虜 〜眠れない夜〜


 虜

3.

「うーーん。」
伸びをして壁の時計を見上げると、もう12時を回っていた。
嵐が近いのか、部屋の換気口ががたがたと賑やかに音を立てる。
期末考査が近い。
私は寝る間も惜しんで、最後の仕上げをしていた。

―第3学期の期末考査の結果にも期待している。

虚ろな意識の中で聞いた言葉を思い出しながら、私は眠気と戦う。
あれ以来学校で会う先生は、以前と何も変わらない先生で、私は少し安心していた。
優しい訳ではないけれど、聞けば何でも教えてくれる。
淋しく無いと言えば嘘になるけれど、先生が教えてくれなくなるよりはマシだった。
「・・・ふぁ。」
ふっと気が抜けて、欠伸が出る。
二発目の欠伸を噛み殺しても、頭の眠いという訴えはなかなか退けられない。
「こんなんじゃ・・・先生に軽蔑されちゃう。」
・・・軽蔑。
自分の吐いたこの言葉に、眠りかけている頭が反応した。
そして素早く身体に、あの快感を走らせる。
先生のあの眼差し。
最初に浴びせられた時は、不愉快で悔しくて仕方なかったのに、私はあの冷たい瞳に心を囚われている。
あの目に映れる事に悦びを感じる私は・・・異常なのだろうか?
じわじわと、身体が火照ってきた。
目が冴えたのだから勉強しなければと、理性が私に警告してくる。
軽く頭を振ると、ペンをとり再び数学の参考書に目を走らせた。

今は頭の中から追い出したい先生という存在が、イヤでも大きくなってゆく。
『この公式は・・・。』
すらすらと問題の解説をする薄い唇を、私はずっと眺めていた。
あの唇が、私に触れた。
熱い、激しいキスをくれた。
感じた恐怖すら、あっさりと快感に変換される。

アノヒトガホシイ。

私は椅子から立ち上がり机の灯りを消すと、さっさとベッドへ潜りこんだ。


「・・・ん・・・。」
胸の先を軽くつまむと、少し硬さを帯びていた。
指先で弄ぶと、下半身へじわじわと快感が広がる。
目を閉じ、あの日の記憶を引きずり出す。
下着越しに軽く触れると、布が軽く湿っていた。

―欲情していたようだな。

先生の言葉は、蔦のように私の心に巻き付いてくる。
そして・・・息が詰まるほど締め上げてゆく。
「・・・ん・・っ・・。」
横から手を潜りこませ、待ちきれず潤みを湛えているのを確かめる。
空いた手で、下着の上から花芯へ振動を与えた。
大きな声を上げない様に唇を噛み、ひたすら身体に快感を送り続ける。
身体をよじる度布団が擦れる音して、窓を叩く風の音に紛れた。
「・・・はぁ・・・んっ・・・。」
指を身体の中へと捻じ込む。
欲望の望むまま忠実に、身体に刺激を与えているのに・・・。

足りない。

あの時と同じように慰めているのに、身体はまだ飢えている。
瞼の裏に棲みつくあの冷ややかな眼差しを、いかに鮮明に思い出しても・・・足りない。
指を激しく抜き差しするほど、身体が急速に乾いてゆく。
あの夜、私は全てを先生に奪われてしまっていたのだ。

心も、身体も。

幸せが心に満ちる喜びも。身体が絶頂に浸る悦びも。

・・・全て。




まどろみの中、私は夢を見た。
幼い頃、家を出て行ってしまった父親の夢。
先生に出会ってから、この夢をよく見るようになっていた。

『パパ。どこに行くの?』
大きな手が、幼い私の頬を包む。
無口で、物知りな父だった。解らない事を聞けば、何でも優しく教えてくれた。
私はそんな父が大好きで、そんな父が初めて見せる悲しげな瞳に、
つられて私も泣きじゃくっていた。
『もう、お前には会えないんだ。』
溢れる涙を掬ってくれる、綺麗な長い指先。
『もう、お話してくれないの?』
『元気でな。』
大きな背中が、どんどん遠ざかってゆく。
どんなに呼んでも、二度と振り返る事は無かった。

夢の中の小さな私は、夕焼けの綺麗な公園で一人、泣きじゃくっていた。
何度も何度も声が枯れるまで、大声で父を呼び続けて。

頬には涙の跡。
私はまだ、あの時の子供のままだ。
父に似た人を探して、愛されたいと願い続けている。
ふと机の上の写真立ての中で笑う父が、目に入った。
先生と父は似ている。
見かけではなく中身が・・・というか、まとう雰囲気が似ている気がした。
「・・・好きなの。」

思わず口を突いた言葉は、私自身にも誰に言ったのかわからなかった。







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