シークレットゲーム -KILLER QUEEN-
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パッケージは裏も確認せよ
シークレットゲームは、同人サークルFLATが2006年に発売した18禁ADG「KILLER QUEEN」をPS2に移植したものです。私は原作はプレイしていません。なお、初回限定版にはドラマCDが同梱されています。 パッケージの表側には、意味もなく格ゲーのようにキャラがゴロゴロと配置されているだけでギャルゲーには見えませんし、あまり面白そうに感じません。しかし、裏側を見ればその評価は一変することでしょう。首輪をして血を流した少女がやや苦しげにしながら、こちらを向いて「それでも私は、あなたを信じます」と呟いているのです。しかし、購入の決め手はその下のスタッフ欄にありました。何とPS2版ディレクターとして、ADG史上最高の一本であるEver17のシナリオを担当した中澤工氏の名前が並んでいたのです。氏がいるとすれば本作もEver17級のトリックが仕掛けられている可能性があります。期待しないわけにはいかず、即座にレジへと進んだのでした。ちなみにその後、当サイトの5周年プレイ記の題材にもなっています。果たして、シークレットゲームの真相とは? 本末転倒? 驚異のBetシステム ■シナリオ 4章構成になっており、すべて同一の時間軸と主人公の視点から描かれます。勿論、展開はそれぞれ異なります。章毎にストーリーの謎やキャラクターのプロフィールが少しずつ明かされ、4章目をクリアーして初めてシークレットゲームの全貌が分かるようになっています。後程ゲーム性の項で触れますが、本作には一切選択肢が登場しません。ですから、マルチエンディングのADGを強制的に全ルートを辿るようにしたゲームと考えればよいでしょう。ギャルゲーにしては珍しく、キャラクターよりゲームの世界観を明かすことに重点が置かれています。伏線もある意味強制的に回収されるので、矛盾点が当たらず、消化不良を起こしていない点がポイントでしょう。同一時間軸の閉鎖空間で4周させられるので、周を重ねる毎に謎が少なくなり、展開が読みやすくなっているのが難点ですが、章毎に主人公の仲間を変更し、飽きさせないような努力はされています。 ■キャラクター 塗りが単調なせいか絵に関しては、商業品としては少し低レベル。男性キャラはバランスも悪いのが目立ちます。女性キャラは全体的に幼い印象を受け、ロリっ子タイプのキャラはまだ見れる方でしょう。 性格及び設定面ですが、キャラの過去を土台にしつつもそれをクローズアップしすぎず、現場の緊張感を大切にしています。結果、ゲーム中、表の顔よりも裏の顔……すなわちキャラクターの本性が常に剥き出しになっています。キャラが持つ本当の魅力を味わいたい方にはオススメ。 ■テキスト 珍しいパターンで、基本的に三人称で語られます。狂気に満ちたシナリオを、どこか他人事のように解説していく様は、独特の緊張感を醸し出すことに成功しています。その一方、臨場感に欠けるので、主人公御剣総一への感情移入の妨げにもなっているのですが、実はそれはそれで正しかったりするのが考えられているところ。語彙が足りずに面白みのないテキストではありますが、最後まで攻略すれば、何故、他人事のように書かれていたのかが分かります。 ■演出 OPムービーは、基本的にイベントCGを織り交ぜながら、キャラクター紹介をする内容です。背景に数字やトランプなどが映っていて中々面白い構成をしています。絵は今一ですが、ムービーは商業レベルでした。ムービーは2パターンあり、4章になると変わります。歌も異なり力が入っています。謎めいた雰囲気を重視するなら、1つ目のムービーは、あるヒロインを出すべきではなかった気がしますが、プレイされた方はどう思われるでしょうか。 画像エフェクトは、ほとんどありませんでした。途中で何度も登場するテキストで作りが豪華と称されているアニメキャラも、ゲームでは静止画1枚なので、豪華さが伝わってきません。