水月
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いやあ! やはり☆画野朗兄貴の絵は格別ですな! というか私もマヨイガに連れてってくれ! ということで、今回の御題は名作水月です。おすすめ度は8としていますが、個人的には10以上。如何せんシナリオのクセが強いためなのですが、その辺りは後述します。 F&Cと言えば萌えキャラを全面に押し出したまさに萌えゲー主体のメーカーです。一 にも二にも萌え勝負。これが私のF&Cに対するイメージであったし、またその柔らか く軽めなシナリオの中での甘い恋愛ストーリーが同時にF&Cの魅力でもあると思って います。 が、しかし。本作「水月」はそれらF&Cのイメージを大きく覆す一本となりました。F &Cには珍しくボイスが無く、おまけにビジュアルノベル形式。この形をとって しまったからにはいつもの軽く甘い恋愛ストーリーの展開ではユーザーを満足させるこ とは出来ません。奇しくも原画には萌え絵においては絶大な人気を誇る☆画野朗氏。萌え キャラにはやはりボイスが欲しいところであるにも関わらずのこの選択。水月はいきな り重大なリスクを背負ってのスタートとなりました。ボイス無しでもキャラを活かせるだけ のストーリーが必須となってしまったのです。そしてビジュアルノベルということが、折 角のキャラを殺してしまう可能性も考えられます。キャラとシナリオ、両方活かせなければ本作 は必ずしも成功とは言えないでしょう。 果たしてこの一見ちぐはぐな組み合わせで水月はF&Cに輝きをもたらすことが出来 るのでしょうか? まさにマヨイガ。プレイヤーを惹き付ける世界観 さて、そんな水月ですが世界観が非常に独特です。現実的な(あくまでギャルゲーとして の現実です。幼馴染みや義妹が当たり前の)日常の中で、恋愛を模索していくF&Cに はこれまた珍しいですな。これはストーリーに力を入れようとする意気込みの証と見て良いでしょう。 事故で記憶喪失となった主人公が夢と現実との世界を行き来していくというもので、 自分の記憶がはっきりしないがために今どちらの世界が本当なのか分からなくなってい く、という件です。水月のストーリーは実に哲学的な要素をはらんでいて、「自己の存在」 という観点を強調して描かれています。記憶の無い自分に接する友人たち。彼らが接する 「自分」は記憶のある頃の「自分」では無いのか。葛藤する主人公に語りかける彼専属 というメイド、盲目の少女、そして毎晩続く不思議な夢……。彼女たちの醸し出す非現 実性と友人たちという存在の現実性の対称性が実に上手く、世界観をより一層濃いもの とし、プレイヤーを焚きつけます。キャラクターの設定がストーリーに溶け込んだ瞬間で すね。そして、この妖艶なストーリーに萌えイラストがピッタリと当てはまるのだから 不思議。ローテンポな音楽が萌えキャラとマッチしている点が一つのポイントではないでしょうか。また 、テキストにも注目したいところです。他のキャラといる時は比較的穏やかな萌え重視のテキスト であるのに対し、主人公が一人である時には緊迫感溢れるテキストを展開するという使 い分けの巧妙さ。これが萌えと幻想的且つ魅力的な世界観の根源の提供に成功し、プレ イヤーを水月というマヨイガに誘うのです。 蛇足ですが、Hシーンはほとんどのキャラが聖水実装。ロリキャラが多いのも特徴(ぉ それと、雪さん属性の方は多いですが(私もそうだけど)、那波も凄くいいですぞ(^^)
ここまで水月の成功点を挙げてきたのですが、問題点が無いわけではありません。 それは幻想的な ストーリーを繰り広げ、謎を沢山残してそのまま終わってしまうところです。そして抽象 的な世界観とやや分かりにくい展開のために、「夢オチか?」というあまりにも悲惨な 誤解をされてしまうことですね(一概に誤解とは言えないのかも知れないが)。 ですが、謎を解く鍵はストーリーに必ず残されています。プレイヤーの考えたものがライ ターの考えたものと符合しているかどうかは分かりません。しかしそれは「一つの可能性」なのです 。プレイヤーが正しいとすればそれは正しいのです。 水月はすべてを許容する世界。 沢山の可能性を人間は持っています。その中から何を掴み取るかはまさに「今」に生き る我々自身。人生の主役は僕、私、俺「自身」なのですよね。 夢や希望が薄れて現実的思考が先駆する現代社会において、一石の波紋を投じる涙石。 ポジティブな表現が心地よく、F&Cらしさがここにあります。らしさはそのままに残し、 本作は新たな輝きをF&Cにもたらしたのです。 水月はあらゆる可能性を肯定し、ここに幕を閉じました。そしてそれは、同時に新しい物 語の幕開けと言えるのではないでしょうか。 |