誰彼 -たそがれ-
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「Leafの出したゲーム? 雫、痕、To Heart、WHITE ALBUM、こみパ、まじアン、うたわれ、Routes……え? うたわれるものの前に一つ抜かして無いかって? 何言ってるんだよ。まじかる☆アンティークの次はうたわれるものだろ。その前にLeafがゲームを作ってるわけ無いだろ。ほら、勘違いだって勘違い」 誰彼……人はこれをLeafの黒歴史と呼ぶ。存在すら無かったことにしてしまうのである。 と言うことで誰彼です。このゲームはもうあちこちで完膚なきまで叩きのめされてすっかり嫌われているんですが、私は誰彼好きですよ。To Heartが大ヒットを飛ばしてから、Leafは方向転換を決め込みました。より現実路線に、あるいは萌え路線に。しかしながら。Leafの魅力は萌えにはないと私は思うんですね。雫、痕の頃のどことなく不気味な独特の雰囲気こそLeafの持ち味なんです。だからまじアンが出た時は「もうLeafは終わった」と思いました。しかし、Leafは決して死んではいなかった。To Heart以降すっかりユーザーに媚びてしまっていたLeafが、またあの頃の不思議な空気を纏って帰ってきたのです。日常の中の非日常を描くどこか不安を誘いつつも続きが気になって仕方がなかった雫時代のLeaf……。誰彼にはそんな雰囲気があると私は思うのです。そんな誰彼が世間に受けない理由とは何なのか。この辺りも含めて批評していきましょう。 逆効果と言う教訓 ディスクをセットするとLeafのロゴが出て、タイトル画面に移行するのですが、タイトルに移るまでにちょっとしたムービーが流れます。これが大変格好良い。海に沈む夕日をバックにキャラの顔をパッパッと瞬間的にアップ。これだけ書くと簡単なんですが、とにかく格好良い。プレイヤーに「うぉお……これからどんな物語が始まるんだ……」と思わせてくれるパワーを秘めております。ゲームを開始すると、いきなりチップ キャラを駆使したアクティブドラマタイズノベル(システム項参照)が始まります。さらに、脚本や原画などのスタッフが合間に挿入されてさながら映画をイメージさせる演出。凄い。しかし、私はここで僅かな「違和感」を感じました。この時点ではまだ明らかではなかったのですが……。プロローグが終わるとアニメによるムービーが流れます。これまた凄い。エロゲーのアニメには個人的にはあまり良い印象を持っていないのですが、大変丁寧な仕事をしています。キャラデザもしっかりしているんだな、さすがはLeafと感じさせてくれる出来に一先ず満足。エロゲーには珍しい男性ボーカルを使っているのにも驚きます。 キャラクター。カワタ氏と言うことで個性的でクセのある絵です。好き嫌いが出るでしょう。塗りも独特で写実的。こちらも好き嫌いは出そうですが、ゲームの雰囲気には合っていると思います。対して、ヒロインの性格は個性の無さが目立ちます。ヒロイン以外のキャラクターが濃いと言うことも影響しているのですが、主要ヒロイン三人は本当に目立った特徴が無く、どこにでも登場しそうな、いてもいなくても大した影響が無さそうな地味目の人物ばかりだったのが気になります。それと、この絵とこの塗りではまったく萌えない。私は萌えを期待して買ったわけでは無いので問題ありませんでしたが、萌え期待で買うと痛い目を見るでしょう。 Hシーン。エロいんですが、写実的な絵にどこまでついていけるかがポイントとなりそう。カワタ氏の絵が苦手な方は期待しない方が良いでしょう。と言うのも、Hシーンのテキストが良くないからです。主人公が常に「フーッ! フーッ!」と動物的な唸り声をあげており失笑を誘います。椎原ズンパンと言い、Leafにはまともなエロテキストを書ける人がいないのでしょうか(汗) テキスト。あちこちで言われている通り、竹林氏の文には、感感俺俺(ゲーム中に出てくる「高子、よく、聞け。お前のいま感じている感情は精神的疾患の一種だ。しずめる方法は俺が知っている。俺に任せろ。」と言う有名なセリフの略)に代表される日本語としておかしな文が見受けられます。しかしながら、そこに目を瞑れば概ね読みやすい文章が多かった様に思います。セリフは躍動感がありましたし、テンポも良かった。ただ、先にも言いましたがHシーンのテキストは何とかして欲しいですが。 ストーリー。これはゲーム性とも関係するのですが、誰彼は痕と同じで、初めは攻略出来るシナリオの数が限られています。ヒロインを一人ずつ攻略していくことでシナリオのロックが解除されて分岐が増え、謎が徐々に解明されていきます。ただし、その謎は一部解明されずに終わってしまいますので、ここが不満な方も多いことでしょう。私は多少謎が残って終わるのは嫌いでは無いのでこんなものかな、と納得しました。また、全体的にやや短めでコンプリートに要する時間は7〜8時間程度。時間の無い方にはお勧めですが、もう少しテキスト量を多くして残された謎やあまりにも唐突な展開に対する説明を加えた方が良かった気がします。 最後に演出について。これが誰彼の一番の問題でしょう。このゲーム、演出を売りにするだけあって確かに臨場感溢れるものはあります。しかし、それはアクティブドラマタイズノベルによるものでは無いんですよね。従来の効果音や画像エフェクト、そしてOPアニメーションによるものなんです。はっきり言いましょう。チップアニメは蛇足です。無かった方が余程臨場感溢れる演出が為されたはず。それは何故か。誰彼は、概してシリアスな路線でストーリーが描かれます。対してチップアニメはどうか。とてもシリアスなものには見えないどころかコミカルですらあります。これが最初に感じた違和感の正体だったんですな。確かに、文章が“静”であるならばチップキャラによるアニメーションは“動”と言えるかもしれません。しかし、アドベンチャーゲームの文章はシミュレーションゲームの説明文などとは違って“静”では無く“動”なんです。順調に流れている川に石油でも入れて御覧なさい。たちまち油が浮き出して水が黒く濁ってしまうことでしょう。要するに、チップアニメはシリアスな文章と相性が悪いんです。それならば、無理に“動”を加えようとせずに普通に戦闘シーンや移動シーンも文章で説明すれば良いではありませんか。演出も使い様ということです。……ライターにそれだけの力が無ければどうしようもないわけですが。
「たそがれ」。暗くなって顔の区別が付かないので「お前は誰か」と尋ねることを意味します。何故この言葉が使われているのかはゲームの後半で分かってくるのですが、それと同時に、この言葉は主人公である坂上蝉丸に対しても使われているのです。他人から見て。そして自身から見て。人は、他人から認識してもらうことで初めて「自分」と言うものを形成することが出来ます。観念論的でありますが、人から認識されなければ、自己の存在を確証出来ないのです。本作は、「自分」と言う存在を求め続ける独りの男の物語。半永久的な生命は、同時に半永久的な孤独を連想させます。人の存在は過去から現在、そして未来へと流れていきます。しかし、彼の過去を知る者は彼の生きている内に確実に死んでいきます。それは、彼を認識してくれる者がいなくなることを意味するのです。しかし、この世に生を受けたからには何かしら生きた証を、この世に生きた“存在”を残さねばなりません。それが出来て初めて安心して眠りにつくことが出来るのです。それは彼に限ったことではありません。我々にも言えることなのです。何も大事を為す必要はありません。ただ、自分の存在をしっかりと認識してくれる人をつくれば良いのです。 人は自分の“存在”を打ち立てて初めて「生きた」と言えるのではないでしょうか。それが本作のテーマであると私は感じました。 |