運命のヒト 〜 one’s fiance 〜(前編)


 運命のヒト 〜 one’s fiance 〜(前編)




高校の卒業式。
私は運命の人に出会った。
ううん、出会ったのは高校に入って2ヶ月後だった。
私は卒業するまで、あの人の事を理解していなかっただけ。

『そう、この出会いは宿命なの。これからアタシ達は、互いに求め合い刺激し合い・・・登り詰め・・・。
 そして2人で世界の流行を牛耳るファッションリーダーになるのよぅ・・・・!!
 アタシ達の伝説が始まるわ・・・・。さあ、行きましょう。』

私は高校時代同級生達がやっきになっていた「恋愛」には目もくれず、部活とバイトに専念した。
勉強は・・・初詣で神頼みしかしなかったから、3年の進路指導の時にはどこにも就職先が無いとまで言われたっけ。

でも、私はここにいる。

「先生。今度の仮縫いの件ですけど・・・。」
チーフに声を掛けられ、過去へ戻っていた意識を現在へと戻す。
「ごめんなさい。まだ何点か、手直しをしたいのが有るの。」
「・・・そうですか。では確定した物だけ、作業に入りますか?」
チーフの表情が曇る。無理も無い。
今度のショウの作品は、もうデザイン画が出来ていなければならない時期だ。
「・・・もう一日、待って。」
確実に変更を加えたいのは、一点だけだった。
でも・・・ショウは生き物だ。
一つ変更を加えて他のものに埋め込めば、その作品だけが浮いてしまい、ショウ全体が死んでしまう恐れがある。
「解りました。・・・あまり、無理をなさらないで下さいね。」
チーフの言葉に曖昧な返事をすると、私はデザインルームへと入った。

どうしても、書き上げたデッサンに納得いかない。
高校の時の事を思い出したのは、そのせいだ。
「・・・ウエディングドレス、かぁ。」
鉛筆をくるくる指先で回しながら、溜息混じりに呟いた。
高校の時の文化祭。最後の思い出にと、ウエディングドレスを作った。
あの頃の私は、恋愛に興味が無かった割に、結婚には漠然としては居たけれど憧れがあった。
だから、あの時は難なく作れたのだと思う。

今は・・・結婚という言葉が煩わしい。
結婚適齢期なんて言葉を最初に使った人間に、軽く憎しみを抱いてしまう。
母が、結婚しろと煩いのだ。

―仕事が充実している今だからこそ、将来について考えるべきよ。

独りで居る事に、不自由を感じた事がない。
だから顔を見る度に母が言う言葉の意味が、未だに理解出来ていない。
適齢期という概念が古臭い因習としか捉えられないし、結婚が私の自由を奪う檻のように思えてならない。
そこに幸せを見つけられないうちは、私はウエディングドレスを作る事が出来ないのかもしれない。
スケッチにペンを走らせてはみるものの、途中でピタッと止まってしまい、書きかけのデッサンをぐしゃぐしゃと塗りつぶしてしまう。
「・・・結婚、ね。」
母曰く、結婚は女の幸せ。
自分の花嫁姿すら思い浮かべられない私は、情緒障害のように思えてきた。
無理矢理自分の結婚を、頭の中に描いてみる。
「結婚するなら・・・。」
今まで付き合った男の人の顔も浮かんだけれど、どれも頼りない。
私が頼れる男性・・・ね。
ふと浮かんだのが、師とも言える花椿吾郎だった。
『だーれがアナタみたいなお子チャマと結婚するのヨ。』
言われるだろう台詞を想像して、私は思わず声を上げて笑う。
もし彼とそうなるなら・・・、ウエディングドレスをどっちが着るかともめそうだ。
想像して、また笑いが込み上げてくる。
「暫くせんせいに怒られてないなぁ。」
新ブランドを立ち上げてから、私はこちらの業務を任された。
忙しさの余り、暫くせんせいに会っていない。
ふと、入ったばかりの頃の事が鮮明に思い出される。
ウスラトンカチだの、ズンダラベッチャラだの、挙句の果てには才能無いだの、
こってり搾られたっけ。
「・・・懐かしい、な。」
口を突いた弱音。
吐き出すと急に淋しくなってしまい、給茶機へコーヒーを淹れに行く。
誰も居ない事務所に一人で残ることなんて珍しくも無いのに、ここに居る自分が何故か悲しい。

ここを任せられてから、初めて感じる挫折。
誰にも甘える事が出来ないのを、強く実感した。
焦っては、いいものが出来るわけない。
でも・・・明日までに・・・。

押し寄せてくる重圧感に耐え切れず、私はハンドバックを手に取ると、薄暗い事務所から飛び出した。




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