「そういえば・・・」 ゴーイングメリー号キッチン。 夕食も終わり、時間がしばらく経っている。 キッチンには、明日の料理の下ごしらえをしているサンジとまったりとくつろいでいるナミとビビが居る。 サンジが彼女たちに対し口を開く。 「何?サンジくん」 サンジの作ったお菓子を食べながら、ナミがサンジの台詞を受ける。 ビビも口にしていた飲み物を一旦外し意識をサンジに向ける。 「ん・・・そういえばさ。もうすぐバレンタインDAYだなぁと思って。オレ、ナミさんやビビちゃんに美味しいチョコレートを作ってあげるよ。それとも、チョコレートケーキの方が良いかな?何かリクエストはある?オレ、何でも作ってあげるよ」 ハートマークを飛ばしながらしゃべるサンジ。 「あれっ?サンジくん。バレンタインDAYって、女の子が男の子にチョコをあげる日じゃなかった?」 ナミが首を傾げる。 「・・・?バレンタイン・・・って、何ですか?」 とビビ。 「・・・ひょっとして・・・ビビちゃん・・・バレンタインDAYを知らない?」 サンジがビビの方に体ごと振り返り、少し驚いた顔でビビに問う。 「えっ?・・・ええっ、知らないわ。何ですか、それ?」 バレンタインDAYを知らないというビビにナミが説明をし始めた。 「バレンタインDAYっていうのはね。簡単な言っちゃうと、女の子が好きな男の子にチョコをあげる日なの」 「???・・・チョコをあげてどうするの?」 「・・・へっ?どうするって・・・どうもしないでしょ・・・チョコをあげるイコール告白ってことじゃないのかしら?」 ヴーンと少し考え悩むナミ。 「内気なレディの為にお膳立てされた日だと思うよ。1年に1度。女の子から男に告白するチャンスを与えてくれた日って考えてもいいと思うよ」 お茶のお代わりはいかが?とにこりと微笑み彼女たちに代わりのお茶を注く。 そして、サンジはそのままその場に留まる。 彼は今日の仕事を終えたらしい。 「チョコをあげるイコール告白なのね。じゃあ、何でサンジさんは私たちにチョコをくれようとするの?」 「ん?それはオレが君たちを愛しているからだよ。愛の告白付きでチョコをあげるからね」 「うそばっかり」 ナミはケラケラと笑いながらつかさずサンジに茶々を入れる。 「ナぁミさぁん。そんな間髪入れず突っ込まなくても・・・」 「じゃあ、どうして?」 ビビが更に畳み掛ける。 「と、特に意味はないんだけど・・・」 ポン! ナミが手を打つ。 「義理チョコね。そうそう、ビビ。義理チョコっていうのもあるのよ。バレンタインDAYにはね。本命の女からチョコを貰えらない、とっても可哀想な男どもが山のようにいるの。だから、優しい女たちはそういう哀れな男どもを可哀想に思って、チョコを分け与えてあげるのよ。で、そういうのを義理チョコって言うの」 「でも、オレのは違うよ。大好きなナミさんやビビちゃんに心を込めてチョコを作るから、オレの愛情込みで貰ってよ」 ニコニコと女性たちの前でサンジは語る。 「女性から男性にチョコをあげる日だっていうのは分かったわ。・・・なら、何でサンジさんは私たちにチョコをくれるんですか?」 「だぁからぁ、サンジくんのは義理チョコなの。義理よ。義理!」 ナミはそう言いながら、ピシッと腕を上げ人差し指をビビの方に突き出す。 「ちょっ、ちょっと、ナミさん。オレは義理でナミさんやビビちゃんにチョコをあげるつもりはないよ」 サンジは慌ててナミの言葉を否定する。 「あー、もう・・・言い方はが悪かったわ。サンジくんはただ純粋に私たちにチョコレートをあげたいのよね。義理とかそう言うんじゃくてね」 そう言ってナミはサンジに向かってキレイにウインクを決める。 サンジは途端に目がハートマークになった。 そして、彼女はニヤッと意地の悪そうな顔で、 「でも、半分職業病でしょ。レストランに居た頃は、毎年チョコやケーキを作っていたんじゃない?だから、つい作りたくなっちゃたんじゃないの」 ナミのウインクでメロリンラブに陥っていたサンジが我に返る。 「あらぁ・・・やっぱり、そうなんだ」 ニッとナミは笑う。 「・・・バレてる」 はははっと、力なく笑って誤魔化すサンジ。 