Steins;Gate
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infinityクラスの科学アドベンチャー
Steins:Gateは5pbがニトロプラスとタッグを組んで開発したゲームです。初回限定版には、本編中にも登場する嘘発見器「もしかしてオラオラですかーっ!?」が付属します。5pbは旧KIDスタッフが立ち上げたデベロッパーで、近年はXbox360版怒首領蜂大往生の移植でソースコードの盗用を行ったことで問題となりましたが、まだまだ元気なようですね。同社及び同社製品の科学アドベンチャー「CHAOS;HEAD」は気になっているのですが、どうもサイコな雰囲気が原画家のささきむつみ氏に合わない気がしたので買い控えしておりました。しかし今回は完全に原画家が違っている上、CHAOS;HEADから引き続き「科学アドベンチャー」と銘打ってあったため、迷わず購入。元々infinityシリーズを始め薀蓄が登場するゲームは好きなので期待はしていましたが、まさかこれほどの出来とは……。 フォーントリガーシステムで世界線を飛び交え! ■シナリオ 陰謀に巻き込まれたヒロインを救うため、タイムリープマシンを使って過去を改変させていくループ物。現代の日本を舞台にゲーム独自の「世界線理論」に沿って、現在の事象を変化させるべく繰り返し過去へと戻ります。科学アドベンチャーと題しているだけあって、量子論を始めとする時空間に関わる実際の理論がシナリオに絡められているのが魅力となっています。 過去改変の基本的な流れは、現在から過去へとタイムリープし、以前とは別の行動を行うことで過去がどのように変わるか確かめ、上手くいかなければ再びタイムリープする……という確認作業になっています。ただしタイムリープのタイミングはシナリオによって制御されているため、任意のタイミングで過去へと戻るわけではありません。主人公はある程度前回経験した過去と異なる行動をとり、大なり小なり事象は変化していきますので、ループ物にありがちな同じ事象が何度も続くということは最小限にとどめられています。 ヒロイン救出が最終目的ですが、ヒロインといちゃいちゃするような展開はほぼ0です。未プレイの方は、敵対する組織に追跡されたり、予期せぬ出来事が起こったりと、緊迫感溢れるサスペンス要素の強いシナリオと考えた方が良いでしょう。 ■キャラクター キャラデザのhuke氏についてはよく知らないのですが、かなり独特の絵です。線画をやや粗めに残し、色を肌・髪の毛・服装などの明度を抑え目に指定。背景に溶け込んでしまいそうな地味な印象を与えつつ、目だけパステル調の明らかに異なる色を差すことで、キャラの存在感を浮き立たせています。いわゆる萌え絵とはまた別のタイプだと私は認識していまして、媚びのない素直な可愛さが感じられます。 各キャラ個性派揃いでそれぞれ重要な役割を担っていますが、サブヒロインの性格と役割がリンクしているのに対し、メインヒロインの性格はキャラ付けとしてしか機能していないのが気になります。例えば、萌郁はメンヘルでなければ某構成員となることはなかったでしょうが、紅莉栖はツンデレではなくてもラボメンで活躍出来たはずです。原因はこれは各キャラクターの掘り下げが甘かったからです。もう少しプロフィールを明かしてたりエピソードを織り交ぜてシナリオへ絡めないと、シナリオへの必要条件は満たせませんし、魅力も薄まってしまいます。その点を上手くカバーしているのが過去や人格を有耶無耶にしてしまっているフェイリスエンドですが、紅莉栖に関してはもっとどんなキャラか知りたかったですね。 ■テキスト 全体的な特徴としては2ch用語が多用されていることが挙げられます。2chと親和性の高い人ならば面白いでしょうが、そうでない人にとってはつまらないか不快感を覚える可能性があります。これを含め、ゲーム中はかなり専門用語が飛び交います。これらに対する解説もセリフや独白の形で本編中逐次行われますが、フォローし切れない部分はTIPSで対処されます。このTIPSという手法は集中力を削ぐので好きではありませんが、科学系ゲームでは止むを得ないのかもしれませんね。 個々に絞って見ると、主人公に妄想壁があり、序盤は常に意味不明なセリフがテキストボックスに垂れ流されることが挙げられましょう。ただしこれは仮の姿で、後半は人が変わったようにシリアスなテキストが並ぶので、場面変化を感じさせるメリハリがあります。また、想定科学ADGと銘打ちつつも、理論が先行する難解な内容になっていない点は褒められます。プレイヤーの大半は科学に対して素人ですから、理解出来る範囲のライト科学に内容を抑えるくらいが丁度良いのです。 ■演出 全体的に文句なし。まずオープニングムービーは、有り勝ちなイベントCGを羅列して終了というようなことはなく、時計や歯車といったグルグルと回るアイテムをCGに組み込み、その上にテキストを散りばめる、非常に動きがあって見応えのある内容になっています。 基本的なところでは口パクを実装済み。顔から鼻血が出たり、沈んだ空気の時には、キャラが下へ沈んでいったりと、立ち絵にも動きを持たせています。背景の街頭テレビなどもよく見るとアニメーションしていて手が込んでいます。