車輪の国 向日葵の少女
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気になるアイツ 怪しげなブランド名とは裏腹に評判が良いようなので、ずっとプレイしたいと思っていたのですが、今まで不思議と店頭で姿を見かけることがなく先送りしていたゲームです。 どの辺りが面白そうと感じていたかといえば、雑誌や公式ページで紹介されているゲームの舞台となる架空の世界です。パターンが出尽くした感のある美少女ゲームの中で、唯一オリジナリティーを発揮出来る項目が「世界観」です。突拍子なファンタジーなら、つくるのに苦労はありません。しかし、現実世界と然程変わらない文明社会の中で「ありそうでない」世界をつくるのは、プレイヤーに先入観があるため、受け入れさせるのに中々頭を使うものです。そんな我々と近いけれど異なる舞台設定を、歴史ごとつくってしまったというのですから、どんな世界なのか気になるのは必然と言うものでしょう。それにパッケージにあるヒロインの意味深なセリフが、ストーリーに重厚なイメージを付与しており、嫌でも期待が高まったという次第です。 私が購入したのは通常版ですが、初回限定版には小冊子と音楽CD(音車祭)が付属しています。また、2007年にはファンディスクとして「車輪の国、悠久の少年少女」が発売されています。 丹念に作られた世界観とトリック ■シナリオ オリジナル世界「車輪の国」の中で、その国の構造に疑問符を投げかけていく人間ドラマ。ただし、その問題を現実世界の問題と重ねているわけではなく、また現実世界を直接批判しているわけではないため「刑罰」という題材を扱っている割には自己完結しているゲームという印象があります。罪人であるヒロインを更生する中で恋に落ちていく……というパターンなのですが、ヒロインは単なる問題の象徴に過ぎず根源として扱われていないため、恋愛要素の比率は低いゲームです。子どもを作れないのはなぜだろうか、という問題を考えたとき「収入が少ないからだ。じゃあもっと働こう」ではなく「福祉政策が悪い。国に働きかけよう」という方向に進めるシナリオなので、どうしても話が大きくなってしまい、ヒロインの影が薄くなってしまうんですよね。ですから、純粋に恋愛を楽しみたいという方には向かないかもしれません。一方、世界観はガッチリ作り込まれており、設定が十分に活用されているので、完成度は高い一本です。 ■キャラクター 絵はクセが少なく万人向けです。性格が顔によく出ている絵で、見た目でどんなヒロインなのか想像出来るようになっています。各人の性格はシナリオで語られる与えられた刑罰と深く関係しています。ヒロインを更生させることがシナリオの目的のひとつとなっているので、当然彼女らの人格形成にまで踏み入ることになりますし、これらについて筋道立ててつくられています。これは強制的に行われるものであり、非人道的行為にも見えるため、そこで得られた愛がどうしても偽りのものに見えてしまうという人もいるでしょう。本来、人間の性格や情報は本人から開示されるべきですが、これを権力によって掌握してしまう辺りが通常の恋愛ゲームと異なる点です。他キャラクターと対等な立場でいられないため、常に誰かをコントロールしている感覚がするゲームであります。 ■テキスト 親しげにプレイヤーに話しかけながら、ストーリーを進めていきます。それは推理小説やSFものでよくあるパターンなのですが、実はその何気ない一言ひとことにクライマックスの見せ場が仕掛けられているのです。この叙述トリックのにまんまと騙されてしまった私としては、テキストを褒めなければならないでしょう。トリックを除いても、無駄な文が少ないため、テンポ良くまとまっているものと評価出来ます。 ■演出 ムービーは神月社氏。向日葵を模したテクスチャーと線画を上手く合わせてノスタルジックな雰囲気を出しつつ、イベントCGでヒロイン紹介をしていく内容です。ムービーを見て本編の内容を推し量ることは難しいですが、音楽とCGを嫌味のない程度に上手くフィックスさせ、安定感のある仕上がりとなっています。 画面効果や目立った効果音はありませんでした。また、さち編のエンディングで何故スタッフロールを流す必要があったのか今一意味が分かりません。どうせ流すなら章毎に用意しても良かったはず。 ■ゲーム性 かなり退屈です。分岐後も共通ルートが長く、ヒロイン固有の内容がHシーンとエピローグ程度しかありません。エピローグもシナリオに影響を与えるものではないので、逆に一本道にした方が面白かったことでしょう。 ■Hシーン ヒロインによって回数が異なり、すべて和姦です。ハーレムエンドがありながらハーレムものが用意されていないのが少し残念です。基本的にF&Cの純愛もの程度のレベルと考えてもらって良いでしょう。また、サブヒロインのまなや京子が参加することはありません。必要性も低く、おまけ程度の内容です。 ■グラフィック 背景は舞台となる街や学校のものが20近く用意されています。量は多いのですが、出来は良くありません。ディテールへのこだわりがなく、奥行きがあまり感じられません。そんな中で向日葵畑だけはしっかり描かれています。タイトルにもなってますしね。イベントCGは、やはり背景がしょぼいのですが、人物は表情豊かに描かれているものが多いです。ただ、出来にはバラつきがあり、光加減をうまく使ったものがあったと思うとパースがとれていないものもあったりして安定していません。 立ち絵は各ヒロイン3〜4パターン程度ですが、表情は10パターン前後用意されているので、ヒロインの感情は良く伝わります。
シナリオ項目で述べた通り、本作は刑罰という題材を扱ってはいますが、それを現実世界と結合して問題視しているわけではありません。実は本当に問題視されているのは、後半に出てくるような、ゲームでは刑罰に代表される社会問題を、他人事のように観察する人々の態度なのです。 本作ではプレイヤーがこうした問題に対して如何に真剣に向き合おうとするかを、プレイヤーを主人公に感情移入させないように仕向けて試します。果たして、我々は是正すべき欠陥に対して、何も感じることなく傍観するだけなのでしょうか、それとも……? 語りかけられる「無関心主義へのアンチテーゼ」に対する答えは、トリックの種が明かされた時、判明することでしょう。 結論に移りましょう。ゲーム性と演出力に足を引っ張られて総合得点は低くなっていますが、これら味付けの部分を除けば、期待通り、重厚な世界観を現実に近い状況の中で嫌味なく作り上げた意欲作と評価できます。ゲームとしてはつまらないですが、一本の物語としては確かな歯応えがあります。世界観を見て何か感じた方に、是非オススメしたい一本です。 |