の絵はジャンルを選びませんが、今回のようなシリアス系のゲームが一番合うと思います。 性格・設定について。ストーリーの本筋に関わるキャラと関わらないキャラがいるのですが、前者は綿密に過去の設定や現在の性格形成などを作りこまれているのに対して、後者はかなり大雑把です。あるキャラはすべてシナリオに沿うように館にいる理由からピンチに遭う理由までガチガチに設定を固められているのに対し、他あるキャラは偶々そこにいただけという扱いで最初から最後まで何の意味もなかったりするわけです。ゲーム内プレイ時間は実質一晩程度なので、キャラのすべてを明らかにするのは逆に不自然とはいえ、格差が激しすぎ。そんな中、先生だけは特殊なポジションにいますが、それはプレイしてのお楽しみということで。 ■テキスト 脱出するための探索シーンが中心のゲームなので、物を探したり組み合わせたりする際に発生する主人公の心の独白がテキストの大半です。偶にひとりノリ突っ込みをしていて、少しだけ笑えます。ヒロインと行動するときには会話がありますが、常識的な雑談ばかりでこちらはあまり面白くありません。いずれにせよ、事実関係を確認するテキストばかりなので、総じて淡白と捉えて構わないでしょう。脱出ゲームですから、多少淡白でも長すぎるよりはバランスがとれているのかもしれません。 ■演出 プロローグは映画のような切り出しで、館に閉じ込められる直前の話が自動進行する中、オープニングクレジットが表示されていきます。このシーンで主人公達はバスに乗っていますが、走行するバスはアニメーションで表現されています。ただし、歌やムービーは一切ありません。……といっても本作の場合、下手に派手派手しくせずにドンヨリとしたまま本編に流れた方が良いので、これはこれで問題ありません。 効果音は火がついたり水が流れたり……といった緊迫感を煽る(そういうシーンがあるんです)ものがふんだんに用意されています。他方、画像効果で目立つものはありませんが、冒頭で室内で蝶を発見する場面だけは、蝶が画面上を動いていました。その他本編ではアニメーションやムービーのような動的効果こそないものの、探索画面では道具やトラップを動かす選択をすると実際にCGに変化が現れますので、全体的に不満はありませんでした。また残虐的な描写はすべてテキストのみで表現されますので、グロシーンが苦手な方でも余程想像力が豊かでない限り問題なくプレイ出来るでしょう。 ■シチュエーション ヒロインを救出しながら屋敷を脱出……というゲームですから、吊橋効果的なシーンを連想してしまうと思います。しかし、このゲームに登場するヒロインは何故か単独行動が大好きで、ずっと一緒にいて何度もピンチを救って惚れられる……なんて展開は望めないのが現実です。確かに助けると一瞬喜ばれるんですが、その後すぐどこかに行っちゃうんですよね……。助けた実績は好感度バロメーターみたいなものに反映されてクリアー条件に関わってくるんですが、もう少し随伴行動時間が多くても良かったと思います。 ■ゲーム性 廃屋内を表した3Dマップ上に表示される主人公を操作し廃屋からの脱出を目指す、マルチエンディング型脱出アドベンチャーゲームです。マップから室内に入ると2Dの室内画面に切り替わり、画面内に配置されているアイテム(鍵や工具など)を見つけ出していくことになります。集めたアイテムを状況に応じて使うことで、閉ざされた扉を開けたり危険に陥ったヒロインを救出し、ゲームを進めるのです。室内画面では選択肢も発生し、この選択肢がエンディングの分岐条件に関わってきます。 ゲームはリアルタイムではありませんが、特定の条件をトリガーにして時間が進行する仕組みになっています。例えば、ヒロインAがピンチの時に、アイテムBを見つけ出して使えば助かるとしましょう。しかしアイテムBを見つけ出しても、すぐ助けずにトリガーとなっている扉Cを開けてしまうと、時間が進行してAを助けられなくなってしまうのです。ゲームを進めるために必要ですから、このトリガーは当然あちこちに隠されています。 また、ヒロインには個々に選択肢が影響する好感度のようなパラメーターが存在し、好感度の高いヒロインはエンディングに関わるイベントの発生条件が整います。ただし、イベントは自動的に起こるわけではありません。アイテムの使用方法を誤ったり、イベントが起こる部屋に入らなかったりすると、たちどころにイベントが消滅します。またヒロイン同士の好感度が均衡していてもイベントが起こりにくくなります。 以上のゲームシステムを持つ本作ですが、犠牲者の発生を考慮せず単純に脱出するだけならばそれほど攻略は困難ではありません。ところが特定のヒロインを狙い始めた瞬間、難易度は途端に急上昇します。エンディングに到達するためのイベントを発生させる条件を満たすのは比較的容易ですが、他のヒロイン好感度とのバランス調整が難しいのです。全員を救出しながらということになると、格段に難易度は上がります。手っ取り早く攻略するには目当てのヒロイン以外を全員見殺しにする方法もありますが、それも悔しいですし……。さらにエンディングにはグッドエンドとバッドエンドがあるので、全ヒロインで双方を自力でコンプリートするのは、不可能に近いものがあります。実は私もバッドエンドをすべては見ていません。とにかく難易度の高いゲームですが、楽しむ秘訣はやり込もうと意気込まずに思うが侭にプレイすることでしょうか。目当てのヒロインを攻略出来るかは分かりませんが、頑張れば何らかのエンディングには辿り着けますし、何よりノベルゲームのように勝手に出てきた選択肢を選ぶのではなく、自分で考えた行動がダイレクトに結果に繋がる快感は得がたいと思います。初心者の方から上級者の方までお勧め出来る隠れた名作です。 ■グラフィック 背景は40枚前後。ほぼすべてが屋敷内の絵です。奥行きを意識したためか、奥に行くにしたがってかなり物が小さく描かれ、広角レンズで見たような絵になっています。荒れ果てた状態が分かるように、壁の汚れやタイルのくすみなどもしっかり塗られています。十分合格点でしょう。 各キャラ立ち絵は3〜5パターン。表情パターンはありません。一部服装が変わるキャラがいます。目パチあり口パクはなし。 イベントCGは各ヒロイン20〜30枚登録されますが、表情やポーズパターンが多いので、それを抜くと半分以下になります。下着姿やパンチラなどのサービスCGが豊富で、どれも肉感的でエロティックな仕上がりです。
不安定な環境下に人々を放り込み、そこで発露する人間の「弱さ」をまざまざと見せ付ける本作。例を挙げてみましょう。保身の末に行き着いた屈辱的服従、思春期特有の感情の乱れ、そして現実を受け入れられない人々によって続けられる犯罪……。 悩みからそんな行動をとってしまう人々の中、主人公は堂々と館内を散策していきます。しかも彼にはヒロイン達の生死から事件の謎解きまで、あらゆる決定権が委ねられているのです。どこをどの順番で探すかも、どれをどこに使うかも自由。好きなときに好きなことが出来る快感、そして行動が結果に反映される達成感! これほど自由度が高いにも関わらず、矛盾が起きないように管理された完成度の高いゲームシステムは、ギャルゲーでは未だに少ないのではないでしょうか。情報開示も自動で進むことはなく、自分でやったことがやった分だけ明かされるという成果主義。そして恐ろしい難易度……。読み進めていくだけでは味わえない楽しみが、このゲームには凝縮されています。脱出ゲームの正等進化形態と呼ぶに相応しい内容で、サターンギャルゲーの中で最も評価に値するゲームのひとつです。お勧め。 |