センチメンタルグラフティ
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現行形式に移ってから、通算100本目の批評です。 100本目のタイトルは前から決めてありました。私のギャルゲーの原点ともいうべき作品――すなわちセンチメンタルグラフティです。発売は1998年ですから、もう10年以上経過していますが、未だに忘れられません。 ゲーム内容や発売の経緯についての説明は不要とは思いますが、敢えて触れておきましょう。本作はときメモの次代を担うべく企画された作品で、G'sマガジンで連載が始まり、大々的な声優オーディションや、ゲーム発売に先行してのラジオ番組・コンサートなどが行われ、大きな話題を呼びました。しかし、公開されていた設定イラストと実際に発売されたゲームの立ち絵がまったく異なったことから大きな不評を買い、クソゲーとの呼び声も高い一本でもあるのです。こうした経緯から発売本数こそ多かったのですが、すぐに中古市場に出回り、発売から1年が経たない内に激しい値崩れが起こりました。私が購入したのはこのときです。この頃はギャルゲーには興味などなく、ワゴンセールで叩き売られていたゲームをまとめて買った中に偶々センチが入っていただけだったのです。しかしながら大量のゲーム群の中から現れた甲斐智久氏のパッケージイラストは、そんな私にすらディスクをセットさせる魔力を秘めていたのです。パッケージ絵とゲームの絵は言われてみるとまるで別物ですが、この頃は気にも留めませんでした。矛盾するようですが、はっきり言って絵などきっかけに過ぎず、本当のところはどうでも良かったのです。私が惚れ込んだのは、ゲーム性とキャラの設定でした。男にとって都合の良すぎる全国に幼なじみが12人も散らばっているというパラダイス設定と、それを同時になだめすかしながら攻略していくという究極のすけこましが正当化される清々しさに私は夢中になりました。1人旅に憧れを抱いていたこともあり、全国を旅するというデザインも気に入っていました。戦略性は高いですが、効率性は低いゲームです。しかし今でも面白いと思っていますし、このゲームをプレイしたことに後悔はありません。そんな私のギャルゲーのルーツを100本目と出来ることに、少々の誇りを覚えつつ、進めていくことにしましょう。 なお、画集・声優オーディション・声優コメントが入ったセカンドウィンドウなるCDと、月ごとにヒロインの絵が入ったカレンダーが付属します。 せつなさ炸裂! 驚異の暗黒太極拳!! ■シナリオ 全国を転々としてきた主人公の元に届いたラブレターの差出人を探るため、全国に散らばるこれまで仲の良かったヒロインの元を訪れるという内容。 基本的にトラウマ解消系シナリオと考えて構いません。それぞれヒロインは、過去に起因する悩みを抱えています。この悩み事は、季節ごとに発生するデートイベントで回想の形をとって明らかになっていきます。回想シーンは、デート中の過去とシンクロするような出来事をきっかけに発生する、因果関係を意識させる内容となっています。しかもこれらは主人公がかかわるものが大半です。主人公は、回想シーンを元にヒロインの悩みの原因を探り、これを解決していくのです。全ヒロインが幼なじみであり、幼なじみ属性の最大の特徴が「過去の共有」であることを考えると、合理的な構成です。 届いた手紙の差出人が、エンディングを迎えたヒロインになるため、始めから手紙の差出人が確定していない点が、気になるといえば気になりますが、エンディングを迎えたヒロインと手紙の差出人が違ったなんてことではあまりにドラマ性がないので、これはこれでアリでしょう。 ■キャラクター キャラデザは丞久幸宏氏。キャラ原案(イメージイラスト)の甲斐智久氏とはまるで異なる絵で、ゲームがボコボコに叩かれまくった割に、この人の正体はよく知られていませんし、私もマーカスのスタッフであるという以外は知りません。説明書にはファーストウインドウのキャラ設定担当者と書かれています。両者の絵は様々な違いがありますが、丞久氏の方は鼻が強調されすぎている ことと目の位置・描き方が甲斐氏とまるで違います。また、塗りもかなり問題。グラデーションをなだらかにつけてある柔らかな印象の甲斐氏のイメージイラストに対して、ゲームの方は如何にも閉領域に一色をベタ塗りした感じで、しかも色が濃すぎて平面的な印象があります。 12人もヒロインがいますので、性格は強気な娘、泣き虫な娘……とバリエーション豊富。設定は幼なじみだけに過去に関するものが充実しています。過去の共有が、中々会えない主人公とヒロインの関係を深いものに結びつけ、さらにしっかりとした存在意義を与えているのです。そうでなければ、属性のみが強調され、12人もヒロインがいるので埋没するキャラが多数発生したことでしょう。 ■テキスト シミュレーションなので、テキストは短い会話のみと言って良いでしょう。各ヒロインのイメージを良く捉えているために、読むだけで誰か分かり、上手く書けています。ただ、ヒロインが地方に散らばっている割には、ほとんど方言がないのが気になります。あまり難解なのを出されても困るのですが、多少なまらせても面白かったのではないかと思いますが。 ■演出 かの有名な「暗黒太極拳」こそ、本作のオープニングムービーであります。漆黒の闇の中、ヒロイン達が踊り始め、最後には制服だけが取り残されるのです。