ここはもう少し動きを持たせても良かったと思います。 効果音も特に目新しいものはありませんでしたが、銃撃音などは問題なくありましたので、こちらは及第点。 ■シチュエーション 閉鎖空間での殺し合いという極限状態を、登場人物の個性を殺さずによく表現しています。数多くの疑念が渦巻く中で、凡そ考えられる狂気的な行動パターンを沢山の登場人物で分担し、ゲーム内容に求められているシチュエーションがしっかり実現されています。一方、いわゆる吊橋効果的な恋愛シチュエーションも少なからず存在います。3日間という短い期間で恋愛が成立するかかなり微妙なところですが、プレイ中はさしたる違和感を覚えませんでした。 ■ゲーム性 最大のセールスポイントであり、同時に最大の弱点となってしまったゲームシステム。本作には選択肢がありません。ただ、それではゲームとして成立しないので、代わりにBetシステムという、シナリオ中で生き残るキャラクターを予想して与えられた金を賭けるカジノゲームが存在します。賭けに勝てば配当金が手に入り、負ければゲームオーバーです。また、賭けなくてもストーリーは進行します。ここが味噌です。 クリアーすると分かるのですが、このシステムはかなり矛盾と欠陥を孕んでいます。ネタバレ防止のため、詳しくは述べませんが、システムの存在意義自体があやふやなのです。それは、ある種プレイヤーにゲームをしなくても良いと告げていることと同義です。ゲーム内でゲームを消化し切れていないのは、ゲームとして本末転倒と言わざるを得ません。Betシステムをどのように捉えるかは人それぞれでしょうが、少なくとも私は、このシステムというより、本作のゲーム性のあり方には疑問を覚えます。 ■グラフィック 背景は普通の出来。薄暗い室内風景ばかりなので変化に乏しく、パターン自体も然程多くはありません。だからと言って汚いわけでもありません。 アルバムに登録されるCGは総133枚。内、ベットシステムで得た資金で購入するものが20枚前後ありますので、本編で見れるイベントCGは110枚程になります。血が出ているような絵も多いのですが、表現は概ね自重気味です。まあ、仕方がないですね。こちらも出来としては普通。 立ち絵は各ヒロイン4パターン前後。表情パターンが多く、7パターン以上はありますので、見ていて飽きません。
中澤氏に期待していたトリックは、確かに仕掛けられていました。Ever17をプレイしたことがない方なら、あっと驚くようなものでした。それは、最早ストーリーを完全に無視した恐るべき禁じ手……。そしてそれは、本作のテーマ……すなわち「ゲームの非ゲーム化への挑戦」が牙をむいた瞬間だったのです。 4章を終えて見事にハッピーエンドに到達すると、プレイヤーを祝福する画面が現れます。そこには、プレイヤーの強い意志と正義を称えるテキストが並んでいることが確認できることでしょう。しかし、私にはその文章が別のものに見えてなりませんでした。それは「思惑通りに進んでくれてありがとう」というスタッフのメッセージ。何故なら、そのエンディングを迎えた時、そこにはプレイヤーは存在せず、スタッフだけでゲームが自己完結しているからです。このゲームはスタッフが作ったトリックを見せるために存在していたのです。それではいけません。飽くまでゲームはプレイヤーが楽しむもの。スタッフが作ったトリックは、ゲームを楽しむためのファクターの一つでなければならないのです。結論を述べると、本作はプレイヤーが、ゲームの持つ「ゲーム性」を楽しむことが出来ないゲームです。つまり「遊べない」ゲームです。果たして、遊べないゲームをゲームと呼べるのでしょうか。私はそれは最早ゲームではないと思います。しかし、スタッフは敢えてゲーム性を犠牲にしてまで、トリックの魅せ方にこだわりました。結果的に遊べないものを「シークレットゲーム」という名前を付けて如何にもゲーム然とした体裁で世に送り出すことになったのは、皮肉としか言いようがありません。 シークレットゲームに隠されていたシークレットとは、本作がゲームではないということだったのです。 |