銀色 ―完全版―
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映画風ADG 新興ゲームブランドであったねこねこソフトを一躍有名にした作品、それが2000年8月31日に発売された「銀色」です。これから批評するのは、その銀色に夕奈などサブキャラクターの音声を追加し、CG、シナリオ、システムを改善し、原作にあった英語モードの音声を削除して発売された「完全版」です。ちなみに、ねこねこソフトは、原作に付属している葉書を送ったプレイヤーに完全版を無料配布しています。 本作のパッケージには「VNとして映画を意識した作りになっております」と書かれています。英語モードが入っているのはそのためです。字幕のような画面もそのために拵えたものでしょう。しかし、このゲームが面白いのは、システム面で映画的であるからではなく、一本道のストーリーが映画的であるからなのです。では、過去から現代へと脈々と繋がる銀色の糸の物語は一体何を伝えたかったのでしょうか? 悲劇に彩られたオムニバス ■シナリオ キーアイテムである「銀糸」に纏わる物語が、4章に分けてオムニバス方式で語られ、章の合間に銀糸の誕生エピソードが分割されて挿入されます。4章をクリアーすると総括として5章が始まるので、全5章で構成されるということになります。前の4章は銀糸を除いて関連性がなく登場人物や時代設定も異なるため、キャラクターに感情移入してハラハラしながら進めるADGらしい楽しみ方をするというより、一歩引いて眺める感じでゲームを進めることになります。特徴はどの章も悲劇であること。いずれも願いが叶うという銀糸を使ったがために悲惨な末路を迎えるという共通点がある上に展開を変えることは出来ないため、教訓が込められたイソップ童話を読んでいるような印象を受けます。4章連続でプレイヤーにストレスを溜めさせることが出来るのは、どれも舞台がまったく異なるからです。そうでなければ5章に到達する前に飽きてしまったことでしょう。ただし、完結していない印象を与える エピローグは蛇足でした。事実、朱へと繋がっているのですが……。 ■キャラクター 目の描き方に強烈なクセを感じる絵ですが、そのパーツを除けば万人向け。複数人原画家がいますが、どれも同じ人が描いているような印象を受けるほどだったので、まとまりは良いです。 性格・設定面では設定命という感じで、ヒロインそれぞれに役割が明確に割り振られています。その分、ストーリー上必ずしも必要ではない、キャラクターの個性の部分は殺されているので、必要性は感じても魅力を感じるヒロインがいませんでした。何でもある程度、遊びの部分があった方が良いようです。 ■テキスト あまり抽象的な表現は使わず、登場人物に事実を淡々と独白させることで話を進行させています。言い回しを変えて同じことを繰り返すようなこともしないので、プレイヤーはあまり考えることなく物語をひたすら進めることに専念することになります。極力「ゲームであること」を意識させるものを排除したいのか台詞に人物名が付いていないのも、それに一役買っています。おそらくこれはシナリオライターの狙い通りなんだと思いますが、私としても嫌いではありません。 ■演出 二行しか出ない字幕のような画面や章構成の冒頭部分など、映画を意識した演出は特筆しておくべきでしょう。反面、OPムービーはひたすらイベントCGを集めて流しているだけで、あまりにも芸がありません。ゲーム中でも画面効果を使った演出より、グラフィックの部分で触れますが、イベントCG自体にかけるフィルタやトリミングで魅せるものが多く、動的な演出より静的演出の方に力を入れているゲームです。それと、英語モードというのがあるんですが、これは演出的には意味がないような……。 ■Hシーン こう言っちゃ何ですが使い物になりません。映画に出てくる濡れ場レベルを想像して下さい。必要性はありますが、基本的に悲壮感漂うものが多いですので、眺める程度が肝要でしょう。 ■ゲーム性 章構成になっており一本道で進んでいきます。早い話が分岐しません。一応選択肢が幾つかあって誤った方向へ進むとバッドエンドを迎えたりしますが、非常に分かりやすいので難易度は皆無です。 ■グラフィック 背景はベタ塗り部分が多くて凹凸が感じられません。章毎に背景が異なるので数は多いのですが、出来は大したことありません。一方、イベントCGは一枚一枚大胆にレタッチやトリミングを行い、動きのある構図を生み出しており、中々見応えがあります。但し、イベントCGでも背景は人物に対して見劣りします。人物が綺麗過ぎるということもあるんでしょうが、やや残念。立ち絵は頭でっかちでバランスが良くありませんが、顔……特に髪の毛に関しては良く描き込まれています。枚数は少なく、表情の変化で見せるパターンです。笑顔が少なく、色調も相まって大変どんよりとした雰囲気が漂っていますが、そこがゲーム内容にマッチしていたりします。
このゲームに登場する「銀糸」は努力なしで幸せを提供する宝くじの1等賞みたいな存在だとゲーム内では思われています。しかし、それは一部は正しいですが一部は間違っているのではないでしょうか。銀糸が幸せを呼び込むのは本当でしょう。ただし、それは無償での提供ではなくそれなりの対価を要求しているように思えてなりません。ただ、それは悪いわけではなく、当たり前のことでもあります。結局、世の中は理不尽に満ちていて「幸せ」なんて簡単に手に入りません。何かを得るならばそれなりの対価が必要だということ、本作はそれをオーバーに表現しているに過ぎません。というのも、銀糸によってもたらされる「幸せ」は、努力しても実現することが難しいものばかりだからです。一見悲惨な結果を招くように見えますが、それは、実現不可能なものを実現させるように導き、幸せに見合った対価を要求した結果に過ぎないのです。つまり、幸せは有償なのです。そして代償を支払いながらも掴んだ幸せこそ「生きた証」といえるわけです。 幸せは有償であるという有り触れたテーマながら、時代を超える壮大な伏線は、その表現方法としては大変面白く読み応えがあります。少し古いですが今プレイしても損はないでしょう。 |