プロローグ

「ダメだわ。完璧に素性を隠してる。住所は局留、サークル参加はイベント主催の委託オンリー。確かにうまいやり方ね。でも見ていなさい。絶対しっぽを掴んでやるわ。」
 ある夏の日曜日、彼女はあたかも2時間ドラマの女検察官のように、キッと前を見つめ、腕を組みながら低く呟いた。
 確かに絵になる構図ではあるが、場所が問題である。
 ──そこは、とてつもなく混雑した、とある熱気のこもった会場であった。
「通路の真ん中に突っ立ってないでよ、おばさん!」
 背中にドンとぶつかり様、通り過ぎていった中学生らしき女の子が、何とも失礼な台詞で彼女を罵倒する。
 その瞬間、彼女の怒りは頂点に達した。
 前田淑子、2X歳。彼女は怒りが頂点に達すると、正義の味方(?)オタクイーン淑子に変身するのである(笑)。
「ふざけんな、このガキ。幽○白○も知らない新参者のくせにっ!」
 彼女が、会社でもこの場所でもお局さまの称号をいただいているのは、歳というより彼女の性格に問題があると思われる。
 普段は、一般生活に支障がない程度の常識を身につけているにも関わらず、突然ぶっちぎれ、知的でクールな編集者前田淑子は姿を消し、代わりに感情にまかせて自分勝手に行動する、クイーン淑子が、出現する。
 こうやって、彼女は今日も自分が統治するその世界にいってしまい、次の行動にでることを決定してしまったのである。
 そう、相手の都合など彼女の知ったことではない。
 これは決定したことなのだから。
 しかし、彼女は忘れていた。
 クイーン淑子は1時間程度しか地球上にいられないことを──

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