「でも、オレとしては大好きなナミさんやビビちゃんにあげたいっていうのは本心だよ」 「どのみち、サンジくんはルフィたちにもあげるんでしょ。アンタのことだから、あげないってことはないでしょ」 ナミはそう言うとトンと人差し指でサンジの胸を押す。 「・・・確かにね。でも、愛情は君たちにしか入れないからご安心を」 今度はサンジがニッとナミに笑い返す。 「じゃあ、やっぱり、バレンタインDAYって女性が男性にチョコをあげる日で、サンジさんは今までレストランでチョコレートを作っていたら、作りたいだけなのね」 ((それは違う)) ナミとサンジはそう思ったが、口にすることはなかった。 「前半は当たっているけど、どこをどう聞いたらサンジくんが、ただチョコを作りたいだけって思うのかしら・・・」 ボソッとナミはサンジに言う。 はははっと、力なくサンジは笑う。 「あっ、ナミさん。ナミさんには、ナミさんにあげるのとは別に特別特大のチョコを作ってあげるからナミさんの本命の誰かにあげてよ」 ニヤニヤとサンジは笑う。 サンジの言葉を聞き、ナミは途端に顔を赤らめる。 「えっ?何?」 ビビがきょとんとした顔で2人に問う。 「ビビ、何でもないわ。サンジくん、いい加減なこと言わないでよ」 「あれ?じゃあ、いらないの?なら、オレの愛だけ受け取ってよ。ビビちゃんも、もちろんオレの愛を受け取ってくれるよね」 「えっ?はい。受け取ります。ナミさんは誰かにチョコをあげるの?」 「ビビ!サンジくんの戯言よ。気にしないで」 そう言うナミの顔はまだ赤い。 「えー、そんなぁ。なら、いらないの?」 わざと大げさに驚いた顔をし、それでも笑いながらナミに対し言葉を続ける。 「知らないわよ。ビビ、もう遅い時間よ。美容と健康に悪いわ。もう寝るわよ」 そう言うとナミは席を立ち、ビビを急かせる。 「ちょ、ちょっと、ナミさん。まだ、そんな時間じゃないわ」 慌てるビビ。 ナミはビビを腕を掴むと席から立たせ、ビビの腕を掴んだまま扉へと向かう。 去り際。 ナミはサンジとすれ違う時に小声で一言、 「特別特大の方も貰うわよ」 その台詞を聞いた途端サンジは吹き出した。 それでも、ナミがキッチンを出るまでは、笑いを堪えた。 ナミが扉を閉める時には、やはり声を出した笑ってしまった。 いくらなんでも大声で笑うのはナミに対して失礼だろうと、かなりの忍耐力で笑い声を抑えた。 それでも漏れる忍び笑い。 扉の外では、顔の赤いナミが嫌そうにサンジの忍び笑いを聞いていた。 そして、彼女はビビには何も言わせず、女部屋はそのまま就寝となるのだった。 人間、思い切り笑えず笑いを堪えてしまうと、どうしても笑いの尾が引いてしまう。 サンジは思い切り笑えずにいた為、テーブルに顔を突っ伏せしばらく肩を震わせ忍び笑いを続けていた。 (思いっきり笑いてェ。それだと、ナミさんに失礼だしなぁ) 笑いたいのとナミに対して失礼だという葛藤で、しばらく彼はそんな状態にいた。 いつしか、キッチンにはゾロが居た。 ゾロはテーブルに顔を突っ伏せ肩を震わせ声を押し殺して笑うサンジを見る。 彼はそんな状態のサンジをしばらく眺めていた。 「てめェ、何笑ってやがる」 しばらく眺めていた後に、呆れた顔と声のゾロがサンジに声を掛けた。 「あー、てめェか?・・・くくっ・・・何でもねェよ。酒だろ・・・くっくっ・・・」 「・・・お前、気持ちわりぃぞ。笑うならきっちり笑え。何か中途半端にだな」 ゾロは眉間に皺を寄せる。 「・・・そうだな・・・笑えたら良いんだけどな。くくっ・・・笑っちゃマズイだろ。そりゃあ、ナミさんに失礼ってもんだ」 「・・・ナミのことで笑ってんのか?・・・笑ってること自体、十分、失礼じゃねェのか?」 呆れるゾロ。 「・・・そうだよな。失礼だよな」 そう言う彼だか、目には涙を溜めあまつさえ打ち震えている。 ゾロは勝手に酒を取り出し、サンジの向かいのイスにドカッと座ると酒を飲み出した。 「そうだ、ゾロ。てめェもチョコ欲しいか?」 「何だ、そりゃ」 「くくくっ・・・何でもねェよ」 キッチンには、テーブルに顔を突っ伏せ肩を震わせ目には涙を溜め思い切り笑えずにいるサンジと、そんなサンジを酒の肴にし酒を飲むゾロが只々長い時間そこに居るのだった。 おまけ(ゾロ×サンジの場合) |