野々村病院の人々
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野々村病院の人々は、1994年にエルフの姉妹ブランドであるシルキーズからPC98向けに発売された成人向けゲームです。その後、95年にはPC-DOS/V、96年にセガサターン、Windows95、2003年にDVD-PG、同年、河原崎家の一族とセットになったマルチパック、07年にDMMから移植されています。今回は私がプレイしたセガサターン版を批評します。サターン版は対象年齢18歳以上のX指定です。 特定ヒロインをストーキングしてハッピーエンディングを狙う同級生のような恋愛ゲームではなく、マルチシナリオの非純愛推理ADGです。当時、サターンのX指定ゲームは麻雀物やアイドル物が中心で、ストーリー性をまるで無視したゲームばかりだったため、本作のようなゲームが移植されたことは大変喜ばしかった覚えがあります。プレイヤーが判断した選択がダイレクトに反映され、多様なエンディングへと導くシナリオと蛭田氏独特のユーモアに満ちたテキストは今でも面白く感じられます。押入れを整理中に出てきたこのゲーム。記憶を頼りに書いてみることにしましょう。 地味ながら隙がない展開 ■シナリオ 入院先の病院で依頼を受け、院長の死因について調査を行いますが、途中、主人公のあずかり知らぬところで登場人物の思惑が絡み合いつつ、勝手に事件が起こっていきます。ですから、進行中ルートの裏を読みながら進めないとバッドエンドに直行することになります。反面、人物の行動パターンは大体決まっているので、いつどこにいるかを把握することが肝要です。 ゲームの目的は犯人探しですので、如何に犯人ではない登場人物を怪しく仕立て上げられるかがシナリオのポイントになるわけですが、野々村病院の人々それぞれに曰くありげな過去を背負わせ、最後まで上手く犯人をカモフラージュしています(カモフラージュし過ぎて、犯人の過去が最後の最後になるまで分からないというのが問題でもあるのですが)。対して、ネタだらけの経歴の持ち主である主人公は飽くまで「探偵」として動くだけで、登場人物達の過去とは一切接点を持っていないため、プレイヤーは客観的にゲームを進めていくことが出来るという構成も見逃せません。 驚くようなトリックが使われているわけではありませんし、展開としては至って地味なゲームですが、しっかりと最後までプレイさせるだけの内容は持っていますので、及第点を与えたいと思います。 ■キャラクター 言わずと知れた横田守氏がキャラデザを担当しています。この頃のエルフは凄かったよなあ。当時のギャルゲーはまだ今のように目が巨大ではなく、普通の青年向け漫画と並べても違和感の少ないものがまだ多かったです。本作も可愛いながらも「萌え」系の絵ではありません。尤も「萌え」という単語がまだ普及していなかった時代ではありますが。 設定命のゲームですので、人物の相関関係や経歴はがっちり固められています。基本的に余所余所しさを感じさせる人ばかりでありながら、会話の端々に事件と関係する面をチラリと垣間見せて興味を惹かせており、バランス感覚が取れています。しかし、エルフって二枚目の嫌味な男をギャフンと言わせる展開が好きですなあ。そこが小気味良くて好きなわけですが。 ■テキスト 蛭田氏のテキストはいつでもギャグ満載。私はギャルゲーでこの人以上に笑えるテキストに出会ったことが未だにありません。下ネタを書かせれば右に出るものはいないですし、ハードボイルドを気取った独白もわざとらしいですが味があります。毎度のコトながら主人公のイカレぶりが最高。主人公海原琢磨呂は常に人をおちょくった口ぶりが多いのですが、琢磨呂も常に相手にバカにされているため、結果的に会話のほとんどが掛け合い漫才になってしまっているところ堪りません。読んだことがない方は是非一度蛭田氏のゲームをプレイしてみることをオススメします。 ■ゲーム性 マルチエンディング形式の推理型アドベンチャーです。基本的に「移動先の決定」と「推理の回答」を選択肢から選ぶことでゲームが進んでいき「見る」とか「触る」といった従来の手の平ツールを使った画面クリックはありません。コンプリートしようとするとかなりやっかいですが、普通に事件を解決するだけなら、誰でもクリアーできるでしょう。というのも、選択を誤ってバッドエンディングを迎えても、エンディング後になぜバッドを迎えたかヒントをくれるからです。しかし、もしヒントがなかったらかなり苦労させられていたと思います。当然と言えば当然ですが、いつ移動すると誰に会えるかがまったく選択肢に書いていないからです。そのシビアなところが逆に良いのかもしれません。 ■演出 目パチ口パクを実装。本編中の画面効果はほぼなし。効果音もピンとかポン程度のもので、車が走る音だとか発電機が唸る音だとか気の利いたものは一切ありません。効果で魅せるのではなく、CGや音楽でダイレクトに感じてもらうゲームでしょう。 ■Hシーン 所詮コンシュマーですので非常に短く実用性は皆無です……というか本番行為はなかった気が。まあ、ご褒美くらいに考えましょう。必要性はあります。Hシーンがなければ話が始まらないので。 ■グラフィック 遠近感を意識した描き方により、さして広くないはずの病院から閉塞感を消し去っている背景は、当時としては上出来といえます。枚数は20枚未満と多くありませんが、舞台がひとつの病院である以上、納得。 イベントCGは今見るとどうしてもジャギーが酷く感じられますが、それを除けば綺麗。女性の身体の描き方が生々しいのが特徴でしょうか。枚数は各ヒロイン10枚あるかないかと少ないです。 立ち絵のパターンは残念ながらありません。
野々村病院の調査を進めていくと、登場人物のもう一つの顔が明らかになっていきます。その「もう一つの顔」とは、犯人探しをするということから、彼ら、彼女らの悪意に満ちた裏の顔を指すと思われるのではないでしょうか。しかしそれは違います。このゲームの場合、明らかになるのはボジティブで善良な側面なのです。 人間はどこかしら二面性があるもので、その内のネガティブな側面が集まった結果がこの事件に繋がっているわけですが、本作をクリアーした時、私は主人公がこの事件を解決することで、登場人物を事件だけでなく彼女達が抱え込んでいる負の連鎖からも解放しているのではないかと思いました。何故なら最後に見た彼女達の顔からは、最初に会った時と違って悲しみの色が消えていたからです。そしてその時、初めて彼女達のポジティブな姿が明らかになったというわけです。 もう旧世代といっても過言ではないゲームですが、一見おちゃらけていながらも、ハードボイルドで味わい深さを覚える良作です。辻褄も合っていますし、10時間以内で終わらせることができるでしょう。年齢、職業に関わらず楽しめ内容なので、暇つぶし感覚で買っても損はありません。 |