虜 〜互いの思惑〜


 虜

4.

赤いペンで答案の右上に100と書き込む。
その下に二重線を引き、答案を裏返した。
あれで学習意欲を無くすかと思っていたが、懲りずに私の元へと質問をしに来ていたのだから、
この結果は当然の結果とも言えよう。

本日放課後、音楽準備室。

前回同様答案の裏にメッセージを書き込むと、他の採点済みの答案の山へ重ねる。
あれで音を上げられては、こちらもつまらない。
この文字を見て、彼女はまた浮かれるのだろうか。
答案を取りに来る彼女の表情は、想像がつく。
私のもっとも嫌う、媚を売るような顔。
間抜けな男には愛らしいであろうその表情が、恐怖に歪むと思うと実に小気味よい。
「・・・ふっ。」
込み上げる爽快感に、思わず笑みがこぼれる。
そんなに望むのであれば、まだ、もっと、壊してやろう。

その顔から、あの忌まわしい表情が消えてなくなるまで・・・。



「第2学年3学期、期末考査の答案を返却する。名前を呼ばれた者は、速やかに取りに来るように。」
教室内が、ざわめき出す。
手にした答案に、嘆きの声をあげる者。逆に安堵の溜息を洩らす者。
前後の席で答えあわせをはじめてみたり、点の見せ合いが始まりだすと、
生徒達の関心があちこちへ四散してゆく。
教室中の注意が散漫になる頃、丁度最後の一枚を手渡す事となるのは彼女の様子を観察するのに都合が良い。
愚かな少女の名を呼ぶと、待ちわびたように席を立ち、早足で駆け寄ってくる。
「・・・頑張ったな。」
教師としては、彼女は最高の生徒だ。
問題も起こさず、いい意味で目立っているのだから。
教師としての、心からの賛辞を口にすると、彼女の顔が綻んだ。
「ありがとうございます。」
言葉と同時に返って来た視線。

それは吐き気がするほど明らかに、私を誘っていた。


夕刻指定通りの場所に姿を現した彼女は、発情しているのを隠す事もなく、私の傍へ寄ってきた。
「・・先生。」
縋るような眼差し。欲しいと言葉に出さずとも、伝わってくる。
「・・・そんなに男が欲しいか?」
彼女は黙って頷くと、制服のタイを解き無造作に床に落とす。
上衣を脱ぎ去ろうとする彼女を目で制止する。
彼女を壁際に追いやると、鼻先が触れるか触れないかの位置まで顔を近づけた。
「ところで・・・私はそんなに、君の父親に似ているか?」

教師という立場を利用すると、彼女の生活環境は手に取るように解った。
彼女が父親と離別したのは、10年前。
ちょうど父親は、私と同じ位の歳だったらしい。
愛情に飢えながら、大人しい優等生の仮面の下に、彼女はあの夜見せたような醜い部分を隠している。
愛に飢えすぎて、彼女は狂った。
父親に愛されたいという願いが、情欲にまで歪む程に。


それを知っても、私は彼女に同情などしない。
何故なら私も・・・。


彼女の瞳が怯える。予想通りの反応に、私は笑みがこぼれるのを抑えた。
「・・・違います。」
「幼少期に欲しくて堪らなかった父親の愛情を、私に求めているのだろう?」
彼女の目つきがきつくなる。
「私は・・・先生が好きです。」
自分に言い聞かせるような言い方で、彼女は私に偽りの愛を告げる。
「嘘を吐くな。」
「・・・っ。」
言葉を返そうとする唇を塞ぎ、抗う力が費えるまで貪る。

力の抜けた唇を、引きちぎらんばかりに吸う。
私の肩へと伸びていた手は既に力を失い、ただ乗せられているだけとなった。
制服の上衣を潜り背に手を回すと、ホックを軽く弾き下着を外す。
「や・・・。」
重なる唇の隙間から、拒絶の声があがる。
「・・・私には抱かれたくないか?」
「先生が欲しいです。」
私の問い掛けに、彼女は動揺を隠した声で答える。
「・・・嘘を吐くなと言った。正直に答えたまえ。」
あれほど執拗にあの不愉快な瞳で私を見つめる彼女が、視線を逸らす。
それが彼女の心境の全てを物語っていた。
唇を噛み締め、俯く彼女を嘲笑うように、上衣を潜った手で胸の先端を弄る。
「・・・んっ。」
「言えば望むようにしてやろう。」
耳元へ口を寄せ甘く囁くと、軽く耳たぶを啄ばんだ。
彼女の身体が、小さく揺れた。
それでもまだ、顔を伏せたまま声を殺している。
「・・・まだ足りないか?強欲な事だ。」
空いた手で内腿をまさぐる。
彼女は必死で沈黙を守っては居るが、逃げ出す気配は無い。
父親の話で一旦は引いたものの、身体は快楽を求めているだろう。
しかし心は逃れたいと願っている筈だ。
相反する感情が綱引きをしている彼女の精神は、小さな衝撃を与えるだけで引きちぎれるほど磨り減っていると考えられる。