まあ、始めて見た時はギャルゲーについて詳しくなかったので、特に感慨を覚えませんでしたが、今見るとかなり謎めいています。とは言え、イベントCGを繋ぎまくるよりはマシですし、意味は分かりませんが、アニメの出来自体は悪くありません。 その他の視覚効果といえば、立ち絵が変わるときに、その中間の絵をモーションを見せるために挟んでいたことでしょうか(当時は珍しかったのです)。 効果音は、移動時の交通手段(飛行機や電車)とせつなさが炸裂したときの爆発音、鳥の声など。オプションのサウンドテストを見る限り92パターンもあるようです。 ■ゲーム性 せつなさ度と好感度という2つのパラメーターを持つヒロイン12人を攻略していくゲーム。各ヒロインは全国に散らばっています。彼女らに会うためには居住地までの旅費と日数と体力を確保しなければなりません。また、事前にヒロインとの日程調整も行わなければなりません。旅費をバイトで稼ぎ、スケジュールを電話で合わせ、休憩をとることで体調を管理し、ヒロインの住む街まで出かけてデートを行うのです。そしてデート中の選択肢で好感度を高め、エンディングへ運ぶわけです。一方、せつなさ度は、主人公と会えない期間が長くなるほど溜まっていき、MAXになると爆発して、好感度が大幅に減って攻略がほぼ不可能になります。これを「せつさな炸裂」と呼びます。また、他のヒロインへも悪影響を及ぼします。しかし、このせつなさ度が高いとき程、好感度の上昇度も高まるので、炸裂前直前に会えればデートの効果が高まります。電話でデートの約束を取り付けなくても偶然会えることもあるため、運の要素も逃げ道として用意されています。この徹底したスケジュール管理を求められるゲームバランスは秀逸といって良いレベルでしょう。上手くすれば中盤〜終盤にかけて6人同時攻略も可能で、この同時攻略こそが本作の肝です。是非挑戦していただきたいと思います。 ■シチュエーション 全員遠距離恋愛なのが特徴。ヒロインと自分の都合が合わないと会えず、しかも1回当たりのデート時間が短いため、会いたいのに会えない遠距離恋愛のもどかしさが図らずも(?)良く表れています。本命以外のヒロインともデートをしなければならないので、月に1度も会えない本命の娘とのデート時間より他のヒロインとのデート時間の合計が圧倒的に長くなり、本命の娘とのデート中は何となく罪悪感を覚えてしまいます。 また、他のキャラとの掛け合いが極めて少なく(というか登場しない)、主人公とヒロイン1対1でデートを楽しみます。デート中は過去を振り返る内容が多く、幼なじみならではのシチュエーションといえるのではないでしょうか。1ヒロイン当たりのイベントは決して多くありませんが、泣きあり笑いありとバランス良い展開を用意しています。 ■グラフィック 背景は実写です。全国を旅してヒロインを探すわけですが、その旅行先の実在の風景がぼかしをかけて配置されているのです。各道府県最低10箇所の名所が用意されているので、最低120カットはあることになります。そしてこの背景が聖地巡礼の元ネタになり、センチ行脚を生む原動力となるのです。 イベントCGは各キャラ15枚前後だった気がします。回想イベントが多いので、各ヒロインの昔の姿を楽しむことになります。回想CGはセピア仕上げで、カメラを引き気味で撮った傍観しているような構図が多いですが、現在CGは、ドアップになったり空撮してみたりと、シーンに合ったセンスある構図で仕上げられています。ただし、塗りはかなりベタベタしています。 立ち絵パターンは各キャラ4パターン前後。服装が季節に応じて変わります。
世間では評判の悪い本作ですが、私はこれほどバランスの優れたゲームは、中々ないと思っています。12又をかけるという前代未聞の主人公に共感は覚えませんが、トータルのゲームバランスは極めて優れていると思うのです。 まず、これほどヒロインを出しておきながら、一人として埋没しているヒロインがいません。これは繰り返しになりますが、彼女らが全員幼なじみであり、過去設定を出すことによって、実際より、共に過ごした期間を長く錯覚させていることが大きいのでしょう。実際には全ゲーム通してプレイ時間の1/12〜1/6程度しか会えないのですが、過去の思い出が、「過去に共に過ごしたことがある」という記憶をプレイヤーの中に作り出し、思い出の共有期間を大幅に+補正してくれるのです。これが幼なじみの強みです。 ゲームとしてみても、スケジュール管理次第で多数のヒロインを同時攻略出来る、極めて戦略的なシステムとなっています。それに進行上必要な金・時間・体力・運の4要素は、実に説得力があります。 それに、何人同時攻略出来るかチャレンジすることで繰り返し楽しめます。……これは私だけかもしれませんが。 どうしても絵の問題だけは解決することは出来ませんが、それを除けばセンチは名作です。昔仲が良かった娘に再会する……なんて誰もが夢見るドラマチックな展開ですし、それが12人いれば無茶苦茶ですが単純に嬉しさ12倍ではありませんか。しかも彼女達にとって皆、主人公はかつてのヒーローで、最初から好感度が高いなんて、これ以上の設定はありません。まさに男の夢、男の野望、男の到達点であります。この時点で到達点だから、次作で主人公は死んでしまうんですね、納得 。 そんなわけで、ギャルゲーの教科書に大文字で名前が載る「センチメンタルグラフティ」。不朽の名作なので是非プレイしましょう。 |