虜 〜彷徨う心〜


 虜

7.

進路指導以来、先生とは会話どころか目を合わせる事すらなかった。
「心の奥底が求めるものが何か」に気付いて以来、私は先生に対する気持ちを
逆に押し殺すようになっていた。

父親の代わり。
恥ずかしいことにそれは、自分より年が上の男の人であれば誰でも良かったのだった。
自分が不幸だと酔いしれてまともではなかったとはいえ、手当たり次第に異性を誘う眼差しを
振りまいていたのだと思うと、恥ずかしいような情けないような気がして、どこか遠くへ逃げてしまいたかった。
けれど・・・今までの自分から目を逸らしてしまえば、また同じ事を繰り返してしまう。
ふと、天之橋さんの寂しげな瞳が瞼の裏に蘇った。

彼の心の痛みが、彼に傷を負わせてしまった罪悪感が蘇り、心の奥にちりちりと焼ける様な痛みが走る。
ぎゅっと目を閉じて、痛みに耐えながら別れ際の彼の言葉を思い出す。

―はじまりがあれば、終わりも必ずやってくるものだよ。
 君がもし、終わりを嘆く私を哀れに思うのならば、
 私は君に何らかのきっかけを与えられたのかもしれないね。
 何故だろうね・・・それだけで、私は救われた気持ちになるよ。

私よりずっとずっと辛いはずの天之橋さんの優しさに、癒される。
こんな私でも変われるかもしれない"と思えるようになれた。
自分の中に渦巻く弱い感情を認めて、それに立ち向かう事が出来るようになりたい。
そうなる事で、きっと私は本当の意味で孤独感から逃れられる気がする。
だから今は、自分がそうなれるまで・・・先生への募る想いを閉じ込めようとしているのかもしれない。

なのに

目の前の机の上に何食わぬ顔で佇む数学の答案の裏には、残酷な言葉が書いてあった。
先生と距離を取る事で平穏を保っていた心が、まるで窓の外の風に揺れる木々の枝葉の様にざわめく。

今はまだ、気持ちを切り替えたばかり・・・。
断らなきゃいけない。

答えはもう出ているのに、何故私は行動に踏み切らないのだろう。
心臓の音が、煩く耳の奥から聞こえてくる。
まるで心の悲鳴のようなそれを止めたくて、ぐっと動悸の中心を制服の上から握り締めた。

本当は、会いたい。
会って、前と違う気持ちで先生を強く求めている事を確かめたい。
踏み出せないのは・・・

あの眼差しが、変わろうとする私を打ち消してしまいそうだから。


答案へ向けていた視線を逸らし、窓越しに空を仰いだ。
胸の上に握り締めた拳を解いて、答案を折りたたんで鞄にしまい大きく深呼吸をすると、
とりあえず心を落ち着かせようと、帰宅の準備をした。




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