今ならこの愚かな少女に、止めを刺せる。

が、まだ物足りない。

もっともっと、正気と狂気の狭間で、彼女が苦悩する姿を見たい。
喉元まで出かけた言葉を飲み込むと、彼女のもっとも淫猥な部位へ手を伸ばす。
首筋に強く吸い付き、幾つもの朱の跡を残した。
胸元の指先を繰る度、スカートの奥へ潜らせた指先を震わす度、彼女は喉の奥で喘ぐ。
そうすればする程、自分が不利になる事に気付かぬ愚かさを鼻で笑う。
そう、この少女は愚かだ。
得られぬ愛を求めて、似たもので癒そうとしている。
自らの置かれた境遇が哀れだと酔うような姿が、不快だ。

尖る神経のまま、彼女の下着に手をかけ膝まで下ろす。
邪魔な表皮を掻き分け花芯を露にさせると、そこへ指をあてがい僅かな振動を与える。
「・・・ん・・・ぁ・・・。」
抑えていた声が、堪らず吐き出される。
それでもなお私は刺激を強める事無く、淡々と微弱な刺激を与え続けた。
醜い体液が、じわじわと溢れ出ている。
「・・・せん・・・せ・・もっと・・・。」
疼いていた身体が音を上げて、更なる刺激をねだる。
「君が欲しいのは、俺ではない。・・・違うか?」
「・・・せんせ・・もっと・・つよ・・・く・・。」
花芯はゆっくりと熱を帯び、固さを増していっている。
淫らな口から溢れ出た粘液が、太腿を伝い始めた。
「君の真意を聞いてからだ。」
「わ・・たし・・・パパ・・が・・・す・・き・・です・・。」
息も絶え絶えに、やっと私の求めていた答えを口にする。
そうだ、彼女は私を父親の身代わりにしようと求めていたのだ。
私には彼女のその罪を断つ権利がある。
彼女を虐げる大義名分を得た喜びで、口端に笑みが浮かぶのを抑える事もせず、
私は彼女の求める刺激を与えた。
「・・・あああ・・・っ・・・で、でも・・・っ・・・。」
満ち足りた叫びの中、彼女はまだ何かを私に訴えようとする。
「“でも”何だ?」
言うと同時に、蜜を溢れさせている秘裂へ指を潜らせた。
彼女は大きく息を呑み、指をくわえ込みながら内壁をひくひくと痙攣させた。
「・・・せ、せんせ・・・も・・・おなじ・・・。」
喘ぎ声に混じりながら、彼女は潤んだ瞳で訴える。
「・・・何が同じだ。」
指を根元まで埋めると、彼女は大きく息を吐く。
そして、私の問い掛けに答えた。
「パパと同じ位・・・先生も、す・・・。」
戯言を最後まで聞く前に、私は指先を激しく抜き差しした。
散々焦らされて、彼女の身体は熟れきっていたらしく、2,3度指先の激しい抽送で悲鳴のような喘ぎ声を上げる。
そして大きく背を反らせると、あっという間に果てた。




『・・・同じ位先生も好き。』
帰宅途中の車の中で、愚かな少女の台詞が耳の奥に響く。

・・・同時に、苦い記憶も蘇った。


高校1年の夏、私は恋をした。
彼女は大学生で、母の営むピアノ教室に夏休みの間だけレッスンに来ていた。
初めて会ったのは、家の玄関先だった。
夕日に照らされ艶をもつ長い髪。
大人びた清楚な顔立ち。
その姿が幾日も脳裏から離れなかった。
その時私は・・・一目惚れとは本当にあるものだと知った。

いつからか、顔を合わせる度、彼女は私に抗いがたい視線を送ってくるようになった。
それは・・・今でこそ解る。私が嫌悪する女が男を誘うような視線。
まだ青かった私は、誘われるまま肌を合わせ、それに比例して彼女への好意を募らせていった。
私は彼女に溺れた。
未熟な己の全てで、彼女を愛した。
彼女の週に二度のレッスンの後、度々逢瀬を繰り返し貪欲に彼女を求めた。
注ぐ愛と同様に、彼女も“私”を愛してくれていると、信じて疑わなかった。
しかし・・・夏の終わりに彼女から告げられた言葉は、余りに無慈悲なものだった。

―私、君のお父さんが好きなの。
 零一君・・・あの人に似てるから。

彼女は叶わぬ恋を、私を身代わりとして満たしていたのだ。
私にそう打ち明けた彼女は、ベッドの上で見たどんな表情より美しかった。

捧げた愛を否定され、女という生き物のしたたかさを垣間見た私は、涙すら出なかった。


私もあの愚かな少女と同じだ。
時を止めたまま、そこから動けずにあがいているだけ。
彼女は癒される為に父親と似た男を求め、私はあの傷を誤魔化す為に、父を愛した彼女に似た女を嫌悪している。
似ている。しかし私は、彼女を傷つけるのを止める気は無い。

彼女を虐げたいと願うのは、最早復讐心だけでは無くなってしまったのだから。







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