雨や煙といったよく見かける画面エフェクトもありますし、銃撃音など効果音に関しても充実しています。本編中のタイムリープシーンなどは、デジタル時計型ガジェットと効果音を上手く組み合わせることで、単純ながらも時間を越えているという実感性のあるものになっています。科学ADGということで小難しい理論の解説なども頻繁に飛び出すのですが、これをテキストだけで行わず、要所要所でテキストや絵が現れるパワーポイントのような図解が用意されている点にも丁寧さが感じられます。また、イベントCGの魅せ方が秀逸で、絶妙なトリミングやドアップをしてみたり、背景だけ固定させて人物を交差させてみたりと場の空気が感じられるものになっています。個人的に好きなのは「手紙」のシーンです。 ■シチュエーション 共通ルートでの主人公は完全にイカレた大学生でしかなく、恋愛ゲーム風の甘ったるい雰囲気はまったく感じられません。本番は個別ルートに入ってからで、主人公は極限状態の中でようやく大切なものに気付きます。それはヒロインを失ってしまった後であったり、多大な精神的ダメージを負ってしまった時であったり……と様々な状況下でのことなのですが、ひとつ興味深いのは、メインの2名には自発的に恋に目覚めるのに対して、他のヒロインの場合は相手のアプローチがあるまで何も気付かないということでしょうか。また目覚めた瞬間、イカレモードから真面目モードに切り替わっていくのが面白いですね。 ■ゲーム性 「フォーントリガーシステム」を採用。これは携帯電話やメールの着信時、電話に出るか、メールに返信するかの選択件がプレイヤーに与えられるものです。応答内容がヒロインの好感度に関わっていてエンディングを左右するので、普通のADGの選択肢が電話やメールに変わっただけと解釈して構わないでしょう。メールの返信によって、携帯電話の壁紙や着信メロディーが手に入ったり、XBOX360の「実績」に関わるものもあります。実績を1000集めるのは結構難しいと思います。ゲームは章構成になっており、1〜5章までが共通ルートで6章以降の選択によって個別ルートへ入ります。トゥルーエンドは11章に用意されていますが、私はここに辿り着くまで苦労しました。私を基準にする必要はありませんが、難易度はまずまず高いゲームだと思います。 ■グラフィック 背景は20枚前後。舞台である秋葉原の現実風景をかなり忠実にトレースした、写真と見まがうかのような出来になっています。秋葉原を知っている人には馴染みのある風景ばかりではないでしょうか。モブも描きこまれていますし、こちらに関しては言うことなし。 立ち絵は各キャラ5パターン以内で、服装が変わるキャラがいます。各キャラの服の絵ですが、何らかのテクスチャを被せているようで、ラメっぽい模様があちこちに入っています。正統派とは言えませんが、こういうのもアリですね。表情は立ち絵毎に5パターン前後あります。表情パターンが多いので動きがあるとはいえ、まゆりの「星屑との握手」に関しては立ち絵を用意してほしかったところ。ここだけが残念でした。 イベントCGのタッチは立ち絵と同じ。不安を煽るためか斜めの角度に切り取った構図が多い印象です。差分なしで67枚。枚数的には多くはありませんがクオリティーは低くないかなと。
テーマは本編中に登場した「これまでの自分を否定したくないの。例え失敗ばかりだったとしても、それを含めて今の自分があるんだから」というセリフに凝縮されています。このテーマはどのように導かれるのでしょうか。 本作では世界線収束論という理論が登場します。ここでは世界は世界線と呼ばれる複数の結果が定まった世界に分かれています。各世界線はアトラクタフィールドという運命のようなものに捉われており、世界線を変えるキーとなる行動をとらない限り、特定の結果に収束されていきます。異なる結果を得たければ、キーとなる行動をとり異なる世界線へ行かなければならないのです。この結果を収束させるアトラクタフィールドのない世界がタイトルにもなっている「シュタインズゲート」であり、ここに到達することが最終目標となります。この世界は未来が決定されておらず(結果を予測し得ない)無限の可能性があるため、ヒロインを救出できるかもしれないからです。そして実はこれ、私達の住む現実世界と同じだったりします。 ここで考えたいのが主人公について。主人公岡部倫太郎は妄想癖が強く、現実逃避する大人になり切れない存在として描かれています。彼はヒロインを救出するためにタイムリープマシンを駆使するのですが、その過程で真剣で真っ当な人間に成長していきます。そして最後に到達したシュタインズゲートでは、タイムマシンを否定し、リセット出来ないけれど無限の可能性に溢れた現実世界を自ら肯定し現実を受け入れることで、大人になっていくのです。 ここで「やり直しが効かないからこそ、これまでの自分を否定せずに前向きに生きていこう」というテーマが生きてくるのです。それに気付いた褒美として用意されているのが感動のラストシーンです。結末は是非プレイして確かめてほしいと思います。 2ch用語に強い拒絶感がなければ、十分にお勧めできるゲームです。2000年代を締め括るに相応しい面白い内容なので、ハードを持っている方は是非プレイしてみて下さい。 |