虜 〜氷の男〜


 虜

2.

私の言葉によほど傷ついたのか、必死で逃れようと抗い続けた少女は、目の前で呆然と立ち尽くしている。
私はこの女生徒を、好ましくは思っていない。
むしろ嫌悪感すら覚える事がある。
常に潤みを帯びた瞳。過度なまでの上目遣い。
無自覚であの様な視線を異性に送っているのならば、なおのこと性質が悪い。
甘ったれたような声色は、聞けば聞くほど苛立ちがつのった。
黒く膿んだ感情が、胸の奥に急速に広がる感触を覚える。
「・・・先生は。」
焦点の定まらない目で宙を眺めたまま、先刻の口づけでグロスの剥げ落ちた唇が微かに動く。
「私を・・・私の気持ちを受け入れてくれたんじゃないんですね?」
「何を差して受け入れた事になるのかは解りかねるが・・・。」
まだ光を取り戻さない瞳を一瞥すると、彼女の唇が微かに震えているのが視界に入った。
それでも私は、更に鋭い言葉を吐く。
「単に執拗な君の誘いを、条件付きで受けただけだ。それ以外は何も無い。」
私の嫌悪の対象物は、大きく目を見開く。
僅かに唾を呑む音が聞こえた。
絶望に打ちひしがれるその姿を眺めるのは、痛快であった。
この少女が、次に何を言うのだろう。
泣き叫び、ここを去ろうとするのだろうか?
彼女へ対する拘束を解くと、私はリビングへ移り、ソファへ腰を下ろした。


「ご褒美・・・下さい。」
彼女は私の目の前に立ちはだかると、長い間の沈黙を破る一声を発する。
少々意外な答えではあったが、予測の範疇ではあった。
「言っておくが・・・。」
彼女の肩が僅かに上がる。
この少女は、私の言葉に怯えていた。
次はどんな台詞で傷つけられるのだろうと、恐れている。
胸の奥に湧き上がる妙な高揚感を表に出す事無く、私は彼女を見つめ、冷ややかに言葉の続きを吐く。
「私は君を好きではない、愛してもいない。逆に君を見ていると、嫌悪感すら覚える。」
いつもより数段扇情的な瞳が、私を映す。
彼女は黙って頷くと背中に手を回し、大きく胸の開いたドレスを脱ぎ捨てた。
「シャワーを浴びてきます。」
抱かれる用意をしようとする彼女の腕を掴む。
「不要だ。」
「でも・・・。」
顔を赤らめ恥じらう彼女を引き寄せると、無理矢理ソファへ座らせた。
そして彼女の脚を押し開くと、彼女の手を取り秘所へあてがう。
「・・・な・・・。」
「抱かれるとでも思ったのか?“ご褒美”と聞いて。」
彼女の顔色が消えてゆく。
「たかが一度の満点で、思うままのものが得られるとでも?」
問い掛けに答えはない。それは肯定を意味していた。
彼女の指をあてがった部位に目をやると、下着が微かに湿っていた。
「・・・欲情していたようだな。」
更にそれを煽るように、彼女の指先でそこを擦る。
「・・・ん・・・。」
刺激を待ち望んでいたのか、軽く触れただけで彼女の息は容易にあがった。
「自己処理をしたまえ。」
怯えた目をして、彼女は上目遣いで私を見つめた。
それが誘う眼差しだと言っているというのに、だ。
学習能力が無いのか、それともわざとそうしているのか。
理解出来ない分、不快感に拍車がかかる。
「・・・解りました。」
私の苛立ちを悟ったのか、何の抑揚もない声で返事を返してきた。
掴んでいた手を離すと、彼女は自ら下着の奥に手を潜らせた。

「・・んっ・・・あぁっ・・・。」
行為がエスカレートしだすと、彼女は下着を自ら脱ぎ、花芯を執拗に弄る。
秘裂をひくひくと震わせ、淫猥な液体を止めどなく溢れさせていた。
彼女の空いた手を掴みあてがうと、そのまま彼女はするりと指を潜りこませる。
「・・・く・・・んんっ・・・。」
頬を朱に染め、快感に浸された目で彼女は私を見つめている。
何の感情も見せずにただ眺めているだけの私という存在は、彼女の興奮を更に煽っているようだった。
「・・・いやらしい、な。」
蔑まれる事にすら、快感を感じている。
この少女の欲の深さに、私は改めて嫌気がした。
指の動きが忙しなくなり、水音が激しくなる。
膨らみきった花芯を繰る指が、激しく蠢き出した。
「・・・あっ・・・あああ・・・はぁ・・・。」
派手な声をあげると、彼女の身体が大きく震えた。
「・・・せんせ・・・イク・・・いっちゃ・・・。」
一瞬身体の震えが止まり瞳孔を開くと、彼女はぐったりと四肢を投げ出した。

「自分がいかに淫らな人間か、理解出来たか?」
肩で息をしながらも満たされた表情の少女は、黙って首を縦に振った。
「寝るのならベッドへ移りたまえ。」
ソファで裸のままうとうとしかけている彼女にそう言い捨てると、私はテーブルにこの部屋のキィを置く。
彼女は小声で返事をし、気だるそうに身体を起こす。
「第3学期の期末考査の結果にも期待している。」
無様に丸まった背に、偽りの台詞を投げつけた。
「・・・はい、頑張ります。私・・・。」
力を失っていた瞳に、一瞬光が宿る。
「先生の事、愛してますから。」
彼女の台詞に、私は呆れて言葉が出ない。
「・・・おやすみなさい。」
緩慢な動作で寝室に向かう後姿を見送る事無く、私は部屋を出た。


果てる寸前まで、彼女は私から目を逸らさずにいた。
そして屈辱的であったろうにも関わらず、彼女は私への好意が変わらないと口にした。
彼女に対して、更に冷たい感情が沸き起こる。
彼女が私に抱いているのは、恋愛感情ではない。ただの欲望だ。
あれだけ痴態を晒しておきながら、懲りもせず愛情を口にする。
募りすぎた悪意は、嫌悪感を抱くだけでは足りなくなりはじめた。

彼女を・・・壊す。
壊して・・・狂わせる。

氷のようなその言葉は、妙に心地よく心に染みていった。









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