Memories Off
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ありがちが生み出すキーワード
KIDという会社は基本的にPCゲームをコンシュマー向けに発売する移植メーカ ーでした。そのKIDが99年に人気原画家ささきむつみ氏を起用して自社製作した ゲームがこのメモリーズオフです。今ではシリーズ化され、KIDの看板作品となって いるメモリーズオフ。今回はシリーズの原点である1stを批評することとします。 さて、メモリーズオフですが、タイトルが示す通りキーとなるのは「想い出」で す。主人公が過去の想い出とそれに伴うトラウマからいかに抜け出して成長してい けるかを描いたストーリーは、正直なところありがちな展開ではあります。しかし、そん なありがちな展開にこそ価値があるのです。誰にでも起こりうるありふれた学園生活の 演出は、プレイヤーを無理無く舞台に招待します。そんな切ない想いが奏でる物語がメ モリーズオフなのです。 KIDが送り込む想い出 本作はシナリオの下地が固まっているので、ポイントとなるのはゲーム内における この過去の見せ方となるのですが、それは主人公の回想という形をとります。こういった形 をとられるとプレイヤーは主人公と所有している情報量が異なってくるために、今一 つシンクロしにくくなってくるのが難点ですね。主人公がプレイヤーをおいて一人歩きし てしまうことになってしまいかねないのです。とは言え展開が分かりやすいものと なってはいるが、比較的うまく処理している作品と言えるでしょう。しかし、そこには見 えない落とし穴がありました。それはシナリオによるものではありません。何とパッケージによ るものだったのです。このゲームでは、回想シーンでは断片的な情報を与えるのみ にとどまる構成をしており、クライマックスでその全貌を明らかにする形をとってい ます。つまり、どのような背景が裏に隠されているかは終盤までプレイせねば分からな い構成をしているのですよ。ですが、その背景はパッケージを見ただけで明らかなのです。何故シ ナリオに謎を含ませておいているのにも関わらず、プレイ前からも展開が予想しうる パッケージを用意してしまったのでしょうか? ここに、メモリーズオフという作品は 残念ながら、ディスクをハードにセットさせる前から戦略的なミスを露呈してしまっ ていたのです。最初からそれを予想してもらった上でプレイしてほしいという作戦だったのかもしれませんが、それでは情報の限定とはなりませんし、今一つ私としては納得がいきませんでした。
前述の通りにパッケージの時点でミスを犯しているメモリーズオフですが、問題点は キャラ毎のシナリオの差が激しすぎることでしょうか。唯笑編がきっちりとつくられてい るのに対し、小夜美編の短さの現れは顕著です。また、ストーリーの全体を描きき らずに終わらせてしまうEDも多いため、かなりプレイヤーの想像力に頼ってしまっ ている部分も多いですね。 このゲームのキーワードは何度も言うようですが「想い出」です。想い出とは、所詮本 人にしか分かりえないものです。であるからして、登場するヒロインがいくら胸のうち に想い出を秘めていようと、それをヒロイン本人による視点での回想によって振り返 られるならまだしも、主人公以外の想い出を主人公の憶測と断片的な各ヒロインの語 りのみによって振り返るスタイルで進められる以上、どうしてもシナリオとして不完 全なままに終わってしまう点は否めません。 このように、欠点を探せばいくらでも出てくるのですが、それでもやはりメモリーズ オフは名作ですよね。極めて後ろ向きで自己中心的な過去のトラウマに縛られる主人公 と、やはり過去の想い出に何らかの影響を受け現在まで引きずっているヒロインたち を巡る葛藤は、如実に人間の弱さを映し出しています。そんな脆さを描いたどこかあり がちな人間ドラマが、秋という切なげな季節を十分に生かし、静かで綺麗な音楽と共 に進行していきます。設定が上手く、ストーリーを生かす各演出は褒められる点としてあ げておかねばなりません。 意表を突くような驚きの展開は無く、それ程凝ったシナリオではありませんが、時間があればこ のKIDの原点を手にとってみるのも良いかもしれません。また、コンシュマーという ことが手伝うというわけではありませんが、中高生の方やライトユーザーにはお勧めな一作 と言えるでしょう。 |