海臻伝 第2幕 始動


海臻の予感は当たった。

嫌なことが起こりそうな予感。それは的中したのである。

「南皮太守の逃亡」

海臻がその話を耳にしたのは、あの月を見上げた日から4日後の事であった。

「領内には賊がはびこり、近隣には”全夜朝"を名乗る武装集団が出現した

是を聞いた太守様は洛陽に援軍を請うために出発なされたんだよ。」

平素から海臻と懇意にしている酒場の主人がそう言った。

「まぁ、二度と戻ってこないと思うぜ。家財道具も家人もみんな引き連れ

て居なくなっちまったからな」

と付け加える。

「太守様が不在?それではこの南皮はどうなってしまうのですか?

街を護る兵すら居ない有様で・・・。」

「それがな・・・一つ面白い事を聞いたんだが。劉大人、即ちあんたのお父上が

私財をなげうって、猛者を集め始めたようだ。自警団を組織するつもりらしい。

結構な人数が集まってるらしいが、知らなかったのか?」

空になった銚子を片付けながら、店主は言う。

尤もこの銚子の中身はすべて店主の腹の中に入っている。海臻は酒が飲めないのである。

「もう一本つけさせて貰ってもいいか?」

「えぇ、どうぞ。面白い話を聞かせていただけるなら何本でも」

柔らかく微笑みを浮かべながら、海臻が答える。

この店主、酒さえ飲ませておけば役立つ話をべらべらと話してくれる事を

知っているからである。もっとも店主自身も自分の癖をよく知っており

情報を売るつもりの時以外は酒を一切飲まない。

酒を追加すると言う事は、まだまだ話す事があると言うことだと海臻は認識して

奢る事を承諾したのである。

「まぁ、面白いのはここからでな。その集められた猛者の中にそりゃぁ面白い男が居るんだ

言焦の(悪たれの嵩)って奴は知ってるか?」

銚子から上等の老酒を御猪口に注ぎながら店主が問う。

海臻は頭を振ると一言「しらないわ」と答える。

「ふむぅ。案外世間を知らないんだな、海臻。悪たれの嵩と言えばこの辺りじゃ結構名の通った

男だぜ。生まれ故郷にいたときから今日まで、100以上も私闘をし負けた事は只の一度きりって男さ。

血気盛んだが、義侠心もあってなかなか人気のある奴さ。」

そこで話を切り、御猪口をぐいとあおる。なみなみと注がれた老酒を一息に飲み干すと

一度だけ息を吐き続ける。

「その悪たれの嵩、いやさ皇甫義真が劉大人の招聘に応じたらしい・・。是は凄い事だぞ。

皇甫義真が参加すると言うことは、奴を慕っている何十何百という義侠の徒が集まる可能性

があると言う事だな」

と店主がそこまで言ったとき、店の入り口に誰かが立っているのが見えた。



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