海臻伝 第三幕  遭遇


「よぉ、よく来たな。」

店の入り口にたっている男に店主が愛想よく言う。

口調からすると旧知なのだろうか?

男は店主の愛想笑いに、ほんの少しだけ笑みを浮かべると店の中に入ってくる

ゆっくりとした足取りで。

年の頃は25か6であろうか。精悍さの中に落ち着いた風が見える。

全身に薄汚れた鎧を身につけてはいるが、その鎧は見るものが見ればそれと解るほどの

業物である。背中にかなり大振りの刀をくくりつけている姿は武者修行のものか

あるいは剣客のようにも見えるが、男の持つ重厚にして落ち着いた気風は

何処かの国に仕える将軍のようでもある。

「不思議な男だ・・」

海臻は素直にそう思った。そして初めて見るこの男に好意を持った。

それは色恋事の好意ではない。人としての好意である。

そう言った感情からか男をしげしげ徒見ていた海臻に男が怪訝な顔を向ける

「なにか?」と一言。

不通で有れば一言だけを発すると言葉の印象がきつく感じられ、ともすれば反感を持つであろう

だがこの男の声はその様な悪感情を抱かせるものではなかった。

だから海臻も素直に謝罪の言葉を述べる事が出来たのである。

「失礼しました。立ち振る舞いがあまりにも見事でつい要らぬ詮索を。」

椅子から立ち上がり、目の前で手を組み合わせて謝罪の意を示す。

そんな素直な対応に当惑した男は、少々照れたような笑いを浮かべて

「某もこのような身成故、要らぬ誤解を受けて当然でしょう。気になさらないでください」

と礼をして返す。

「某は旅の者にて姓を張、名を遼。字を文遠と言うのもです。お見知り置きを」

「私は劉 海臻ともうします。お会い出来て光栄です」

曹挨拶を交わした後、二人は店主に促されて席に着く。

「老酒でいいか?」

「いや・・今日は辞めておこう。それよりも何か食べるものを頂けぬか?」

張遼はそう言うと海臻に向き直って口を開いた。

「貴方はもしや劉大人の御息女ですか?」

「はい・・・。劉慶様養女として引き取って頂きました。」

「おっと・・、是は不躾な質問をしてしまいましたな。失礼いたした。」

「いえ、お気になさらないでください。それよりも文遠様も

父の募集に応じてこられたのですか?」

「いや・・某、浪々として居る方が性にあっておるが故。

今回もふと立ち寄ったまでの事。明日にはここを発つつもりです。」

「それは残念です。如何でしょう、今夜は当家にて逗留なされませんか?

折角高名な文遠様にお会い出来たというのに、ご縁がここで終わりというのは

残念ですから・・。お受けいただけませんか?」

海臻にしては珍しいほどしつこく食い下がった。自分がこれほどまでに

執着する気質である事を知って本人も驚くほどであった。

当初は断り続けていた張遼も、海臻の根気にまけて一晩の逗留を約束した。

そのときタイミングを見計らっていたかのように料理が運ばれてくる。

できあがったばかりの料理からは湯気が立ち上り、食欲をそそる良い香りが立ちこめている。

和気藹々とした雰囲気の中でみなが箸を付けようとしたときに、新たな事件が起こった。

そう、この事件がきっかけで劉 海臻の運命は動き出すのである。

平穏を愛し、平和を望み、ただ日々愛する楽曲を奏でる事を望んでいた彼女に

戦乱というなの過酷な運命が立ちはだかる事になる・・・その予兆であった。



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